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第96話 結局、彼はこうなる運命にある

「全く、もう……」


 シェーラの暴走に、プリプリと怒っているユリア。

 彼女は空中に浮き上がらせたシロウマ(以下略)の巨体を地面に下ろそうとしていたが、従者が相変わらず余計な事ばかりをしようとするので、怒りを爆発させた直後であった。

 その怒声に魔王の本気を見たポンコツメイドは、少し離れた場所で騎士三人組と一緒になって身を縮こませている。

 巻き込まれた彼等にとっては、とんでもない災難でしかなかったが……。


「良いから其処で大人しくしていてね! 一歩でも動いたら怒るわよ!」

「は、はい! 畏まりました!」

「口も開かないように! 余計な事を言ったら怒るわよ!」

「はい! 承りました!」

「勿論、其処から物を投げつけるのも禁止! わかったわね!?」

「わかりました!」


 ユリアの殆ど恫喝のような命令に、冷や汗を流しながら首を縦に振るシェーラ。

 彼女の隣では、三人の騎士たちも彼女と同じように勢い良く首を縦に振っていた。

 ユリアは騎士たちにまで命令したつもりはないのだろうが、何となく彼等の気持ちがわかる拓真は、思わず三人に同情の視線を向けてしまう。

 まぁ、彼女の気の済むまでの辛抱だ、と心の中で彼等にエールを送る勇者であった。


「……」


 彼等の頭上では、相変わらずシロウマ(以下略)が全裸のままぷかぷかと空中に浮かんでいる。

 思わず『誰得!?』と叫びたくなるような酷い絵面であったが、勿論、彼が望んでそうなっているわけではなかった。

 しかも現在の彼の体は、頭を下にした状態……所謂“逆さ磔”の体勢である。

 彼は口から血の混じった泡を噴き出しながら、必死に何かを叫ぼうとしているのか、口をパクパクと懸命に動かしていた。


「……ユリアちゃん、完全にシロウマ(以下略)の事を忘れてるだろ」

「どうやらお説教に夢中になっているみたいだね。俺には全く関係のない事だけど」

「……そろそろ死にそうになっているんだが?」

「別に良いんじゃないの? その方が世のため人のため、だよ」

「確かにそのとおりだが、まさかお前の口からそんな言葉が出るなんて……」

「酷いなぁ……。俺だって、こう見えても一応は近衛騎士団の一員なんだぜ?

 世界の平和と安定を願うのは当たり前の事じゃないか」

「違和感バリバリで、ケツの辺りが痒くなって仕方がないんだが……」

「その方が楽に給金をもらえるわけだし」

「……素敵な意見をありがとう」


 ジャスティンの職業倫理に感銘を受けたのか、溜息を吐きながら彼に礼を言う拓真。

 もっとも、彼だって日本にいた頃は似たようなものであったので、取り立ててジャスティンを咎めるつもりはなかったが……。


「……アレ、一応は王族なんだが?」

「王家の一員だろうが何だろうが、明らかに国家に仇なす奴を守る必要はないと思うよ」


 きっぱりと断言するジャスティン。

 確かに今までの話を聞く限り、彼は決して間違った事を言っているわけではなかったが……近衛騎士の立場として、それはどうよ? と思わずにはいられない拓真であった。


「……要は、個人的に嫌いなだけだろ」

「そうとも言うね。でも、これは決して俺だけじゃないはずさ。

 近衛騎士団に所属している近衛騎士全員に聞いて回っても、たぶん同じ答えが帰って来ると思うよ」

「それは騎士三人組(あいつ等)を見ていて良~くわかった」

「ついでに言えば、宮廷に出入りできるような廷臣や貴婦人たちも、俺たちと同意見だと思う」


 サラリとアールセン王国の宮廷裏事情を暴露するジャスティン。

 もっとも、これは広く知られている事なので、拓真も驚いたりはしなかったが。


 つまり……彼の目の前で全裸のまま空中でぷかぷかと気球のように浮いているシロウマ(以下略)という人間(?)は、

 ……当事者にはその存在を忘れられ、

 ……宮廷の皆からは蛇蝎の如く嫌われ、

 ……王国中の国民からは馬鹿の代名詞のように笑い者にされ、

 ……こんな所で生死の境を彷徨っている存在である。


 そう思うと、何だか無性に彼が哀れに思えてならない拓真であった……。


「……可哀想に」

「可哀想なのはこっちさ!

