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幸せは自分で掴むもの

 私の言葉にマーティン様は、いたずらをする少年のような顔をした。



「僕も驚いたよ。まさか、ジェレミーとラミア国外で会うなんて思っていなかったからね。家族を大切に思うラミア王族が、ジェレミーを諦めるはずがないから……。何が彼の気持ちを変えたのかと思ったけど……」



 マーティン様は言葉をくぎると、チラリと私を見た。


 私の顔を見るマーティン様に、首を傾げるとマーティン様はふふッと笑った。



「君を連れてきたジェレミーを見て、わかったよ」


「私、ですか?」


「あぁ、ジェレミーに籠の中での自由より。言い方は悪くなるが、鎖を付けられて王族としての責務を果たすことを選ばせたんだから」



 籠の中の自由、鎖、王族としての責務……。 

 権力にはつきものだ。二十年近く貴族の娘として生きてきた私は、その重さを理解している。


 副所長は、人に命令されることを嫌い、自由を愛する人だ。そんな副所長に、自由を手放すことを私がさせたとしたら?



 私は副所長に、何を与えることができるのだろうか……。


 色々な考えが頭を巡り、考え込んでしまう。



「ジェレミーに会いに行きなさい」



 私が何も言えないでいると、マーティン様は紐で縛られた紙を差し出した。



「何ですか?これは……」


「ゲートの使用許可証だ。まぁ、簡単に言うと、どこにでも行ける魔法の紙ってところかな」 



 通常、国を跨ぐ移動には申請が必要だが、この使用許可証さえあれば、ゲートが繋がっているところなら、どこへでも行くことが出来る。


 何となしに言うマーティン様に、この紙の貴重さを知っているから驚いてしまう。



「こんな貴重なものを受け取れません」


「あげるんじゃない。貸すだけだよ」



 「ジェレミーと一緒に来たときに、返してくれたらいい」そう言って、マーティン様は私の手の上に、使用許可証を置いた。


 軽いのに重い、紙をジッと見つめる。私は使用許可証を胸に抱き、感謝の言葉を口にする。



「マーティン様……ありがとうございます」


「お礼なら、ジェレミーと話してから聞きたいな」



 メイドを呼ぶベルを鳴らし、マーティン様はこの場所から一番近いゲートまで送るようにメイドに伝えた。

 

 メイドに案内されて部屋を出る前に、マーティン様に感謝の気持ちを伝える。



「何から何まで、本当にありがとうございます」


「幸せは自分で掴まないと逃げてしまうから、何があっても手放してはいけないよ」


「はい!」



 マーティン様の言葉に、行儀作法なんてことは忘れて、馬車まで急ぐ。

 

 窓から手を振っているマーティン様に見送られ、私は屋敷を後にした。

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