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第3話 絨毯爆撃?

まだヒロインどころか女性キャラがひとりも出て来ない……。

ごめんなさい。もう少し時間がかかります。


 眉間に深い皺を寄せたまま、再びぼそぼそと小声で話し合う拓真とクラウス。


(全くもって、嫌な予感しかしねぇんだけど……)

(諦めましょう。こうなったアランは止まりませんし……)


 クラウスは、何故か楽しそうなアランの様子に、悪魔の誘惑のような気配でも感じたのか、反射的に聖印を切っていた。

 効果があるとは思えないが……。

 結局、二人とも好奇心に勝てず……いや、仲間の意見を聞く事はとても大事であると考え直したのか、彼の立てた仮説とやらを聞く事にした。


 世の中には、怖いもの見たさ、という感情が存在するのだ。


 ようやく立ち直ったらしい拓真が、沈痛な表情を浮かべているクラウスの隣に並んだ。

 クラウスの向こう側には、相変わらずヘラヘラとした笑顔を浮かべているジャスティンが並んでいる。

 思わず彼に、何をしに来たのか訊きたくなってしまった拓真。

 ジャスティンのオツムでは、アランの話をカケラも理解できるとは思えないのだが……。


「おい、ジャスティン。お前……何しに来たの?」

「え? 何その不思議そうな顔!