 あんな奴の相手をさせられるこっちの身にもなれって言うの!」


 目元を拭うふりをしながらポツリと漏らした拓真の独り言に、ムキになって反論するジャスティン。

 余程恨みでもあるのか、彼は頑なに“可哀想”という単語に拒否感を示していた。

 記憶力皆無のジャスティンが此処まで言うとは、余程強烈な悪印象を抱いているのであろう。


(良くもまぁ、其処まで他人から嫌われたもんだな……)


 ……ある意味、彼はとても貴重な生き物なんじゃないか? とすら思えてきた拓真であった。


「でも、今の奴の醜態を見て、『ざまぁみろ!』と思ってるんだろ?」

「うん」

「少しは気分が良くなっているんだろ?」

「それは勿論!」

「実は『もっとやれ!」とも思っているんだろ?」

「そうだね」


 ジャスティンがシロウマ(以下略)を此処まで毛嫌いするのは、ひょっとすると同族嫌悪というヤツかもしれない。

 さすがにこちらは、口にする事が躊躇われたが……。


「まわりにいる連中全員からそう思われているって事は、さすがに可哀想だと思うぞ」

「あ~……。そう言われるとそうかもね。

 でも、俺たちは拓真とは違ってずっとあんな奴の我儘に振り回されてきたから、“可哀想”という感情よりも“いい気味だ”と思う感情の方が強いと思う」

「まぁ、その辺は人それぞれだな。

 アレに接している時間が長い奴ほど、“いい気味だ”と思ってるんだろうなぁ……」

「少なくとも彼に面識のある奴で、彼の事を“可哀想”と感じる奴は珍しいと思う」

 

 ジャスティンにそう説かれて、なるほど、と首肯する拓真。

 彼如きの意見に説き伏せられるとはこの上ない屈辱であったが、言う事がいちいちもっともであったため、反論する手掛かりすら掴めない有様であった。

 それに、此処で幾らシロウマ(以下略)の事を弁護したところで、拓真には何のメリットもない。

 其処で彼はあっさりとシロウマ(以下略)を見限って、詭弁を用いる事にした。


「それに、確かにジャスティンたちも可哀想であるが、俺はそれとは別の意味で“可哀想”だ、と言ってるんだ」

「? 何それ?」

「良く言うだろ。『オツムが可哀想』だって」

「ぷっ! 確かに}

「……まぁ、貴様も似たようなもんだが」

「タクマ、何か言ったかい?」

「いや、別に」


 どさくさに紛れて、こっそりと毒を吐く拓真。

 此処で言い負かされた鬱憤を晴らそうとは、相変わらずケツの穴の小さい勇者であった。


「タクマ。無駄話も結構ですが、そろそろユリア様を止めて下さい」


 ジャスティンとの話が一段落したところを見計らって、クラウスが拓真に、ユリアを止めるように、と嗾ける。

 ふと横を見てみると、ユリアのお説教はまだまだ続いているようであった。

 何故か正座をさせられているシェーラと騎士三人組からは、縋るような目つきがこちらの方へと降り注いでいるが……一体、何を期待しているのだろうか?

