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愛する人

 困惑しながら聞くと、副所長はジッと私の目を見てから笑って言った。



「いつか教えてやる」



 そう言って副所長は私を置いて、施設の出口へと歩いて行く。



 私は副所長の背中を呆然と見つめる。


 動揺していた姿が嘘かのように、副所長はいつも通り、意地悪な副所長に戻っていた。



 はぐらかされた?

 いつから好きになったのか、教えてくれてもいいじゃない。


 私は足に力をいれ、副所長の背中を追いかける。



「副所長!今教えてくれてもいいじゃないですか!」



 副所長の前に、立ち塞がって言うと。



「後悔しないか?」



 副所長はさっきと同じ言葉を繰り返す。



 副所長の視線にたじろいでしまう。私は唾をゴクッと飲み込んで「はい……」と、副所長の目を真っ直ぐと見る。



「じゃあ、教えてやる」



 副所長の言葉に、何を言われるのかドキドキしていると、副所長は顔を傾け、顔を近づける。



「シャーロットが魔塔に研修としてやって来たとき、魔塔の裏で隠れて一人、泣いているのをーー」「副所長!!」



 泣いていたことを言われるなんて思っていなかった私は、副所長の口を手で慌てて塞ぐ。



 一人で泣いていたのを見られていた事実に、私の顔は熱くなる。


 当時、学生だった私は、異国の地で周りの人たちの知識と魔法の才能に、自分の実力の無さを痛感していた。そして、自分の無力さに、一人で隠れて泣くことがよくあった。



 誰にも見られていないと思っていたのに……。副所長に見られていたなんて……。



 私が真っ赤な顔で、泣きそうになりながら、副所長の口を手で塞いだまま、口をパクパクとさせる。



 そんな私に、副所長は目を細めて私の手を取った。



 副所長が私の手を引くと、私の身体は抵抗することなく、副所長に抱きしめられる。



「シャーロットが頑張っている姿を見て、僕も頑張ろうと思えたんだ。魔塔で無気力に生きていた僕に、シャーロットは僕に生きる喜びを教えてくれた」



 耳元で囁かれる言葉に、私はびくりと身体を震わせる。


 離れようと、副所長の胸を押すと、副所長はグッと私を抱く腕に力を入れた。



「どこへ行ってもいい。だけど……これからは僕だけを見て、僕だけを愛して」



 副所長の告白に、言葉が詰まる。

 

 私は今まで、こんなにも誰かに思われたことがあっただろうか?



 婚約者の浮気に傷ついた心は、副所長によって癒され、気付けば私は副所長に惹かれていた。



 知らなかった感情が溢れ出して、涙が頬を濡らす。



 副所長の側にいれば、私が私らしくいられる。そして、副所長となら、どんなことでも乗り越えられる気がした。



「……………はい」



 絞り出された短い言葉は震えていた。


 私の言葉に、副所長は抱きしめる力を強くした。

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