Lesson4 ちゃんと教えるけど
「ねぇルヴァイ」
「なに」
「あなた、何者だったっけ?」
「……………」
次の日。
またいつものようにルヴァイの所に訪れた私は、昨日の疑問をぶつけた。
ルヴァイは私の顔を見ずに、なんだか気だるそうにため息をついた。
「まぁ、そうなるよね」
「有名人なの?お父様がルヴァイを様付けで呼んでたけど……」
「…………」
じっと、真紅の目がこちらを見た。
その表情からは、ルヴァイの気持ちは読みきれない。
ただ、少しいつもと違う雰囲気に、私もそっと息を吐き出す。
「……何故か習ったような気がするのよ。でも、思い出せないの。」
「………知りたい?」
「そりゃあ知りたいわよ。」
私もその目をじっと見返す。
ルヴァイは真面目な、でもちょっと寂しそうな顔で私のことを見ている。
「………ちゃんと、教えるけどさ……」
「うん?」
何だか泣きそうな顔だ。
どうしたというんだろう。
少し、心配になってきてしまった。
「ちゃんと、教えるけど………その前に、」
ルヴァイは立ち上がって私の手を取ると、きゅっと握って、きれいな瞳で私のことを見た。
「……マリエルに、俺のこと好きになって欲しい」
「……ぅえ!?」
「お願い」
コン、と額同士が合わさる。
身体が熱い。
私に祈るようなルヴァイの、息遣いが聞こえる。
「………マリエル」
「……っはい」
「…………好きだよ。ずっと、ずっと前から。」
「……っ」
ゆっくりと額が離れて、綺麗な真紅の瞳が私の事を覗き込む。
縋るような熱いその視線に絡み取られて、私の心臓が飛び出しそうなほど脈打っている。
「……っル、ルヴァイは、私の事が好きなの?」
「うん」
「ほ、ほんとに!?」
「うん。……昨日も言ったじゃん。」
「ほ、本気、だったんだ……」
「………当たり前でしょ……」
ルヴァイは気が抜けたように笑った。
その顔は優しくて……でも、やっぱり寂しげだった。
「……できれば、また、俺のこと好きになって欲しい」
「また?」
「…………」
きゅっと手を握られる。
なんで。
なんでそんなに泣きそうな顔してるの?
「……ルヴァイ?」
「………一緒に、居てくれるだけでもいい」
「え?」
「…………何もかも知る前に、もう少しだけ、このままの関係でいさせて」
少し、ルヴァイの手が震えている気がする。
こんな辛そうな姿は見たことがなかった。
いつも飄々として余裕がある雰囲気なのに。
嫌だ。
もっと、ルヴァイには、幸せそうにして欲しい。
元気をだして欲しくて、もう少し近づいてあげたくて。
私はそのまま、優しくルヴァイに口付けた。
「そんなに心配しなくても、私は今は誰の婚約者でもないし、一緒に居るぐらいはできるわよ」
「……一緒に居てくれるの?」
「そうね。側妃回避ができて、お父様が許してくれたら、ルヴァイが私の事貰ってくれてもいいのよ?ルヴァイはよくわかんないけど何だか偉い人みたいだから、家のためにもなりそうだし。私はどうせ傷物で貰い手もいないーー」
瞬間、強く抱き寄せられた。
やっぱり、ルヴァイの身体が、少し震えてる気がする。
何だろう。
分からないけど、でも。
大丈夫だよ、という気持ちを込めて、
私もルヴァイをぎゅっと、抱きしめて、艷やかな黒髪を撫でた。
やっぱり。
やっぱり、言わないといけないだろうか。
ここまでしてくれて、こんなに想いを告げてくれて。
私が何もしないというわけには、やっぱりいかない気がする。
そう思ったら、なんだか心臓がドクドクと波打ち始めた。
ずっとずっと、自分の中で、無かったことにしていた気持ち。
いいだろうか。
もう、無かったことにしなくてもいいだろうか。
だって、だって私は。
今、誰のものでもないんだから。
何故ルヴァイに、悪女にならないといけなくなったと相談しに行ったのか。
確かに、悪女が何たるかなんて、分からなかった。
でも。
どうしてまっ先に、ルヴァイに会いに行ったのか。
どうしてこんなにあっさりと、身体に触れることを許したのか。
婚約者だった王子にすら、許さなかったのに。
そんなの決まってる。
ずっとずっと、目をそらしてきただけで。
私には貴族としての勤めがあると蓋をしてきただけで。
本当は、悪女の教育なんかよりも、ずっと。
ルヴァイに、会いたかったのだから。
「……好き」
「…………っえ」
「……………」
顔を覗き込まれたが、恥ずかしくてふい、と視線を外す。
言ってしまった。
もう顔を見れない。
必死で顔をそらす。
「………マリエル」
「なによ」
「もう一回言って」
「……………」
くっと、顔を上に向かされる。
ルヴァイの綺麗な顔が……真剣な眼差しが、熱を持って私を見ている。
「………ねぇ」
「………やだ」
「マリエル」
「やだ!」
「………お願い」
ちゅ、と私をなだめるようなキスをされる。
こん、と額が合わさる。
「マリエル」
「………………」
「……好きだよ、マリエル」
「………………………うん」
「………うんじゃなくて……ちゃんと教えて」
「……………ルヴァイが、すき」
沈黙。
本当に、やめてほしい。
恥ずかしすぎる。
静かな雰囲気にいたたまれなくなってきて、ガバっと顔を上げた。
「……………っわたしだって、ただバカみたいに何でもかんでも受け入れてたわけ無いでしょ!!」
たまらず茹でダコ状態で叫びながらルヴァイを睨みつけると、ルヴァイは泣きそうな瞳のまま、私のことを呆然と見ていた。
そんなにビックリするほどのことだろうか。
ルヴァイはしばらく無言で私のことを見つめて、ぽすっと私の肩に頭を落とした。
「……ルヴァイ?」
「……………」
「……泣いてる?」
「…………泣いてない」
そのまま私のことをぎゅっと抱きしめるルヴァイがなんだかかわいくて。
私はこそばゆいような、なんだか幸せな気持ちで、ルヴァイの温かい身体をぎゅっと、抱きしめた。
そうやって、どれぐらい抱き合ってただろうか。
ちょっと長くないかなと身じろぎし始めた頃に、ルヴァイはゆっくりと身体を離した。
少し震えてるルヴァイの唇が重なる。
柔らかくて優しくて、段々深くなっていくキスに、なんだか胸の奥がぎゅっとなった。
ルヴァイが抱えているものが何なのかは分からない。
だけど。
私が、少しでも力になるのなら。
いつも強気な貴方が見せた今日の弱さを、支えたいと思った。
読んで頂いてありがとうございます。
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とても嬉しいです!
本日夕方また投稿しようと思います!
またぜひ遊びに来てください。
様子がおかしいルヴァイ。この人一体何者なのか?
「そんなのお見通しだぜ!」「え、魔王でしょ?」という方も、
「いや全くわからん!」「マリエルおめでとう、うふふふふ」と思ってくれた方も、
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