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夕日

 夕日が馬車の中を照らす。


 外を見ると、私の屋敷に近づいているのが分かる。

 


「今日はありがとうございました。楽しかったです」


「僕も初めての外国の街を、シャーロットと歩けて楽しかった」


 

 そう言って笑う副所長の顔は夕日に照らされて、いつもと違って見えた。


 副所長のいつもと違う態度に戸惑った私は、話題を変える。



「副所長は行きたい所はありますか?まだまだ沢山のおすすめの場所があるので期待してください」


 

 そう言って、カバンから旅のしおりを出そうとすると。



 ガタンッ



「きゃっ」



 馬車が跳ねて体勢を崩した私は倒れ込んでしまう。



 馬車の壁にぶつかるのを覚悟して目を閉じていた私は、温かい身体に包まれていた。



「大丈夫か?」



 声が聞こえて目を開けると、副所長の胸に抱かれているのに気付く。



「っっ!ごめんなさい!!」


 

 体勢を起こそうとすると、副所長の腕に抱かれまま身動きが出来ない。



「あの…?副所長??」



 離してくれない副所長に困惑して見上げると、副所長と目が合う。


 副所長の紫色の瞳は夕日を反射して不思議な色をしていた。


 綺麗……。



 吸い込まれるように見つめていると、副所長の瞳と手が顔に近づいてくる。


 私はギュッと目を瞑ると、副所長は私の乱れた髪を耳にかける。



「髪が乱れているぞ」



 副所長の言葉に、副所長の温もりと近すぎる距離に私は頬を赤く染める。



 何も言う事が出来ずにいると、タイミングよく馬車が止まる。


 御者の「到着しました」という言葉に副所長の腕が緩むのを感じた私は、今度こそ副所長の腕の中から解放され、慌てて馬車から出る。



 御者の声を無視して屋敷へと足を進める。


 

「シャーロット。忘れ物があるぞ」



 副所長から呼び止められ、私は大切なマーティン様のサイン本が入ったカバンを忘れている事に気付く。


 副所長からカバンを受け取ると、副所長が私の腕を掴んだ。



「明日のお昼に迎えにくるから、準備をしておくように」



 副所長は「良い夢を」と言って、私の手にキスをする。

 


 されるがままの私に副所長は意地悪そうに笑って馬車に乗って帰っていった。



「お嬢様どうかされたのですか?」


 馬車が去っていくのを見つめていると、お迎えのメイドが聞いてくる。


「何でもないわ。馬車の中が熱かったみたい」


「そう、ですか?」



 そうよ。副所長のいつもと違う態度も、頬が熱いのも全て夕日のせいだ。

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