★入学
本土から小船で一時間ほど離れた先にある、小さな島。
この島の高校は、ハードルの低い入学条件のせいか、授業もろくに聴かない自由奔放な生徒や、一般的な学校にはうまく馴染めない生徒が多く集まっていた。
つまり、自由を求める者が集う場所。
あえて選んだ、この島を。あえて選んだ、この学校を。
この場所で変わる。この場所で、新しい一歩を踏み出すんだ。
「空気が綺麗だなぁ~」
校舎脇にある学生寮の一室で、窓を開けてポソリ。
割り当てられた三階の角部屋は見晴らしが良き良き。左を見れば青い海に白い雲。右を見れば野菜が芽吹く広大な段々畑。健康的なアースカラーじゃないか。山で暴れるゴリラは柴刈るじいさんだし、川で包丁を研いでるアライグマはばあさんだし、自然とともに生きてるって感じがして、心地いい。離島ならではだな。都会なら即通報だ。
「よし、そろそろ行くか!」
ちょっくら寝過ごしてしまった。朝食を食う時間はないな。まばゆい朝日で目覚めるのが理想的だったが、明日からはちゃんとアラームをかけよう。
学ランに着替え、アタッシュケースやボストンバッグを漁って通学鞄を探す。
「おいおい、誰だよ俺の鞄を隠したのは」
床に教科書を山積みにしても服をぶちまけても見つからない。
つーか、荷物が一つ足りねぇな。あれだあれ、餞別のカップ麺を詰め込んでたやつ。あれに一緒に入れたはずだ。船に忘れてきたか。
「だっだらしょうがねぇ!」
紙とペンくらい誰かから奪えばいい。どうせまともに勉強する奴なんかいないだろうし。
昨日から住み始めたばかりなのに引きこもりニートの住み処のごとく散らかった部屋をあとにし、海水の風にさらされて錆びまくった階段を駆け下りる。校舎に続く花壇には紅白のチューリップが並び、粋な出迎えに大胸を張って腕を広げた。
手ぶらで登校っていうのも悪くないぜ。どこぞのIT社長になった気分だ。
人っ子一人いない玄関で昨日のうちに寝かせておいた内履きに履き替え、向かうは二階の東棟。三クラスあるうちの真ん中、一年B組。馬鹿たれのB組。
教室の前に着き、バックバクになった心臓を落ち着かせて扉の窓から中を覗く。
おうおう、どいつもこいつもパッとしねぇな。寝るか床を見るかしか能がないのかお前らは。
「……ほほぉ、あいつが最初のターゲットか」
一番前の席で、机の上に足を投げ出している短髪の男。ガタイはまあまあいい。身長も高そうだ。だが、そのご立派なレッドヘアはニワトリにしか見えない。燃え盛る炎みたいで強そう? いやいや、控えめに言って紅ショウガだ。
フフフ、楽しいスクールライフになりそうだぜ。
俺は扉を開けて、中へ飛び込み、高く掲げた右手を振りながら満面の笑みで叫んだ。
「――おっはよぉぉぉ~! 太陽の中心で愛を叫ぶ、和平の使者! 和智田陽平様のご登校だぜぇぇぇぇぇ!!」






