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第4話 スタコラサッサのサーカス団 ①

「生きていく方法って言ってもね……」


 ラブラミントは話をしようとするも、セディスはすたすたと歩いて行ってしまった。(女になっても中身はセディス)いや、むしろ、本人はなぜこの緊急事態で動じないのかが謎だ。

「夢じゃないのか!」と叫んで二分後、セディスは「生きる方法を考えよう」と切り替えてこうして街中を歩いているのだから、恐るべき切り替え能力。その能力で次々女性を相手していたのだろう。


「それにしても、賑やかね」


 夜だというのに、カーニバルのようなイルミネーションに、どことなく「夜」の雰囲気を強く出した街並み、それにぞろぞろと人々は街の中央に向かって歩いている。しかし、違和感を感じて、ラブラミントはセディスに追いつくと、モーニングの裾を強く引いた。


「ねえ、なんか、人々変じゃない?」

「……まともではないだろ。だいたいここはどこで、どうやって生きていくのかを考えてるんだ、静かにしてくれラブラミント」


 珍しく真面目に考えているらしい。いや、セディスはいつも真面目だ。こと、女性に関して……。


「いて」


 思い出して、ラブラミントはセディスの手をぴしゃりと叩いた。


「ちょっと見て来る」

「だめだ」


 踵を返したところ、ふわりと抱きあげられて、ラブラミントはセディスを至近距離で見つめる。元々忠誠的なので、顔はさほど変わらないが、魔女の魔法陣のせいか、どこか妖艶な美女の雰囲気を纏わりつかせているのだ。それも、中身が「男貴族で領主」という欠片も出ないほどに。


「きみは今幼女なんだよ。英国では子供の一人歩きは危ない」

「ここ、英国じゃないわよ」

「いや、英国だよ」


 ふうん?

 抱き上げられたまま見下ろすと、セディスは「僕には分かるんだ」と呟いて、空を見詰めて「ここは元の世界だよ」と繰り返した。ラブラミントにはさっぱり分からないが、領主のセディスがいうなら、そうなのだろう。


「こんな場所知らないわよ。昼と夜で街並みが変わるなんてありえないでしょ」

「カモミール領の伝説にある」

「え?」

「男と女は昼と夜で、世界が変わるのだそうだ」

「…………」


 聞いて損した。ラブラミントは息を吐くと、セディスにモノを言おうとして肩に捕まって顔を上げた。ところで、背後の集団に気がついた。

 賑やかな音楽に、びらまき。身軽そうな妖精ハルピュイのような衣装をつけた女子と、仮面をつけた背の高い男と、デブったとしか言いようがない丸々した男が玉乗りしながら行進している。


『はじまるよー! 夜のファンタジア~ みんな来てね!』


「なあに、あれ」

 玉乗りは上手いが、奇抜な一行だ。派手な原色の服を着て、行き交う人にビラを渡しているが、空しくもビラは地面に落ちて、踏まれて汚れて飛んで行った。そのうちの一枚がセディスの高そうなブーツのつま先に突っかかった。


「サーカス一団?」


 ラブラミントを降ろすと、セディスはビラを拾った。「これはいい」と指を鳴らすと、目を輝かせて見せる。


 果てしなく、嫌な予感がする。セディスが目を輝かせるとロクな事態にならないとは執事ヴァタピールの言葉だが、確かにロクな事態にはなっていない。


「一応聞くわ、セディス」


 セディスはラブラミントよりチラシに視線を注いでいたが、やがて「ここだよ、ここ」とビラを見せつけるようにして、人指し指でビラを叩いた。


 ――サーカス団長が逃げたので、団長を募集します。スタコラサーカス団一員――


(団長が逃げたサーカス団って……)


「僕のこの容姿はぴったりだと思わないか?! それに気のいい仲間だ。きっとうまくいく」

「はずがないでしょ! もういい、私はここから別行動……」


 幾分か大きくなった双眸がうるうるとラブラミントを潤んで映している。(この男、まさかサーカスが観たいだけなのでは……)嫌な予感が過ぎったが、ラブラミントは観念したように叫んだ。


「分かったわよ! 付き合うから! その気持ち悪い目、やめてっ!」

お読み頂き、ありがとうございます。

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