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Lesson2 俺の目見て

「よろしくおねがいしまーす!」


「………」


翌日。

再び悪女教育を受ける為にルヴァイの所に訪れたのだが。

早速残念そうな顔をされてしまった。


「……何か間違ったかしら」


「悪女になりたい奴が、『よろしくおねがいしまーす!』って、元気でいい子な感じの挨拶するの、なんか変じゃない?」


「……言われてみれば………」


難しすぎる、悪女。

じゃあなんて言えばいいのか。

しばし考えて口を開く。


「よろしくお願いしますわ?」


「………言葉遣いの問題じゃないだろ……」


「えっ違うの」


「………態度とかさ……」


「態度………」


私は自慢の艷やかな長い髪の毛をバサァとやってニヤッと笑った。


「よろしく頼むわね?」


完璧だ。

物語の正義の悪女、キャサリーンそのものだ。


「……………本気でやってるの、それ」


「え?本気だけど、何か違った?」


「………君はいつものままでいい」


「そう……?」


キャサリーンは完璧な悪女だったが、私がやると何か違ったのかもしれない。

よくわからないが、普通にしてたほうが色気が出るのだろうか。

首を傾げていると、またルヴァイがはぁとため息を吐いた。


「ていうか、なんでまた来たの」


「え?なんでって、悪女教育の続きよ」


「……それ、まだやる気なんだ」


「当たり前じゃない!目指せ側妃回避よ!」


まさかルヴァイは先生から降りようとしてるのだろうか。

そうだとしたら困る。

やはり教わるのであればしっかり姿勢は見せなければ。

悪女らしくないかもしれないけど。


「師匠!よろしくおねがいします!!」


私はビシィ!とお辞儀をした。



沈黙。

なぜ。

私は困惑しつつもちらりと顔を上げてルヴァイの様子を伺った。

ルヴァイはなんとも言えない顔でこちらを見ていた。


「………嫌じゃないの」


「なんで?こっちが教えてもらってるのに?」


「…………………」


何故か真顔のような、何か考えてるような雰囲気でこちらを見つめられる。

紅い目が、またゆらりと光った気がした。


「………王宮の夜会、行くんだよね?」


「そう。それまでに立派な悪女になって、お前なんていらないって、エルナルド殿下に言わせたら勝ちね」


「もうそのクズの名前、口に出すな」


思ってたより強い口調になったルヴァイの目が、さっきより紅く光った気がして、思わず目を奪われる。


「目の前の男に集中しろ」


「……っはい」


ゆらりと立ち上がって私の目の前までやってきたルヴァイの圧が凄い。

怪しく光る紅い目が私を覗き込んでいる。

そして、悪女教育のためなのか、いつもより色気のある感じで私の手を取った。


「……夜会に行くなら、ダンスでもしようか」


「ダンス!!それなら得意だわ!!!」


「へぇ、ほんとに?」


「ふふ、舐めないで頂きたいわ」



ルヴァイがまた悪女教育に乗り気になってくれたみたいで良かった。

それに、運動全般には自信がある。

ほっと胸を撫で下ろした。



だがしかし。

世の中そう甘くはなかった。


自信満々だった自分を小一時間問い詰めたい。

もう一度確認しよう。

これはダンス教室ではない。

悪女教室なのだ。


私の手を取るルヴァイの表情が妙に色っぽい。

熱と甘さを宿した紅い瞳と目が合うだけで心臓が跳ねる。

この男、どこにこんな力を隠し持っていたのか。

今までの乱暴な様子の幼馴染みはどこへ行った。

こんな態度も取れるだなんて聞いてない。


「なぁ、全然目合わないけど」


踊りながら顔を覗き込まれる。

今回は見つめ合う特訓なのだろうか。


「……っ無理!!!」


「悪女のくせに目も合わせられないとか、ないだろ」


「そ、そうかも、ですが……!!」


