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Lesson3 愛されてるという自覚を持て

「ちょっとルヴァイ!」


「……………」


「アホ呼ばわりは酷いと思うわ!!」


「……ほんとバカだよね、君」


「暴言男め!!」


翌日もまた同じようにルヴァイのもとを訪れた私は、昨日のアホ呼ばわりを責めたのだが、今度はアホではなくてバカになった。

……というか。


「バカとアホって何が違うのかしら」


「………」


ルヴァイが残念なものを見るような目でこちらを見ている。

良いではないか。

物事の何故を考えるのは大事なことだ。


とりあえず。

私はルヴァイがそうしたように、はぁとため息を吐いた。


「まぁ、お陰様で?私も色気が出てきたようで悪女への道がひらけたという事でいいかしら」


昨日のルヴァイの様子を見た感じ、私もだいぶいい線いってるのではないかと思う。

少なくとも、ルヴァイがガバリと…そう、あの、あんな感じでガバリとくるぐらいには、一応。

自分で言ってて恥ずかしくなってきたが。


一転何故か恥じらい始めた私を見て、ルヴァイは怪訝な顔をした。


「……悪女より天然のほうがしっくりくるけど」


「どういう意味よ」


「君こそどういうつもりなの」


「どういう?」


「………まだ、続ける?」


悪女教育のことだろうか。

そんなの、当然だ。


「えぇ、引き続き宜しくお願いします!!」


「………ほんとさ……」


「え??」


「……なんでもない。君がそれでいいなら、大丈夫だよ」


「そう?ありがとう。案外夜会まで時間ないし、今日も宜しくお願いします!」


「…………わかった」


ルヴァイは同意を示すと、少しなにか考える素振りをして、私の前に立った。


「……君の悪女らしさは、まだ足りない要素がある」


「え!?」


こんなに頑張ったのに、まだ足りないというのか。

もっと色気をムンムンに出さないとだめ?


「……また変な方向に考えてるだろ」


「ばかね。ちゃんとお色気ムンムン大作戦について真面目に考えてるわ」


「それが変な方向なんだって……」


「え!?」


まさかの不正解だった。

びっくりしてルヴァイを見ると、ため息をつかれてしまった。


「……やたら色気があるだけなんて、ただの変態だろ」


「へ、へんたい!!??」


まさか自分が変態呼ばわりされる日が来るなんて。

ショック過ぎて立ち直れない。


「ルヴァイ様、私はどうすれば……」


「わからない?」


「わ、わからない……」


「自信だよ」


ルヴァイは真っ直ぐな目で私に言った。


「自信……?」


「どうせまだ自分のこと『可愛くない』『細長い』『冷たい』『凹凸がない』『愛らしくない』女だとか思ってんだろ?」


「だって事実じゃない!」


私を表す的確な言葉を並べられて涙目になる。

どうせ私は魅力のない女だ。


「アホか」


「更に暴言上塗りしないでよ!」


「煩い。それ全部勘違いだからね」


ルヴァイがぐっと私の手を引く。

そのままぽすっとルヴァイの胸元に収まってしまった。

想像以上にしっかりした感触にドキリとする。


ルヴァイは、くっと、私の顔を上に向かせた。

至近距離で見たルヴァイの顔は、思ったより真剣だ。


「マリエルは華奢で、凛としていて、気品があって、スラッとしていて、すごく……綺麗だよ」


「……っ」


「それなのに、内面は明るくて強くて一生懸命で努力家で……天然で面白くて……めちゃくちゃかわいい」


「な、なに、言って……」


真面目な顔をしたルヴァイの口から想像を絶する褒め言葉が並んで、思わず狼狽える。

ルヴァイは私の頬を撫でると、はぁ、とため息をついた。


「もっと愛されてるなって自覚しなよ」


「あ、あい!?」


「悪女なら、自信満々に愛されてるなって自覚してないと。」


「自覚………」


何ということだろう。

そんなの私にあるわけがない。


「………愛されてる自覚なんて……いちばん自信 ない……」


「なんで?」


「だって、つい先日、隣国の小娘に婚約者を奪われたところなのよ」


「クズ男の話は止めろ」


強い口調にビクっとする。

不機嫌なルヴァイの目が怪しい熱量で光った。


「マリエルは十分俺に愛されてるだろ」


「は!?」


「ばかなの?」


グイ、と頭を引き寄せられ、間近で強い視線で見つめられる。


「愛してもない女にこんな事しない」


「っえ!?」


「まさか俺がなんの下心もなくこういうことマリエルにしてるとでも思ってたの?」


耳の下辺りで私の頭を支えるルヴァイ大きな手の親指が、するっと私の頬をなぞる。

少し苛ついたような様子の顔が近づいて、またふわりと唇が重なった。

怒ったような態度とは真逆の優しいキス。


混乱の中、何度も重なる口付に、やっぱりふわふわしてきてしまった。


何?さっき、なんて言った?

愛されてる…?

誰が?

私が、ルヴァイに?


