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プロローグ

初投稿です。

よろしくお願いします。

 彼の前にはどこまでも道は続き、彼の後にも延々と道は続いていた。


 目の前には、見渡す限りの大草原が広がっている。

 その緑の絨毯をふたつに割るようにして、寂れた街道が遙か彼方までどこまでも伸びていた。


 何処かの偉い人が、『道は自分の前にあるものではなく、自分の後にできるものだ』などと偉そうな事を言っていたような気がする。

 だが、そんなどうでも良い哲学的命題は横に置いといて、現に彼の目の前には、人々の生きた証の積み重ねの結果としての道がずっと先まで続いていた。


(昔の人は偉かったんだなぁ)


 などと、つくづく思ってしまう。

 無論、偉いのは、道を作った名もなき無数の人々の方であったが。


 街道は一見、土を踏み固めただけの粗末な作りに見えるが、よく見ると長年の風雨に晒されてあちこち欠けたり割れたりした石畳が、半分以上、土に埋もれているのがわかる。

 もう何年も、いや何十年もまともに整備されていないのだろう。

 所々に残った轍の後が、かつての繁栄の残滓のように残っていた。


(いい天気だねぇ……)


 少しの間、現実逃避を試みる。

 残念ながら、いや建前上は逃亡者であることを考えれば幸か不幸かと言うべきか、周囲の何処を見回して見ても人の集落はおろか建物らしきものがまるで見当たらなかった。

 それどころか、この街道を歩いている旅人や走っている馬車の姿も皆無である。

 そんな寂寥感漂う旧街道を、彼はのんびりと、いやトボトボと歩いていた。




 彼の名は斉藤 拓真。

 こちら風に言えばタクマ サイトウになる。

 28歳独身。

 恋人は……何それ、美味しいの?

 顔立ちや目つきは、良くも無ければ悪くもない。

 日本人としてはごく普通の黒髪黒目、良く言えば無難な、悪く言えば無個性な何処にでもいる只の凡人Aに過ぎなかった。

 ……もとい、そのはずだった。


 とある企業に勤める平凡なサラリーマンだった彼は、久々の休日にも拘らずベッドの中で惰眠を貪っていたところ、何故か異世界フラジオンにあるアールセン王国に勇者として召喚されてしまった。

 ……トランクス一枚で。

 その場に居合わせた女性たちからは(一部の男性からも)悲鳴を上げられ、近衛騎士団長と名乗る偉そうなおっさんに胸倉を掴まれて文句を言われたりしたが……国王の取り成しもあり、その場で無礼討ちという最悪の事態だけは何とか回避できた。

 今になって思えば、あれは俺のせいか? と思わなくもなかったが。


 ふと思い返してみたところで、彼は別にトラックに挽かれたこともなければ、怪しいウェブサイトをクリックした覚えもない。

 ましてや怪しい謎の光に包まれた記憶もない。

 神と名乗る存在と不可思議な取引をして、不思議なチート能力を授かったりもしていない。

 文字どおり気がついたらといった感じであったので、勇者としては完全に”ハズレ”扱いされてしまったのだが、そんな事をこちらに文句を言われたところでどうしようもない。


 拓真の、一度ならずとも夢にまで見た異世界召喚は、まさに”ないない尽くし”の異世界召喚であった。


 まぁ、良い。

 今更、何を言っても始まらないし、最近ではよくあることなのだろう。


(いやいや! 滅多にあることじゃないから!)


 そして紆余曲折の末、アールセン王国国王レナード二世と名乗る偉そうな初老の男性に、直々に魔王の討伐を依頼され(お約束だ)、

 幾多の艱難辛苦を乗り越えて(そのうちの8割以上は魔王とは何の関係もなかったが)、

 何とか魔王城に辿り着き(テンプレどおりで何の面白みもなくて申し訳ないが)

 魔王にプロポーズした。


「俺……何やってんだ?」


 それはこっちのセリフである。

 それに、今更気づいたように言ったところでもう遅い。


 そんな彼の、どうでもいいくらいに自業自得で、疑問なのか自虐なのかよくわからない問いに答えてくれそうな親切な奴は、残念ながらその場にはいなかった。

 吹き抜けていく一陣の強い風が、草原の無数の草花を押し寄せる波のように揺らしつつ、街道の細かな土埃を中空に巻き上げながら走り去っていった。









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