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Lesson* また、来ようね

キラキラと光る、美しい砂糖菓子が散らばったアイスクリーム。

昼下がりの柔らかな日差しの中で、初めてルヴァイと街へ遊びに出かけた、あの時の事を思い出した。


あれは、まだルヴァイが、700年とちょっとも生きた魔王だなんて知らなかった時だった。

お互いに想いを交わし合って、晴れて恋人同士になってすぐ。

なんかお腹すいたし遊びに行こうって、ルヴァイの転移で街へ降りたのだった。





「美味しそう〜〜〜!!!」

「で、どれにするの」


「決められないわ……!!」


柔らかな日差しの、街の大通り。

石畳が綺麗なこの街のメインストリートには、人気の服屋やアクセサリーを売る店、レストランにマッサージ屋まで、沢山のお店が並んでいた。


「サファイアトッピングも美味しそうだし、カラフルティアラもかわいい!!迷う!!!」


ちなみに宝石屋さんではない。

宝石屋モチーフのアイスクリーム屋さんだ。

クリーミーで濃厚に絞り出されたアイスクリームの上に、宝石のような砂糖菓子。

それはキラキラと輝いて、とても美味しそうだった。


「どっちも……食べたい……!!」


究極の選択に決められずにいたら、ルヴァイがやれやれと笑った。


「おじさん、両方ちょうだい」


「え!?」


「あいよー!まいどありー!!」


キュートなアイスとは真逆な雰囲気の、日焼けしたムキムキのおじさんが盛り付けをし始めた。

なぜアイス屋がこんなにムキムキなのかとびっくりしたが、本業は畜産だそうだ。

なるほど。


そうこうしているうちにアイスを受け取ったルヴァイは、一つ私に差し出した。


「はい。半分こしたら両方食べれるでしょ」


「は、半分こ!!?」


これは直に口をつけて食べるタイプのアイスだ。

そんな食べ物を人とシェアするなんて考えたことがなかった。


ビックリしていると、ルヴァイがニヤッと笑った。


「あれだけ俺とキスした悪女が、今更間接キスが恥ずかしいとか言わないよね?」


「もももももちろんよ!」


赤面しながら一口食べる。

早く熱くなった身体を冷やしてほしい。


「………何味かよく分からないな……」


サファイアトッピングを食べてるルヴァイが怪訝な顔をしている……気がする。

何故『気がする』なのかというと、ルヴァイは今日は暗い色のメガネを掛けていて、表情がよく分からないからだ。

紅い目は目立つとかで、あまり見られたくないらしい。


「………何だろう、ルヴァイ、ちょっと遊び人ぽいね」


「……は?」


スラッとした長身にシンプルなシャツを着崩した街の人スタイル、そして色付きメガネ。

似合いすぎてるし、だからこそ遊び人っぽい。


「俺はこの長い人生の中で不誠実なことは一度もしたことが無いぞ」


「ふふ、なに真面目な年長者みたいなこと言ってるのよ」


大真面目なルヴァイが面白くて、思わず笑ってしまった。

ルヴァイが何だかじっとりとした目で私を見ている……気がする。


「わかったわかった、ルヴァイは誠実な人です。多分。」


「………マリエルにはちょっと怪しかったかもしれないけどさ……」


「ふふ、確かに」


「……………信じてもらえるように頑張るよ」


「魔王が誠実さを極めようとするなんて、なんか面白いね」


きまりが悪そうにしているルヴァイが面白くてクスクス笑っていると、手に持っていたアイスを横からパクリと食べられた。


「溶けるよ」


その行為が妙に恋人同士な感じがして、下がってきていた体温がまた上がってしまった。

ただでさえ最近は遠慮なく名前を呼ぶようになったから、魔力の力も手伝って余計に熱が冷めない。

そしてそんな私を見て、ルヴァイが満足そうなのが悔しい。


「………やっぱり遊び人っぽい」


「なんでだよ」


「だって、なんでそんな色々慣れてるのよ」


よくよく考えてみれば本当に疑問だ。

……昔、恋人がいたこともあったんだろうか。

アイスを食べながらルヴァイを盗み見ると、ルヴァイもなんとも言えない顔でこちらを見ていた。

この間から少しだけ見え隠れする、少し寂しそうな顔。


「………後で話すよ」


「………気になる」


「アイス溶けてるよ」


「!!!」


ティアラが乗ったアイスがどろどろに溶けてきて大急ぎで食べる。

甘くて美味しいけど、なんとなく気になる気持ちで、モヤモヤしながら食べた。


なんでこんなに、と思って気がついた。

そっか。私。

ルヴァイのこと、結構好きなんだな。


あの王子を取られてもなんとも思わない……というか、スッキリしたぐらいだったのに。

たったこれしきでモヤモヤできるなんて、私も相当だなと思う。


「次何しようか」


「そうだねぇ」


ルヴァイが急にどこか出かけたいと言って出てきたから、ほとんど無計画だ。

辺りを見渡していたら、露天の前でわーんと泣いている子供が見えた。


「あの子、どうしたのかな?」


「あぁ、石当て屋にやられたんだろ」