「国の未来の為に頑張るんじゃなかったの?」


「〜〜〜〜〜っ」


羞恥に悶て踊りながらルヴァイの顔を見る。

ルヴァイは目が合うと、とろりと優しく笑った。


「〜〜〜っ無理!!!」


「あのなぁ……」


ルヴァイはまたため息を吐くとステップを止めて、何かを指さした。


「カーテン見て」


「はい」


「見れた?」


「うん」


「次、俺の目見て」


「……っはい!!いいえ!むり!!!」


「…………なんでだよ」


「だって……!!!」


カーテンを見る目があるなら、普通にルヴァイの目だって物理的に見れるだろうってことなんだろうけど。

ちらりとルヴァイの顔を見てもう一度俯く。

うん、やっぱり。


「無理よ!!」


「なんで」


「あなた無駄にキレイな顔してるんだもの!!」


「………へぇ」


からかうような、甘さを含んだ声にビクリとする。

これは。

顔を上げたらいけない気がする。


「……君も意外と美意識は持ってたんだ」


「そ、それぐらいはあるわよ!」


「見慣れた幼馴染みの顔なんてどうでもいいのかと思ったよ」


「見慣れた顔なのに表情が違うもの!!」


「当たり前だろ」


「当たり前……?」


ルヴァイがクックと上機嫌に笑う声が聞こえる。


「悪女の隣の魔王が色気で負けてどうすんだよ」


「……なるほど!!!」


確かにその通りだ。

素敵な悪女の隣にぼんやりした魔王とか、面白いけど悪女感は半減だ。


「……だからさ、さっさと見慣れて。」


ルヴァイはクイっと私の顔を左手で持ち上げた。

想像以上に色気のある顔が間近にある。

やっぱり今も、ルヴァイの真紅の瞳が光ってるように見える。


「ほら、ちゃんと俺の目見て」


「は、い………」


光る瞳に目を奪われて、今度は逆に視線が外せなくなった。

珍しい、ルビーのように紅い目。

透き通るような深い紅に、吸い込まれそうになる。


「………うん……君さ」


ため息とも吐息とも分からない息を吐きだして、ルヴァイは私の頬をすり、と撫でた。


「……もうちょい色気足そうか」


「わ、悪かったわね色気がなく――」


ふわっと唇が重なった。

優しくて柔らかくて、ふわふわとした気持ちになる。


……キスが、こんなにふわふわとして幸せな気持ちになるなんて、知らなかった。


頬に添えられたルヴァイの手が、私の頬を優しく撫でる。

幸せなんだけど、何だか胸がキュッとして、その気持ちを逃すように、ルヴァイの服をキュッと掴んだ。


しばらくして、ゆっくりルヴァイが唇を離す。

それから、ルヴァイが私の顔を覗き込むのを、ぼんやりと見上げる。


「………マリエル」


「……っ!?」


珍しく名前を呼ばれた。

昔、ルヴァイに魔法印を付けてもらった左の手の甲から、体中に何か駆け巡って、じわりと熱くなる。

ルヴァイのとろりとした熱い視線に意識を絡め取られる。


「宿題の成果見せてよ」


「しゅ、くだい……」


吐息が混ざる距離で囁かれる。


「ほら」


「………あ、の……」


「マリエル」


ルヴァイが名前を囁くたびに魔力で身体が芯から熱くなる。

思考が魔力の熱で溶けていくようだ。


私はルヴァイの服をつかんだまま、ほんの少し背のびをすると、恐る恐るルヴァイと唇を重ねた。

柔らかい感触にドキリとする。


「ど……うでしょう………」


「………………」


とろりとした紅い目と目線が合ったと思ったら。

もう一度、とろけるように口を塞がれた。


なんだこれ。

わけが分からなくなってきてフラフラする。

ただ、キスにも色々あるんだな、優しくて幸せな気持ちになるんだなって、ぼんやりとバカみたいな事を考えていた。



気づいたらルヴァイと並んでソファーに座っていた。

肩に腕がまわっていて、頭を撫でられている。


「………?」


「……出たじゃん色気」


「!!」


やった!宿題成功か!