 少なくとも騎士三人組は巻き込まれただけなので、拓真としても助けてあげたかったが……。


「え~……!? 俺がやんの!?」

「他の誰がやるというのですか? 貴方は仮にも勇者でしょう?」

「……そのとおり」


 露骨に顔を歪めて拒絶を匂わせる拓真。

 だが、クラウスは諦める事なく彼を説得にかかった。

 クラウスの横ではアランが彼に同調しているが、胡散臭い事この上ない。

 拓真は彼等を半目になって睨みながら、二人の隠された真意を推し量ろうと試みた。


「何で俺なんだよ!? 説得ならクラウスの方が得意だろ!?」

「確かに拓真の言うとおりですが、今回の件についてはユリア様に非はありませんので……彼女を説き伏せる材料に乏しいのです」

「なら、アランはどうだ!? 何しろ口だけは良く回るから、俺よりも適任だろうが!」

「……ユリア様相手に詭弁を使うのは難しい。

 基本的に頭の言い方だから、万が一バレたら危険」

「それもそうか……」


 二人の答えに、思わず納得してしまう拓真。

 何となく嫌な予感がして、彼等に『自分でやったらどうだ?』と振ってみたが……二人が言を左右にして、彼の挑発に乗ったりはしなかった。


「シェーラさんに言い包められていた記憶しかないけどな……」

「……それは、根本的にユリア様がシェーラさんを信頼しているから。

 昨日今日出会ったばかりの僕たちと、生まれた時から一緒に暮らしているシェーラさんとでは、比べる事自体に無理がある」

「殆ど家族同然みたいなものですからね。我々は所詮、赤の他人ですし」

「そうか……確かに」


 彼等を言い包めるどころか、彼等に言い包められてしまう拓真。

 やはり彼では、頭脳のスペックが違い過ぎる彼等を説き伏せるのは難しかったようだ。


「じゃあ、ジャスティンは……」

「ん? 呼んだ?」

「……考えるまでもないか」


 そのセリフを口にした事すら後悔して、首を振りながら自分で没にする拓真。


「当たり前です! 何を考えているんですか!?」

「……ジャスティンにやらせるくらいなら、まだチビたちに頼んだ方がマシ」


 勿論、クラウスとアランの評価も散々であった。


「何お話をしてるんだよぉ~! 仲間外れは嫌だぁ~!」

「いや、興奮してるユリアちゃんの説得を頼もうと思ったんだが……」

「無理に決まってるだろ! 何で其処で俺の名前が出て来るんだよ!?」


『話に混ぜろ』と三人にしつこく絡んでくるジャスティンに、試しに正直に話し合いの内容を伝えてみる拓真。

 だが、其処で彼は即座に態度を豹変させ、あろう事か彼等を罵る始末であった。


「確かにジャスティンの言うとおりだな。

 脳ミソの代わりにスライムが詰まっているジャスティンには、土台、無理な話だった」

「タクマの言うとおりです。

 脊髄反射で人生を送っている男に全てを託そう、などと考えた我々が愚かでした」

「……確かにジャスティンでは、説得どころか更にユリア様の怒りに油を注いで、シロウマ(以下略)諸共始末される可能性があった。

 別にそれならそれで僕たちは構わないけれど、その可能性に思い至らなかった僕たちは、一体、何を考えていたんだろう……?」

「……お前等全員、敵だ……」


 さすがにジャスティンの態度にムカついたのか、反省するふりをしながら口々に彼をディスり始める拓真たち。

 普段はケンカばかりしてるのに、こういう時だけは相変わらず息の合った連携を見せる三人であった。

 問題は、この連携が仲間内での罵り合い(主にジャスティンをディスる時)にしか発揮されない事である。

 彼がボソボソと呪詛の言葉を吐いているが、勿論、三人とも全く気にしていなかった。


「それで結局、残ったのが俺か……。でも、上手くいく自信は全く無いぞ?」

「それは全員がそうでしょうから、問題にはなりません。

 でも拓真なら、少なくともユリア様がこれ以上激高する可能性は低いと思います」

「? 何で?」


 クラウスの推測の根拠がわからないのか、首を傾げる拓真。

 だが、そんな洞察力不足の拓真のために、クラウスと意図を共有しているらしいアランが、彼の代わりに説明役を買って出てくれた。


「……拓真がユリア様に話しかけたら、激昂するのはシェーラさんの方だから」

「おい、コラ! 待てや! 