「石当て屋?」


「石が景品に当たって倒れたら景品をもらえるんだけどさ。大抵景品の底と、置いてある棚がくっついてる」


「最低ね……」


「そうじゃない良心的な店もあるんだけどね」


「………よし」


「………マリエル、悪い顔してるよ……」


私はニヤリと笑ったまま、石当て屋に向かった。


「おじさん、私もやってもいい?」


「もちろんさ。何回分やるかい?」


「そうね。5回でいいかしら」


「まいどありー!石を当てて倒れたら景品。倒れなかったら何もなしだ。いいね。」


優しそうな顔して笑うこの店の店主。

こんな顔して汚い真似をしてるなんて許せん。


私は近くでべそをかいてる男の子に話しかけた。


「僕は何欲しかったの?」


「……あの馬のおもちゃ……」


「あれね。いいわね。大物だわ」


私は男の子の頭を優しく撫でると、石を構え、投げた。


ピシィ!と音がして馬のおもちゃが倒れる。


「なっ……」


「案外簡単に倒れたわね。そちら頂けるかしら?」


「……っこれは」


「あら。底に釘が刺さってるから、新しいのを下さいね」


景品として展示してある立派な新品を手に取り、男の子に渡す。


「はいどうぞ」


「ありがとうお姉ちゃん!!!」


私はニコリと笑うと、また景品の的へ目線を向けた。


「さて、大きいのから順に当てていこうかしら」


「いや、ちょっと……これ、子供向けの遊びですんで、お嬢さん」


「あら、そんなこと看板に書いてあったかしら?」


ニコリと店主を微笑むと、店主はイライラしたような嫌な笑顔でこちらを見ていた。


「……手荒な真似はしたくないんですよねぇ」


露店の裏から人相の悪い男たちが3人ほど現れた。


「おやおやべっぴんさんじゃねぇか、俺達と遊んでくれるのかい?」


……雑魚め。


私は残った当て石4つを全て景品に投げた。

パンパンっと強い音がして、全ての景品が倒れる。

……どれも底に釘付きだ。


「あなたたち、こんなセコい商売してて恥ずかしくないの」


「何だと!」


「もっと儲かる仕組みになさい。セコくもなく金も入りみんなに感謝されるわ。警備隊にも捕まらない、クリーンでウハウハの仕事のほうが良くない?」


「それは……そうだが………」


私は棚の商品をざっと見た。


「いいこと?一回の石の料金よりもずっと安い景品と、びっくりするぐらい高い景品を準備なさい。高いものは倒れにくく、集客力があるもの。それから、安いものはバンバン倒れるような軽いものにするのよ。ポイントは、倒れても利益がでるような価格設定にすること。」


「お、おう……?」


「きっちり景品が倒れて盛り上がるようにすることね。盛り上がれば次のお客さんも来るわ。大事なのは利益が出る安い景品が倒れやすいことよ……今のやり方だけど、どうせ全然お客さん来てないでしょ。よかったら試してみて」


ポカンとしている男たちににやりと笑いかけなから、髪の毛をバサァ!とする。


「邪魔したわね。では、ごきげんよう」


きまった!!

キャサリーンのように格好良くきまってドヤ顔になる。

満足気にルヴァイを振り返ると、ルヴァイは口をおさえて震えていた。

……笑ってる。


「ちょっと!ここは素敵って褒めてよ!なんで笑うのよ!」


「いや、戦いになるかと思いきや、収益改善のレクチャー始まるとは思わなくて」


「みんなハッピーになってこそ勝ちでしょう!」


むくれていると、頭をぽんぽんされた。


「あぁ、石当てもさすがだし、流石ナイフ使いだね」


「ふふふ、まぁね」


褒められて上機嫌になったところに、ザッと足を鳴らし、誰かがやってきた。


「やぁお嬢さん。素晴らしい石当てだったね。今度はこちらの弓矢をやらないかい?」


「えぇと、私弓矢はちょっと苦手で……」


どうやら矢当ての店主のようだ。


「じゃあ俺がやろうか」


「えっできるの?」


「マリエルにばっかりカッコいいとこ見せられるのは悔しいからね」


そう言うと、ルヴァイは店主にお金を払って弓矢を受け取り、キュッと矢を絞った。

そして、スパーンと的の中心を射抜く。


「おぉー!上手!!」


拍手喝采。

楽しい。

こういうの楽しすぎる。

ルヴァイも満更でもなさそうに、嬉しそうに私を見ている。


「ふふふ、お兄さんやるね……そんな君に朗報だ。あの的が見えるかい?あれを射抜けたら……俺の今日の売上をすべてやろう」


そうして指さした山の中腹。

一応見えるぐらいの場所に的がある。


「いやいやいやあれは無理でしょうおじさん!」


「何を言う。はるか昔のエラナリアの民は弓矢は男の必須の嗜みだったんだぞ!あれぐらい余裕だ!今どきの若モンは伝統を蔑ろにしやがって!」


「魔術でバーンじゃなかったの?私はできないけど」


「バカヤロウ、紳士なエラナリアの民は不必要な破壊をしないようにピンポイントで狙ってたんだよ。そのほうが局所的に破壊力も増すだろう?最近は誰もこの国攻めてこないからみんな忘れやがったがな、この弓道の精神はエラナリアの尊い伝統として………」


