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突然の……

 副所長の言葉に、顔をグッとしかめる。  

 


 子が親を選べないように、副所長は自分の人生を選ぶことが出来なかった。


 魔法の研究ばかりして、魔塔から出ない姿は仕事人間だと思っていたけど、それしか選ぶことが出来なかったんだ。



 私が副所長と初めて会ったとき、副所長は話すこともなく、無表情な顔は副所長の美しい顔も相まって、職人が丹精込めて作った、精巧な人形のようだった。



 時間を共にするにつれ、気付けば副所長と話すようになっていた。副所長は次第に、笑顔を見せるようになっだけど、それは副所長の人生において、十分の一ほどの時間でしかない。



 婚約者から逃げるため、ラミア国にやって来た私は、どれほど幸せ者なのかと思う。



「そんな、悲しいこと言わないでください……」



 私は絞り出すように言うのが精一杯だった。 


 私は自分の人生が他の誰かによって、抑圧される苦しみをよく知っている。


 慣れるだなんて、それは自分の感情を殺し、自分という存在を殺しているようで苦しい気持ちになる。



「感覚が麻痺してしまったのかもしれないな……」



 そんな私に、副所長は目を伏せて悲しそうに笑って言った。



 副所長の言葉と表情に悲しい気持ちになると同時に、自分が許せなかった。

 何も知らずに、副所長の優しさを私は受けとめるしか出来なかったなんて……。



「でも、悪いことだけではなかった」   



 副所長の言葉に顔を上げると、副所長は言葉を区切ると、私をじっと見つめて言った。



「幼い頃より、魔塔にいたおかげでシャーロットにも出会えたんだから」

 


 副所長は優しい目で私を見て、私の頬を手で包み込む。


 微笑む顔は、天使のように慈愛に満ちている。



「副所長」


「ん?」  



 首を傾げる副所長の目には、優しさと慈しみと、ほのかに熱がはらんでいる気がした。



 副所長の言葉と視線に、私は言うなら今しかないと思った。



「好きです」


「………………………えっ?」



 私の突然の告白に、副所長はポカンと間抜けな顔をする。


 そんな副所長に表情を崩し、フフッと笑う。



「副所長のことを好きになってしまったみたいです。副所長が私のことをどう思っているか知りませんが……」


「ちょっと待ってくれ!」



 私の言葉を副所長は慌てたように遮る。



 告白を遮られると思っていなかった私は、驚いた顔で副所長を見る。


 副所長の顔は、夕日に照らされてもいないのに、今までにないほど赤く染まっていた。

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