別れ
部屋を出た私は1人廊下を歩く。
やっと婚約破棄を告げられたのに、胸にくすぶるこの感情は何なのか。
感情の答えが出ないまま歩みを進めていると、壁に掛かった鏡に映った自分と目が合う。
鏡の中の私は晴れやかな顔ではなく、暗い顔をしていた。
ぼんやりと鏡を見ていると、お茶菓子を持ってきたメイドがやって来る。
「シャーロット様。もうお帰りですか?」
問いかけに答えない私をメイドが伺う様に見る。
「あなた。ここで働き始めて何年目になるの?」
「今年で2年目になります」
「辞める予定はない?」
私の問いかけに不思議そうな顔をしたメイドは「その様な予定はございません」と答える。
その言葉に私は満足そうに微笑む。
「そう…エドワードとクラーク家をよろしくね」
私の分まで。と発せられる事はなかった言葉を心の中で呟く。
婚約破棄を告げた今、二度とこの家に踏み入るつもりは私にはなかった。
メイドとの話を終え、エドワードに婚約破棄を告げた事を知らないメイドに「エドワードは考え事をしたいはずだから、1人にしてあげて」と伝え、今度こそ玄関へ足を進める。
廊下を歩いていると沢山のものが目に入ってくる。
この家には愛着のある物が多すぎる。
季節の花が咲く手入れされた庭。壁に出来た傷や、応接室に飾られている家族の肖像画。今は亡き、エドワードのお母様の趣味で色付いたお屋敷の調度品。
私を感傷的にさせるには十分な物だ。
エドワードに出会って13年。
出会った当初はこんな事になるなんて思わなかったけど、私達の婚約者という関係性は呆気なく終わってしまった。
綺麗に終わらせたかったのに、傷付いたエドワードの顔が胸に後悔を残す。
玄関に辿り着くと、メイソンが慌てて見送りにやって来た。
馬車までの見送りを遠慮して、メイソンに「エドワードとクラーク家をよろしくね」と言い、私はクラーク家を後にした。