「おじさん。早くあれ狙う用の弓矢くれよ」


「………ほう。分かってるじゃねぇか兄さん」


おじさんは毛むくじゃらの腕で店の奥からゴソゴソと弓矢を取り出した。

露店の的当て用とは違って、本当にしっかりしたやつだ。


「武器の選別も能力の一つだ。兄さん、さすがだな。第一関門クリアだ。」


ルヴァイは受け取ると少し場所を選んで弓矢を引き絞った。


「………おじさん、弓矢に乗せるなら、魔術も使っていいの?」


「もちろんさ!それでこそエラナリア伝統の弓道だ」


「分かった、じゃあ、魔術も乗せるね」


そうしてルヴァイは魔術式を発動させた。

初めて見る、ルヴァイの魔法じゃない、魔術。

そっか、魔術も使えたんだ―――


バシュッ、と魔術を乗せた弓矢が飛ぶ。

それは美しい軌跡を描いて、正確に遠くの山の中の的を射抜いた。


「―――っすごい!!当たった!!!」


「な、んと……!!」


おじさんはわなわなと手を震わせると、膝を付いてルヴァイに縋った。


「まさか……まさかこんなに素晴らしいエラナリアの伝統弓道を見れるとは!!兄さんありがとう!!売上も、この店も全部貰ってくれ!そしてエラナリアの弓道を蘇らせてくれ!!」


「ちょっと、おじさん。落ち着いてよ。ほら」


ルヴァイはおじさんを引っ張って立ち上がらせると、弓を返した。


「おじさんこそ、こんなにしっかり道具の手入れしているんだから。エラナリアの伝統武芸を伝えるなら、おじさんのような人がいいだろ?」


「俺の視力じゃもうあんな遠くの的は無理だ!あんたのような若者がいいに決まっている!!」


「…………」


ルヴァイは少し黙ってからほんのり寂しそうに笑うと、メガネを少しずらした。

おじさんはルヴァイの紅い目を見て、ハッとして唇を震わせた。


「ま、おう……様………」


「―――エラナリアの弓道は何も遠くの的を狙う事や、その破壊力だけが大事なんじゃない。その集中力や、精神も大切だ。それを伝えるのは……君のような人が適任だ」


ルヴァイは、おじさんの肩をポンと叩いておじさんから離れ、私の手を取った。


「また、遊びに来るよ。良かったら、また的当てさせてね」


そして、呆然としているおじさんに優しく笑いかけて、私と一緒にパチン!と転移した。



「………ごめん、帰ってきちゃった」


ルヴァイは、色付きメガネを外してなんだかしょんぼりしている。

その姿がなんだか可愛くて、思わず笑ってしまった。


「なんで笑うんだよ」


「だって、凄く残念そうだったから……ふふ」


「……せっかく、一緒に出かけられたのになって思ってさ………」


「また一緒に出かけたらいいじゃない」


クスクス笑う私を、ルヴァイはなんだか少し真面目な顔で、じっと見つめた。


「………また、一緒に出かけてくれるの?」


「うん?もちろんよ!なんで?」


「………いや」


そうしてルヴァイは少しなにか考えてから、優しく私を抱きしめた。


「また、行こうね」


「ふふ、そうね!また行きましょ!」


私は無邪気にルヴァイを抱きしめた。


自分の正体を私に明かす前だったルヴァイにとって、それは、どれだけの重さを持った約束だったのだろう。





「―――美味しい?マリエル」


「うん、美味しい」


「……なにか考えてた?」


「ふふ、最初にこのアイス食べたときのこと」


「…………懐かしいね」


私を膝に抱くルヴァイは、スプーンでまたアイスクリームをひとすくいすると、私の口に運んだ。

冷たい甘さが、乾いた口の中に広がる。


「ありがとう、ごちそうさま」


「……もうちょっと食べなよ」


「ふふ、しょうがないでしょう?そんなことより、見てよあれ」


街にはお菓子や可愛らしい小さなおもちゃを景品にした石当て屋に子どもたちが群がり、男たちが弓矢の技を競い合っていた。


「素敵な光景ね……あの弓矢のお店の店主のおじいさん、あの時の矢当て屋のおじさんのお孫さんなんだってよ?」


「そっか……」


「色んなことが、変わっていくのね」


柔らかな日差しの中、眠たくなってきてルヴァイの胸に頬を寄せる。


「でも……ずっと、ルヴァイのこと、好きよ」


「……うん」


きゅっと私を抱きしめるルヴァイの腕の中は、ほんとうに幸せだ。

柔らかなキスが、額に触れた気がした。


「………また、来ようね、マリエル」



―――そうだね。


私は暖かなぬくもりの中で、そっと呟いた。


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