なんだか嬉しくなってルヴァイを見上げたら、また残念そうな顔をされた。


「……君さ……ムードってもの知らないの」


「え?」


なにか間違えただろうか。

ルヴァイが仕方ないなみたいな顔でワシャワシャ私の頭を撫でた。

……なんだか全てが許されるようで、気持ちがいい。


とろりとした気持になって、甘えるように目を閉じる。

少し、撫でる手が優しくなった。


「ねぇルヴァイ」


「なに」


「さっきは何で名前呼んでくれたの?」


頭を撫でる手がピタリと止まり、ルヴァイが黒髪の間から紅い目で、ちらりと私を見た。


「なんかね、前に手の甲にくれた、この屋敷に来れる転移の魔法印あるでしょ?あれ、ルヴァイに名前呼ばれたら温かくなったよ?」


「………あぁ」


ルヴァイは私の左手を持ち上げると、手の甲をするりと撫でた。

繊細な感じの、黒い蔓薔薇のような美しい印が浮かび上がる。

ある程度の近さだったら、魔法印を撫でて願えば、この山の洋館に転移できるという魔法印だ。

昔仲良くなった時に、いつでも来ていいとつけてくれたのだ。

ちなみに普段は消えていて見えないのだけど、自分で出そうと思って撫でるとふわっと出てくる。

便利。


ルヴァイは魔法印をゆっくりと撫でながら、ポツリと呟いた。


「……名の力は強いからね」


「そうなの?」


「うん。俺の魔力が印を通して流れちゃうから……あまり呼ばないようにしてた。」


なんだか妙に真面目な顔で私のことを伺っている。

よくわからない。


「………もっと、呼んでもいい?」


「え?いいよ?」


「……嫌じゃない?」


「ルヴァイの魔力が私の身体に流れて、あったかくなるだけでしょ?全然嫌じゃないわ。」


「………その分、マリエルからの魔力も俺の身体に来ちゃうけど」


「?構わないわ??」


そんなことで名前呼ばなかったんだな、と不思議に思う。

魔力が流れるて温かくなるぐらい、どうということはない気がするけど。

あぁ、でも、確かに、ルヴァイ以外の人の魔力も流れてきていいかと言ったら、それは嫌かな……?

首を傾げていたら、ルヴァイは魔法印のついた私の手にするっと自分の指を絡めた。


「……………マリエル」


「……っ」


ぽわっと魔法印が光り、身体中が温かくなる。

しかもさっきよりずっと温かい。


「……っなんでさっきより温かいの?」


「……俺の状態とも連動するから」


「ルヴァイの?」


ルヴァイの顔を見ると、ルヴァイはとろりとした顔でこちらを見ている。

そしてやっぱり紅い目が光ってる気がする。


「ル、ルヴァイ?」


「…………マリエル」


「ひゃ!?」


ポワッと光った魔法印。

ルヴァイはおもむろに私の手を持ち上げると、魔法印が光る手の甲に口付けた。

あまりの色っぽいルヴァイの様子に目が回りそうだ。


「わ、わかったから!貴方が私と違ってちゃんと色気がある人だってわかったから!」


「………マリエルも」


ホワっとまた身体が熱くなる。

ルヴァイの魔力が身体を駆け巡る。


「マリエルも……ちゃんと女の顔できるんだね」


「えぁ!?」


どさりとソファーに押し倒される。


これは。

これはやばいのでは!?


「ルルルルルヴァイ!?!」


「……マリエル」


「ちょ、ちょっと!ちょっとまっ…」


する、と頬を撫でられる。

身体がルヴァイの魔力で熱い。


こんな、こんな待って、だって、なんで……


嫌じゃない。

だからこそ。

私はこんなにはしたない女だったのだろうか。


混乱して慌てて、じわりと涙が浮かぶ。


ルヴァイが突然ハッとして、びしりと固まった。


沈黙。


まんじりとも動かない。


しばらく静かに時が流れる。


「………ルヴァイ?」


「……………うん」


「……どうしたの?」


「……………………うん」


ゆっくりと身体を起こしたルヴァイは、ソファーに座り直すと視線を外して俯いた。


様子がおかしい。

どうしたっていうんだろう。


でも。

私は知ってる。

ルヴァイは辛いことがあると、黙る。


なんだかその様子が見ていられなくて、私も起き上がってルヴァイの横に座り、ルヴァイの艷やかな黒髪を優しく撫でた。


「………ごめん」


「え?」


「……………やりすぎた」


さっきの事かな。

妙にしおらしく反省したルヴァイが、なんだかかわいい。


「ふふ、大丈夫だよ。」


「……泣いてたじゃん」


「あぁ、それは……ちょっとビックリして混乱したというか……」


何と言って慰めたらいいんだろう。

少し考えたけど、よくわからない。

よくわからないから、ストレートにそのまま言うことにした。


「むしろ嫌じゃなかったからさ、そんなふしだらな自分が嫌だったんだよ。ルヴァイが嫌だとかは全然なかったから大丈夫。」


「…………っアホか!」


「は!?」


まさかの暴言。

酷すぎるのではないか。


「何よ!優しくしてあげたのに!!」


「だからアホなんだよ!」


「はぁ!?」


「もうちょい自覚しろ!」


「なにそれ!?意味分かんない!」


「……っもう帰れ!」


パチン!と音がして、また屋敷の自分の部屋の中に帰ってきてしまった。


魔法印がいつもよりなんだか温かくて、妙な気持ちになった。


読んで頂いてありがとうございます。

赤い目が光ると我を忘れる魔王様のようです。


「面白い!」「ニヤニヤしちゃったぜ!」という方も、

「悪男教育も受けてみたい」という方も、

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