 折角大人しくなったのに、またあの人を怒らせてどうすんだよ!?」

「……激昂したシェーラさんは、必ず拓真に襲いかかろうとする」

「最悪じゃねぇか! 俺は魚釣りのエサかよ!?」

「……シェーラさんが激高している以上、逆にユリア様は冷静になる。

 興奮している人を見ると、そのまわりの人は逆に冷静になる法則」


 確かにそういう法則があるという話は聞いた事があるが、問題は其処ではないと思う……。


「そりゃまぁ、そうだけど……」

「その結果、少なくともユリア様をこれ以上怒らせるという最悪の事態は回避される。

 故に、この任務については拓真が最も適任」

「完全に人身御供じゃねぇか……」


 まだグジュグジュと煮え切らない態度を見せる拓真に、アランが軽蔑の眼差しを向けていた。


「……大丈夫。シェーラさんが拓真に襲いかかろうとしたら、冷静になったユリア様がきっと彼女を止めてくれる」

「本当だな!? 信じても大丈夫だな!?」

「……呆れて匙を投げる可能性もあるけど」

「おい! それだとさっきまでの繰り返しにならないか!? あれ結構、大変なんだぞ!」

「……僕は当事者じゃないからわからない」

「ふざけるな!」

「……グッドラック」

「見捨てるなぁ!」


 どうやら其処まで打ち合わせ済みなのか、掴み合いの喧嘩を始める二人に割って入ろうともしないクラウス。

 その横では、これまた無関係のジャスティンが、二人を指さしながら腹を抱えて笑っていた。


「……どちらにせよ、もう時間がない。覚悟を決めるべき」

「畜生! そんな事だろうと思ったよ!

 さっきからビンビン感じてた嫌な予感の正体はコレか!」

「……それだけの第六感が働いていれば、きっと今回のピンチも乗り切れる。

 大丈夫、タクマならやれる」

「根拠のない励ましをありがとう」

「……勿論、ヤレるという意味ではない」

「当たり前だ! バカ!」


 アランの訳のわからない励ましの言葉を受けて、漸く諦めたのか掴んでいた彼の胸倉から手を離す拓真。

 一応、まだ恨めし気に三人の方を睨んでみる彼であったが……彼等はまるで事前に打ち合わせでもしたかのように、揃って明後日の方角を眺めていた。


「畜生……。しかし、どう声をかければ良いもんか……?」


 とはいえ、其処ですぐにユリアを説得できるような名文句が浮かぶほど、彼の脳ミソは出来がよろしくない。

 結局……イの一番に思いついた、安直かつ幼稚な手段を用いる事にした。


(幸い、必要な道具は手元にあるしな……)


 そんな事を考えながら、自身の懐に手を突っ込む拓真。

 彼は其処から一本の短いロープを取り出すと、ユリアの足元目掛けて放り投げた。


「ユリアちゃん、危ない! 足下に蛇!」

「え!? 何処ですか!? キャア!」


 拓真の叫び声に反応して、可愛らしい悲鳴を上げるユリア。

 やはり若い女性らしく爬虫類の類は苦手なのか、彼女はビクビクしながら足元を見つめていた。

 そんなユリアから少し離れた草藪の中で、何かが動くガサガサという音が聞こえてくる。

 どうやら咄嗟に拓真の意図を察したアランが、魔術でロープを動かして、それらしく見せているようであった。


「やだぁ……。何処行ったんですか?」

「ん~……、もう大丈夫だろ。向こうもビックリして離れて行ったみたいだね」


 殆ど半泣きになりながら草藪を見つめるユリアに、茶番劇の犯人が安心するように、と声をかける。

 随分と手の込んだ自作自演であったが、根っこが素直なユリアには効果覿面であった。

 完全に自分が無敵の魔王である事を忘れているのか、縋るような目つきで拓真の方を見上げるユリア。

 作戦が上手くいってビシッと背中で親指を立てている拓真に、軽蔑するような三対の視線が降り注いでいた。


「しかし、ユリアちゃんは無敵の魔王様だろ? そんな人が『蛇が怖い』だなんて……」

「むぅ~! 私だって魔王である前にひとりの女の子です!

