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08 投獄からの……?

 村に入ると、いきなり頭から布の袋をかぶせられた。

 首のあたりでしぼられたので、顔の下で見えていた光も入らなくなる。

 まっくらだ。


「抵抗するなよ」

 アリンさんの声。


 おとなしく、腕を引かれてついていく。

 声は、たまに遠くから聞こえるけれども近くからは聞こえない。

 でも、人がいるような感じはした。ちょっとした物音や、息づかいのようなもの。

 こっちを無言で見ている感じだ。


 途中から、コツ、という足音が聞こえたと思ったら、足の裏がひんやりした。

 

「止まれ」


「進め」


「階段だ」


「進め」


「止まれ」


 まわりの空気がひんやりしたところで止まった。

 アリンさんが俺から手を離したので、足もとからのひんやりした感触ばかりが伝わる。

 まわりで、キイ、という金属がこすれる音。

 ガチャガチャ、という、やはり金属の音。


「動くなよ」

 手首、足首に、ガチャリ、と輪のようなものがつけられたようだ。


 そして、ガシャン、と扉が閉まるような音がした。


「頭の袋を外していいぞ」

 首のあたりをしぼっていたひもを外すと、袋を外すことができた。


「ここは……?」

 薄暗い部屋だった。

 石造りの部屋だ。

 俺と、アリンさん、あと村民と思われる三人の男の間には、鉄格子があった。そちらのほうは、奥に行くと階段があり、上から光がさしている。


 俺のほうは、部屋、というか檻だ。

 手錠、足錠がかけられていて、それぞれ、鎖がのびていく。石に埋められた杭とつながっていた。


「これは?」

「ここは、この村の牢屋だ」

 ですよね。


「明日、山をおりる。それまで入っていろ」

「牢屋じゃないとだめですか?」

「だめだ。お前は、王都まで行きたいんだろう?」

「はい」

「だったら、このくらいのことは受け入れろ。それとも、村の外に放置してやろうか? 夜になると面倒な魔物たちがうようよしているぞ」

「いいえ!」

 グルルみたいに気のいいやつが来てくれるとはかぎらない。

 

「ここでおとなしくしています!」

「では、明日までここにいろ。じゃあな」


 アリンさんたちは、あっさり俺に背を向けて、行ってしまった。


「あ」

 ズズズ……、と音がして階段の上の扉? が閉じたようだ。光がほとんどさえぎられてしまった。

 すごい暗い。

 うっすらと自分のことが見えるだけ。

 え、本当に明日までここに?

 どこか、明かりが入りそうなところは……。

 ちょっとうろついたら、鎖がぴん、と張った。


 牢屋自体は、ベッドを4つくらい置けるくらいの広さはある。

 でも鎖の長さは、俺の身長くらい。

 壁に固定されるよりはましだけど、あまり動けない。

 それにベッドもない。石の上で寝ろということか。

 はあ。

 グルルのすみかのほうがましだった。


 グルル。どうしているだろう。

 たまたま、偶然、手ちがいで俺を押してしまったことを後悔しているにちがいない。

 グルルを探して、そのまま大きな町まで乗せていってもらったほうがよかっただろうか。


 そういえば。

 アリンさんの矢が当たっても平気だったのはなんだったんだろう。

 スキルがどうのこうの、と言っていたけど。

 スキルっていうと、もらえる人は、十歳のときに天から授かるっていう、あれだよな。

 そんなの持ってるわけないんだよな。


 じゃあ、なんで矢が平気だったんだろう。


「あ」


 ひらめいた。

 もしかして、俺が体を洗った湖の水か?

 あれに、なにか含まれていたのかもしれない。

 グルルが変に嫌がっていたし、魔物が嫌いななにか。

 人間にはとってもいい、なにかが。


 たとえば、そう。

 超回復の水。

 そんなものだったらどうだろう。


 矢は、実は当たっていた。

 でも、俺が痛みを感じるよりも早く傷がふさがり、回復した。

 矢の先がつぶれていたのは、単に、アリンさんの管理不行き届きだ。

 湖の鳥は死んでいたけれど、魔物や人間以外の動物には効かない。

 とすれば納得できる。

 水浴びした人間は、一定期間、ものすごい回復力を持つのだ。

 思い返してみれば、あの湖は生き物が近づかず、不自然なくらいのきれいさがあった。

 人間専用だったんだな。うん。


 樹海とか言っていたし、そういう、神秘的なものがあってもおかしくない。


 そうだそうだ!

 すっかり謎が解けて、気持ちが軽やかになった俺が檻の中を歩いていたら、右手首の鎖がピン! と張った。


 晴れやかな気持ちから、暗い牢屋にもどされてしまった。

 ……鎖、じゃまだな!