ルヴァイがちゅっと唇を離して、私の顔を覗き込む。


「………マリエルからもしてよ」


「わたし、から?」


「うん」


ぽーっとしたまま、ルヴァイを見る。

さっきとは違う、とろりとしたルヴァイの顔から目が離せない。

ルヴァイの唇に自分のを重ねる。

ふわふわする。

名前を呼ばれて、ルヴァイの魔力で、体の芯が熱い。


そのまま私達はぽすっとソファーに沈み込んだ。

怪しい雰囲気満載のルヴァイが、背もたれに身を預けた私に、覆いかぶさる。

待って、これではまた昨日の二の舞いだ。

私はふらつく理性を叩き起こした。


「……っ待ってルヴァイ!」


「なんだよ」


「ちょっと落ち着いて!!」


「俺は落ち着いてる」


全くそんな風には見えない

ルヴァイは妙にギラギラした…文字通り光った目をしている。

私も学んだ。

どういう仕組みか分からないけど、この目の時はルヴァイの感情が高ぶってる、危ない時だ。


その証拠に私をソファーに縫い止める腕の力は強く、怪しい視線と表情は、今にも私を頭から食べそうな勢いだ。


まずい。

何だろう。

私の本能が危ないって言ってる。

何か、何か打開策は………


そして気がついた。



そう、私は。


私は悪女!!!



私は一息深呼吸をすると、努めて妖艶に、努めて美しく、努めてしなやかな感じでルヴァイの頬に手を滑らせた。


「……そんな猛獣みたいな顔してると、怖いわ」


「……っ!?」


「いつものちょっと冷めてるルヴァイのほうが落ち着くんだけど?」


ルヴァイは呆気にとられたように目をパチパチしている。


かわいい。


「……っふふ」


「………成長しすぎじゃない?」


「学ぶのは得意なの」


ニヤリと妖艶に笑って見せる。

ドヤ顔では……ないはず。

多分。

ルヴァイが変な顔してるけど。


とにかく。

ルヴァイはさっきまでの怪しい雰囲気を霧散させた。

成功だろうか。


ルヴァイは、はぁとため息をつくと、身体を起こした。


「……悪女教育の成果が出ているようで良かったよ」


「ふふふ、お陰様で立派な悪女になってきたみたいで嬉しいわ!」


そこまで言って気がついた。

これでほんとに側妃回避ができるんだろうか。

お前は不要だと言われるような悪女になったのだろうか……?

今の自分がロクサリーヌ様の背後に立つ姿を想像する。

心なしか色気は増したかもしれないが、当初思っていたような側妃にできないほどの悪女感はまだ無い。


「……私、まだなんか足りないよね?」


「なにが」


「そうか、悪い感じ?倫理的に反するような悪いこともしないとだめよね……?」


「…………」


どんな悪さをすればいいのか頭を悩ます。


「家がお取り潰しにならなず、悪女にピッタリの悪さって何かしら………」


「……それは君には無理だと思うよ」


「えっなんでよ!!」


「何人もの男を手玉に取るとかできないでしょ」


「っな、ななななんにんも!??」


衝撃だ。

立派な悪女ってそんなに酷いの?

私……私が……そんなことしたら………


お父様の悲しむ顔が頭に過り、絶望する。


無理だ、そんなこと、できない。



ルヴァイは、はぁとため息をつくと、私を立ち上がらせた。


「……大丈夫、このままで側妃回避はちゃんとできるよ」


「………ほんと?」


「悪女と魔王で、夜会に行ってもいいなら」



思ってもみなかった提案にびっくりする。



「ルヴァイがエスコートしてくれるの!?」


「当たり前でしょ」


「っでも」


「なに。他の男と行くつもり?」


またギラリと目が光った気がした。

これは。

これは危ないやつ!!

返答に細心の注意が必要なやつだ!