 勿論、アランの話を聞きに来たに決まってるじゃないか!」

「……お前に理解できそうな話じゃなさそうなんだが……」


 自分の事を棚に上げて、ジャスティンに憐れむような目を向けた拓真。


「そりゃそうかも知れないけどさ……でも、仲間外れって嫌じゃん」


 拓真とクラウスの冷ややかな視線を浴びつつ、ジャスティンが目を逸らしながら答える。

 馬鹿のくせに難儀な性格であった。


「……そうか。じゃ、余計な口出しは、一切、するなよ。

 ただでさえ長くなりそうなんだから、これ以上話が混乱するのは願い下げだ」

「うん、わかった。静かにしているよ。どうせ何かを言う事もなさそうだし」


 一応、彼に釘を刺しておく拓真。

 まぁ、暇に任せて何処かへ行かれるよりはましだろうと考えた彼は、そのままジャスティンとのやりとりを打ち切ると、アランに向かって話を始めるように促した。


「じゃあ、アラン。始めてくれ」

「……わかった。でも、少し長くなると思うから、皆、座ったらどう?」


 珍しく気の利いたことを言ってくるアラン。

 彼には全く悪気はないのだろうが……拓真はつい、何かの前振りじゃないかと彼の事を疑ってしまった。


「おう」

「では、お言葉に甘えて」

「ふぅ~」


 全員、森のはずれの適当な場所に腰を下ろす。

 拓真がふとジャスティンの方を見てみると、彼は背負った背嚢から水や食料を取り出しているところであった。

 話を聞く気がないのがバレバレだが、どうせ聞いたところでこいつの頭では話が理解できないと判断したのか、放っておく事にする他の三人

 彼の事を良く理解している証拠であった。




 全員、話を聞く準備が整ったと判断したアランが、いつものぼそぼそとした口調で話を始める。


 彼の言葉を聞き逃さぬよう、両頬を軽く叩いて気合を入れた拓真。

 間違ってもジャスティンのように扱われるのは避けねばならない。

 隣を見ると、クラウスも真剣な表情でアランの言葉を待っていた。

 ジャスティンは既に干し肉でも口の中に入れていたのか、くちゃくちゃと喧しい咀嚼音を立てている。


「……第一の仮説。魔王はあの城を魔術で造った。

 周囲を守っているはずの魔物は偶然、何処かへ出かけたのか、あるいは城内に引っ込んでいる。

 だから、彼等の姿が全く見えない。

 ある意味、ぼくたちにとってもっとも都合の良い幸運が訪れた、という仮説」

「罠っぽいな……」

「罠ですね……」


 アランの最初の仮説を、辛辣に評価した拓真とクラウス。

 まぁ……これが普通の反応であろう。

 確かにそれが本当だとすれば、またとない幸運であるのは間違いないのだが……二人ともそこまで楽観的にはなれなかったようだ。

 世の中にそんな旨い話があるわけがない、という事実は、そこら辺の駆け出し冒険者でもわかる事である。


 当然のように罠を疑った拓真と、それに賛同するクラウス。

 因みにジャスティンは、飲み込んだ水が何処かおかしなところにでも入り込んだのか、盛大に噎せ返るのに忙しくて何も言ってはこなかった。

 確かに事前の拓真との約束のとおり、彼は何も発言をしていないのだが……うるさい事この上ない。

 さすがにアランも気を悪くしたのか、右手に持っていた杖を彼の頭の上に振り下ろしていた。


「それに、さっきのアランの話では、魔王城本体の魔力の反応が強すぎて、魔物がいるかどうかわからないと言っていましたね……」

「あぁ。てことは、伏兵や擬態がやり放題って事か……」

「やり放題は言い過ぎかもしれませんが、見抜くのはかなり難しくなるでしょう」

「こりゃ近づくだけで神経使いそうだなぁ……」

「「はぁ~……」」


 拓真とクラウスは、痛みに悶絶するジャスティンを横目に見ながら、それでも彼を無視するかのように話を続けていく。

 だが、精神をゴリゴリと削り取られるような暗澹たる未来を想像してしまったのか、同時に溜息を吐いていた。

 アランは、二人の様子を無言のまま、表情も変えずにじっと見守っている。

 ジャスティンは転げ回った拍子に、今度は切り株に脛を強打してしまったらしく、すっかり涙目のまま蹲っていた。

 一言でいうと……単なる自業自得である。

 そんな彼の様子を、3対の目がすっかり呆れ返ってしまったような視線で見つめていた。


 そんなお馬鹿さんのお馬鹿な行動を無視しながら、アランが二つ目の仮説を披露する。


「……第二の仮説。魔王城が”魔術道具(マジックアイテム)”である可能性。

 実は魔王城自体が巨大かつ強力な魔術道具(マジックアイテム)で、強力な攻撃能力を持っている可能性」

「最悪じゃねぇか」


 即座に言い返した拓真の言葉が、この可能性の全てを表していた。

 自分たちの悲惨な結末でも予想したのか、クラウスの顔が真っ青になっている。

 だが、そんな彼等の反応もアランには織り込み済みだったようで、彼は顔色ひとつ変えずに更なる悪夢について言及した。


「……問題は、その”最悪”の可能性が、かなり高い事。

 あれだけの大きさと魔力の強さがあれば、自動的に強力な攻撃を複数回できる魔術道具(マジックアイテム)である可能性が十分にある。

 僕としては、むしろそっちの方が納得できると言ってもいいくらい。

 城のまわりに魔物がいないのは、魔物を配置しなくても十分に守り切れるという自信の表れと、味方撃ち(フレンドリーファイア)を避けるためじゃないかと思われる」

「「……」」


 アランの隙のない理論展開に、沈黙するしかない拓真とクラウス。

 よく見ると、クラウスの顔色は真っ青を通り越して殆ど真っ白になっていた。

 今にも卒倒するんじゃないか、と本気で心配になる拓真であったが、心配したところで何かが変わるわけでもない。

 ならば、と思い直し、拓真はアランに話の続きを促した。


「……アラン、攻撃の種類は予想できるか?」

「……無理」


 拓真の一縷の希望を、容赦なく粉砕するアラン。

 地獄の鬼でも、もう少し気を使ってくれるだろう、というレベルの無慈悲な宣告であった。


「……これだけ巨大な魔術道具(マジックアイテム)だと、はっきり言って何でもやりたい放題。

 どんな巨大術式が仕込まれていても不思議じゃないし、まわりに遠慮しなくて済むから、どんな凶悪な攻撃が飛んできてもおかしくない。

 僕たちとしては、それこそ面攻撃や絨毯爆撃も考慮に入れておく必要がある」


(”やりたい放題”とか、”凶悪な攻撃”とかならまだ理解できるけど、絨毯爆撃って……)


 そんな言葉がフラジオンにある事自体に、何故か衝撃を受ける拓真。

 相変わらず、どうでもいい所に気をとられてしまう癖は治っていないようだった。


本気(マジ)かよ……」

「でも、これが一番、可能性が高いんですよね。アラン」

「……そのとおり。自分で言ってて何だけど、理屈の上でも完璧に説明できる。

 これが大本命と言っても良い」

「「……」」


 最悪の未来でも予想したのか、拓真とクラウスは俯いて沈黙する事しかできない。

 ジャスティンは、もうとっくに話についていけなくなっていたのか、頭から煙を吹きながら目を回していた。

 ……もう誰も、彼の事など全く気にしていないが。


 ぐったりとしているジャスティンを放置して、アランが第三の仮説を披露した。


「……第三の仮説。あの魔王城自体が魔王の本体である可能性。

 魔王の姿を見た者がいない以上、この可能性を排除すべきではない」

「「!!」」


 想定外の指摘に、思わず身を固くする拓真とクラウス。

 確かに、このフラジオンの世間一般で言われている”魔王”の姿は、全てが想像の域を出ないあやふやなモノばかりであった。

 遠い昔から伝わっている昔話や伝記の類を紐解いてみても、眉唾な描写ばかりで正確な魔王の姿を書いた物などひとつもない。

 彼の者の姿は、全くの不明である、というのが実情であった。


(まぁ……そりゃ当然だわなぁ……)


 何しろ、今までに魔王と出会って生きて帰った者など、どれだけ過去を遡ってみてもひとりもいないのだから。

 ならば決定的な証拠がない以上、あの豪華な城自体が魔王であるという可能性を排除すべきではない、というアランの意見はむしろ当然であり、その可能性に気づいた彼は称賛されて然るべきであった。

 ……残念ながら、今はとてもそんな気分になれそうにないが。


 因みに、ジャスティンは腰を下ろしたのがマズかったのか、それとも胃の中に食物を入れたのが悪かったのか分からないが、既に思考する事を放棄して夢の世界へと旅立っていた。

 コックリコックリと舟を漕ぎながら、小さく鼾のような音まで聞こえてくる始末である。

 思わず彼に八つ当たりをしそうになった拓真であったが……ついさっきまでの騒々しさを思い出し、静かにしているなら良いか、と思い直したのか、無視してアランの話の続きを聞く事にした。

 彼の隣では、クラウスも彼と似たような何とも言えない表情で座っている。


「なぁ、その二番目の仮説と三番目の仮説、どっちがマシだ?」

「……どっちも変わらないと思う」


 はい、予想通り。


 アランから提示された絶望的な未来予想図に、言い返すこともできずに頭を抱える三人。


「「……」」

「ぐ~」


 訂正、二人。


 空は雲ひとつない晴天なのに、拓真とクラウスとアランの心の中は、ブ厚い雲に覆われてどんよりと曇ったままであった。

 晴れ晴れとしているのは、呑気に熟睡しているジャスティンの能天気な寝顔だけである。

 危機感ゼロであった……。


 三人は、光の消えた目のまま互いに頷き合うと、熟睡している無防備な愚か者に正義の鉄槌を下すべくゆっくりと立ち上がる。

 咲き誇る数多の花々を震わせるように、男たちの怒声と悲鳴があたりに響き渡った。










まだまだ序盤なのに、もう読んでくださっている方がいるようでビックリしました。

ありがとうございます。

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