 俺は、腕を乱暴に振った。

 パキン!


「えっ?」

 引っ張る鎖の感触がなくなった。

 左手で、右手錠から伸びる鎖をたどっていくと、すぐ切れていた。


 石の床をたどっていってみる。

 切れている鎖の先が見つかった。

 そうか。あまり使ってなくて、もろくなっていたのかもしれない。

 でも怒られたらどうしよう。


 不意に、奥が明るくなる。

「そうだ、忘れていた」

 とアリンさんの声。

 もどってきた!


「な、なななんでしょう!」

 俺は急いで鎖を拾って、右手首にそえた。


「……なんだ?」

 檻の前にやってきたアリンさん、疑いのお目々。


「あ、ちがいますちがいます別に」

「なにがちがう」

「あ、えっと、明るくなって、すごくうれしいな! と思っただけです! できれば、明るさだけ、もうちょっといただけないでしょうか!」

 アリンさんは疑いの目で俺をじっくり見た。

「……言い忘れたが、食事はこれだ」


 アリンさんは、お盆を持っていた。

 丸いパンと、コップに一杯の水。


 鉄格子の下にある、細い口からお盆を入れて、俺の側の床に置いた。


「ありがとうございます!」

「ではな」

「あ、あと!」

「なんだ」

「スキルの話なんですけど」

「ああ」

「あれって、あの、十歳くらいで、持ってるかどうか検査する、やつですよね?」

「そうだ」


 スキルは、もらえる人は、十歳までに身につけると言われていた。

 町や、いろいろな場所で検査をする。

 だから、すごいスキルを手に入れた人は、自分もよくわかってるし、周囲の人にもおおよそ知られていることが多いくらいだ。


「俺、スキルなんて持ってなかったはずですけど」

「ではなぜ矢が効かなかった」

「あの、俺、ピンときたんですよ……」

「なんだ」

「この森に、湖とかありますよね」

「あるな。毒の」

「え?」


「巨大な魔物が死ぬと、その魔力で土地が沈む。そこに染み出した水分が魔力を帯びて、毒の湖となる。外見は美しいが、あらゆる生物にとって猛毒だ」

「……」

「それがどうした」

「えっと、人にいい効果がある、っていう湖はないんですか?」

「ない。いや、絶対にないとは言い切れんが、私の調査と、村人の話をあわせて考えると、ふつうの湖か、毒の湖しかないだろうな」

「超回復が身につく湖で、矢でケガをしても一瞬で治るようになる! とか」

「矢が刺さって傷が治ったら、矢が刺さったままだろう」

「……」


 たしかに。


「……じゃあ、どうして俺に矢が効かなかったんですか?」

「私がきいているんだ!」

 ビリビリと、アリンさんの声が響いた。

 

「すいません」

 アリンさんは、なんだこいつは、という顔で俺を見てから、行ってしまった。


 奥の光は、入ってきているままだった。

「ほっ」

 よかった。

 やさしいアリンさん。

 暗闇で食べるパンなんて、おいしくなさそうだもんね。



 それから、すっかり暗くなっても、誰も来ない。

 光も入ってこなくなって、真っ暗だ。

 寝るしかないか。

 と思っても寝られない。

 なにしろ、座っているだけで体が変な感じになりそうなのだ。

 いっそ、立って朝を迎えたほうがましなのでは?


 なんて思っていたころ、大きな声に目が覚めた。というかすっかり寝ていた。


「なにを入れた!」

 女性の声だ。


「これは私だけでなく、王都に対する……。やめ、やめろ……!」

 声はだんだん弱々しくなっていって、聞こえなくなった。

 ……。

 なんか、だいじょうぶ?


 そう思っていたら、急にどやどやと足音が近づいてきた。

 光も近づいてくる。


 たいまつを持った男たちが牢屋にやってくる。

 がっちりした体格の男が、三人、四人と。

 みんな槍を持ってる。


 牢屋の鍵が開いた。

「出ろ」

 男のひとりが言った。

 あまり友好的な感じではないですね。


「は、はい」

「おい」

 男のひとりが言った。


「なぜ鎖が切れている」

「えっ」

 あっ。


「いや……、最初から、切れてましたけど……?」

 いちおう言ってみた。


「……」

「……」

「……」

「……」

 精神力を削られる無言……。


「まあいい。来い」

 許された!


 男が槍を俺に突きつけ、その状態で残りの手足の輪が外された。

「来い」

「はい」

 監禁場所を変えるんだろうか。

 なんで?


 そう思ってついていったら、村の広場のようなところで、ロープで手足を縛られたアリンさんと対面することになった。

 え? え?

 なんで?

 なにごと?

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