憂い
マーティン様に会った翌日、副所長は言った通りの昼過ぎにやって来た。
「今日はどこへ行くつもりなんだ?」
「昨日は11番街に行ったので、今日は19番街に行きたいと思っています。19番街は職人が多く住んでいて、魔法道具が多く使われているので。副所長は行きたい所はありますか?」
地図を見ながら話していると、副所長からの返事がない事を不思議に思い、顔を上げる。
副所長はジーと私の顔を見ていた。
「どうかされましたか?」
「シャーロット……昨日も元気がないと思っていたが、何かあったのか?」
副所長の言葉に私はドキッとする。
エドワードの件で思い詰めていたけど、顔には出さないようにしていたのに、副所長は気付いていたらしい。
人に興味がないのに、たまに見せる優しさに申し訳なさを感じるのを気付かないフリをする。
「何もありませんよ?」
「本当か?」
何でもない様に笑うと、副所長は私の言葉に納得していないのかジッと見てくる。
私が落ち込んでいる事を確信しているらしい副所長に、私は少し正直に話す事にした。
「ただ、少し感傷的になっているだけです。副所長にもそういう時があるでしょう?」
これ以上は聞かないでください、と困ったように笑うと副所長は溜め息をつく。
「そうか…これ以上は聞かないが、話したいと思った時に話してくれ」
その時がいつになるか分からないけれど、私は頷いた。
そして、少し沈んだ空気を変える為に、私はパンッと手を叩く。
「さぁ!この話はやめて、仕事に行きましょう。時間は有限ですから」
私がそう言って立ち上がると、副所長は仕方がないなという顔をして立ち上がった。