「……っもちろんルヴァイ様と一緒に行きます!!!」


「だよね、良かった。」


そしてくっと私の腰を抱き寄せると、近づいた私の頭に、ちゅ、と口付けた。

甘い。なんかすごく甘い。

そんなルヴァイの様子にふわふわしていたら、ルヴァイはなんだか少し切なげにふわりと笑った。


「……じゃあ、今日はこれから君の家に行こう」


「え!?うち!?」


突然のお宅訪問だ。

ちなみに今までルヴァイが我が家に来た事は一度もない。

幼馴染みなのに、なんだかちょっと変だけど。


ルヴァイは、びっくりしている私の頭を撫でて、少し乱れた私の髪を整えた。

さっきとは違う、なんだか少し寂しそうな顔で笑っている。


「もう夜会は今週末でしょ?なら早く俺がエスコートするって言わないと。」


「確かに、そうね……でも、ほんとにいいの?ルヴァイあんまり夜会とか好きじゃないって……」


「マリエルが一緒に行ってくれるなら何度でも行くよ」


「そ……そう………」


なんだか甘い雰囲気に思わず赤面する。

私が、ルヴァイと、夜会に。

想像しただけで照れくさい。


なんだかちょっと照れてる私を見て、ルヴァイはふわりと優しく笑った。

何だろう。

これまでの雰囲気と違って、何だか……少し、切ない感じが交じっている気がする。


少しの違和感を持ってルヴァイを見上げると、優しく腰を抱き寄せられた。


「じゃあ行こうか。いい?」


「う、うん」


そして、パチン!と音がして家のエントランスに着いた。


待って待って、転移だと展開が早すぎる。

心の準備をする暇もなかった。

しかも目の前にちょうどよくお父様がいる。

お父様はぽかんとした顔をしている。


「久しぶり、伯爵。」


「……っルヴァイ様!?」


「今週末の夜会、俺がマリエルと行くから」


「は!?」


「いけない?」


「……っいいえ!もちろん大丈夫でございます!」


顔面蒼白なお父様が瞬時にOKを出した。

というか。


「ルヴァイ、お父様と知り合いだったの?」


「まぁ、そうだね」


ふぅと息を吐くと、ルヴァイは私のおでこに軽くキスをしてふわりと笑った。


「じゃあ今日はこの後やる事あるから帰るね。また明日。」


そしてあっという間にパチンと消えてしまった。


嵐が去って静まるエントランス。

真っ白なまま固まったお父様。


「………ええと、お父様?」


「……っは!!!」


息を吸うのも忘れていたのか、ゼエゼエハァハァし始めた。

大丈夫だろうか。


首を傾げていたらすごい形相で手を掴まれてエントランス近くの応接室に連れて行かれた。

人払いされ、バタンと扉が閉められる。


「……っお父様!?」


「っおおお前!何がどうなってルヴァイ様と夜会に行くことに!?」


「え?」


何でこんなに慌ててるのかよく分からないけど、とりあえず説明を試みる。


「悪女が何たるかを教えてもらってたら、流れで。」


「は?いや、待て、意味がわからん!!!」


白を通り越して今度は真っ赤になったお父様に肩をゆさゆさされる。


「お前いつからルヴァイ様と関わりがあったんだ!?」


「………え?」


いつから?いつからだっただろう。

正直良く覚えてない。


「私達、幼馴染みでしょ?」


「お、幼馴染み……?」


「そう、だからいつでも屋敷に来ていいよって、ほら、ここに転移の魔法印もくれたし……」


そう言ってお父様に手の甲の魔法印を見せると、お父様は驚愕の表情となり、今度は真っ青になった。


「………お父様?」


「…………っ、いや、わかった、大丈夫だ……」


お父様はそのまま放心したようにドサリとソファーに座った。

沈黙。

コチコチと、応接室の時計の音が聞こえる。


暫くして、お父様はぽつりぽつりとつぶやくように、口を開いた。


「……マリエル、ルヴァイ様に初めて会ったのは、小さい頃だったのか?」


「え?えぇ、多分。物心ついた頃にはルヴァイの屋敷で遊んでたと思う。」


「………その印を貰ったと言ったが……いつ貰ったんだ?」


「それも子供の頃だわ。」


「…………貰ったときのこと、覚えてるのか?」


「………?覚えてないかも。まだ小さかったのかな」


「……………」


何だというのだろう。

お父様が何をそんなに驚いているのか分からない。


また顔を上げたお父様は、なんだか切ないような、優しい顔をしていた。


「……マリエルは、ルヴァイ様が何者か知ってるのか?」


「え?『魔王』って呼ばれて山に住んでる変わり者でしょ?」


「………王子妃教育で習っただろう?」


「……………え?」


そう言えば。

習ったような気がする。

確か、この国の成り立ちの話だ。

だけど、何だか……霞がかかったように思い出せない。


「……あれ?」


「……………無理に思い出さなくていい。」


お父様は妙に優しい顔でソファーから立ち上がると、ぽんと私の肩を叩いた。


「……大丈夫、取り乱してすまなかった。何も悪い事はない。お前にとっては良い事なんだろう。………今日はもうゆっくり休みなさい。明日もまたルヴァイ様のところへ行くんだろう?」


「え、えぇ、そうね……」


「なら、休んだほうがいい」


そうしてやんわり部屋に送り届けられた。



ぽすっとベッドに座り、パタンと倒れる。


「………え?ルヴァイは、何者だっけ……?」


手の甲の魔法印を見る。

肝心な何かが思い出せない。


私達は幼馴染み。

だから、小さい頃に、魔法印をもらったんだよね?

じゃないと、いくら窓からルヴァイの住む山が見えるからって、簡単に遊びになんて行けないんだから。

特に、子供なら尚更だ。

だから、私は、子供の頃から、魔法印の転移魔法で、ルヴァイの屋敷を訪れていたはず。

そう、それで、一緒に遊んで………


ルヴァイの小さい頃。

どんな子だった?

何して遊んだ?

いつ、魔法印をもらった?


一生懸命思い出そうとした。

なのに、何一つ思い出せない。

どうして……?



ただ一つ分かったのは。


そう言えば、こんな魔法印を持っている人を、身近で見かけたことが無い……という、当たり前のような事実だけだった。


読んで頂いてありがとうございます。


「面白い!」「続きが気になる!」「えっ何者!?」と思ってくれた方、

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