 苦手なものは苦手だし、蛇が怖いのは当たり前です!」


 半笑いのまま述べられた拓真の言葉に、むくれたように頬を膨らませながら抗議するユリア。

 もっとも、そんな顔ですらとても愛らしかったので、全く迫力がなかったが……。


「だって、さっきまであれだけ威厳に満ちた顔でお説教をしていたのに……。 

 ギャップが凄過ぎて……ぷぷぷっ!」

「こらぁ! 笑わないでください!」


 堪え切れず笑い出した拓真に向かって、デタラメに両手を振り回して駄々っ子のようにそれを止めさせようとするユリア。

 拓真はそれをヒョイヒョイと躱しながら、それでもクスクスと笑う事を止めなかった。

 彼女が手を振り回す度に、上空に浮かんでいるシロウマ(以下略)が、彼女の手の動きに合わせてブンブンと飛び回っている。

 それこそ荷重で彼の首がいつ折れてもおかしくないほどの、常識では考えらえない見事な高速機動であったが……問題は、其処に彼の意思が全く反映されていない事であった。


「ははは! 腹痛ぇ!」

「幾ら何でも笑い過ぎです! タクマさん!」


 ユリアに叱られても笑う事を止めない拓真。

 もっとも叱っているはずのユリアも笑顔であったため、緊張感はまるでなかったが。

 まるで陳腐なドラマのワンシーンのような二人の追いかけっこを、湿度ゼロパーセントの乾いた目で見守る他の大人たち。

 その上空では、相変わらず飛行船のような肥満体がブンブンと唸りを上げて飛び回っていた……。


「ゴメンゴメン、ユリアちゃん。何か笑いのツボに入っちゃって……」

「馬鹿にしてますね!? 私を馬鹿にしてますね!? そんな人は……こうです!」


 そう言いながら、拓真に向かって笑顔で右手を振り下ろそうとするユリア。

 勿論、本気のパンチなどではなく、彼女としてはあくまで悪ふざけ程度の軽いツッコミのつもりであった。

 だが、そのユリアの決断が、とある悲劇を生みだしてしまう……。


 ドォオオオオン!


 彼女が手を振り下ろした瞬間、彼等の背後から、まるで隕石が地表に激突したかのような爆音が辺り一帯に響き渡った。


「「「「「「「「「……」」」」」」」」」


 濛々と上がる砂埃。

 ユリアと拓真は、まるで壊れたブリキの玩具のようなぎこちない動きで、大きな音がした方へと振り返ってみた。

 其処で二人が目にしたモノは、極度に太った人間の下半身だけを地面に直立させたような、極度に醜悪かつ悪趣味なオブジェ。

 即ち……、地表に激突し、地面に半分埋まっているシロウマ(以下略)の変わり果てた姿であった。


「あ……」


 予想外の光景に絶句するユリア。

 それは決して彼女の本意ではなかったが、さすがに此処までやってしまうと、常識的にシロウマ(以下略)が生きているとは思えなかった。

 図らずも他人を殺めてしまった、という自己嫌悪の感情に押し潰されそうになって、軽くパニックに陥るユリア。

 彼女の目の前には、つい先程シェーラが提案していた『勝利の記念碑』に限りなく近いものが見事に出来上がっていた。


「……お嬢様」

「……シェーラ」


 そんなユリアに、従者からの優し気な声がかけられる。

 まるで救いを求めるように声のした方へと振り返った魔王様。

 シェーラは半身になって右手をユリアに向かって突きだすと、親指をビシッと空に向かって突き上げながら、まるで慈母のような笑顔で短くひと言だけ彼女に告げる。


「GJ!」


 ……全て台無しであった。


「わざとじゃないのよぉ~!」


 そんな事は勿論、誰もがわかっている。

 その場にへたり込んだユリアの言い訳のような悲鳴が、呆然としたままの勇者たちや騎士たちを置き去りにしたまま、辺り一帯に響き渡っていた。

次回の投稿は、10月3日頃の予定です。

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