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06 美女に殺される

 俺は右手で股間を隠しながら女の子を追いかけた。


「待って、ちがうんだ!」

「きゃー!」

 女の子は、道の先へと逃げていく。


「待って! 話せばわかるから!」

「きゃー!」

「あっ。ちがうんだって!」

 俺は股間をおさえなおす。

 とにかく話だけ。

 話だけ聞いてもらえたら。


 なんとか追いついて、あいている左手で女の子の肩をつかんだ。

「頼む、話を聞いてくれ!」

「きゃー!」


 女の子がひときわ大きな声をあげたときだった。


 ドッ!

 ひざになにか当たった。

 なんだ、と見ると、矢が落ちていた。

 俺が気を取られているうちに、女の子が走り出した。


 追いかけようとしたらさらに、ドッ、とまたひざに矢が当たって落ちた。

 見ると、どちらも矢じりのところが潰れて丸みがある。

 なんだこれ。


「恥を知れ!」


 見れば、道をまっすぐ言った先、村の入口近くの外壁の上に誰かが立っていた。

 弓を持った女性だ。二十歳くらいだろうか。

 胴に軽そうな鎧を身につけ、髪を後ろでぎゅっと縛った、気の強そうな美人だ。


 大急ぎで走っていった女の子が扉の中に入ると、すぐに閉まった。

「そこの男、動くな! 質問に答えろ! どこから来た! 答えねば今度は頭を射抜く!」」

 そう言って、矢をつがえた。


 二十歩? 三十歩? まあまあの距離がある。

 かといって、矢が得意は人は、それこそ離れた船の上にいる人間を射抜くこともできるらしいから、こんな距離など問題ではないのかもしれない。

「どこのクズだ!」

 女性は言う。

 どうやら誤解をしているようだ。


「いや、あの俺は別にあの女の子をどうこうするつもりじゃなくて」

「よけいなことを言うな!」

「あ、はい……。俺はバインといいます」

「どこの者だ!」

「コッサという町の者です」

「コッサ? ……どこの町だ!」

「どこって……。あの、平原の。コッサ平原っていう」

「コッサ……。お前、どこの話をしている! そんな平原は別の大陸にしかない! ふざけたことを言っていると命はないぞ!」

「そんなこと言われても……!」


 俺は思わず、二、三歩さがる。

 女性は、なにかうたがうようにこっちを見た。

「お前、ひざはどうした」

「え?」

「ひざに矢が当たっただろう!」

「はい、たぶん」

「なぜ平気だ!」


 俺は落ちている矢を見る。

「先が丸いからじゃないですかね」

「丸かろうが、金属のかたまりが高速で当たっているんだ!」

 俺はひざを見る。


「平気ですね」

「そんなはずがあるか!」

「当たりどころがよかったんじゃないですかね。ちょうど、こう、関節じゃなくて、ふともものあたりとか」

「本当にそうか!?」

 俺はふとももを見る。

 別に色が変わっているところはない。


 というか、ドッ、となにかひざに当たったような感触はある。

 でも彼女が言っているとおり、当たったら痛かっただろう。

 とっても痛かったはずだ。

 そもそも、ふとももに当たってもものすごく痛かったはずだ。


 じゃあ、当たってなかったのでは?


「当たってなかったのでは?」

「うそをつくな!」

「だって、痛くないですし、見た目も特に……」

「とんでみろ!」

「はい」


 ぴょん、ぴょん、とその場で跳ねたら、女性は困まったような顔になった。

「くっ……!」


「えっと、それでなんなんですか?」

「お前こそなんだ! まだ十歳にもならぬ少女を襲って欲望を満たそうとするなど、見過ごせん!」

 勇ましい表情をとりもどした女性は、また弓を構えた。


「え、ちがいますちがいます! 俺はただ、助けてほしくて」

「ふん、そうか。俺の人生を助けてくれ、なにもない人生を、君の体で豊かなものにしてくれないか、と少女に迫ったんだな! よだれをたらしながら、股間を見せつけ、関係を迫ったんだな! この、人間のクズめ!」

 女性の怒りは頂点に達していた。


「ちがいます! 崖から落ちただけです!」

「いよいよわけのわからないことを言い出したな!」

「あ、いや、そもそもの話を聞いてください!」

 俺はとりあえず、地面にひざをついた。


「抵抗する気はないので!」

「……」

 彼女はこっちをじっと見ている。


「聞いてもらえれば、たぶん、理解してもらえるので!」

「……」

 彼女はこっちをじっと見ている。


「あの、俺はそもそもコッサの町で、俺は武器屋で手伝いみたいな感じで働いてたんですけど、路地で変なやつらに捕まって、なんか、魔法でここに飛ばされたみたいなんですよ!」

「魔法で?」

「転送しろ、とか言ってたんで!」

 たしか。


「転送魔法は、かんたんなものではないぞ。王都でも使い手はほとんどいない。そのような魔法を誰が使えるというのだ」

「知りません!」

「そして、お前にその転送魔法を使う意味もない」

「わかりません! でも、そうなんです! 森の中で魔物から逃げたりして、服がぼろぼろになったからこんなことになっただけで、本当に、俺はただの全裸男なんです! だって、強そうでもなんでもないでしょう!」

「ふうむ……」


「とにかく俺は、もとの町にもどりたいだけなんですよ! 女の子とか襲う気は全然ないですし、むしろ服は着たいです! 服期待です! ボロボロのボロ布でもいただきたいです! あと、コッサにもどるために、なにか働かないといけないのなら、そうしますし! 本当に、本当の、本当です!」


 俺は地面に手をついて、頭を下げた。


「……」

「お願いします!」

「……よかろう。ただし条件が」

「えっ! いいんですか!」


 やった! と俺が飛び上がるように立ち上がると、彼女の表情が一変した。


「誰が前に出ていいと言った!」

 女性はいきなり矢を放った。


 そして矢は、俺のおでこにドン!

 死んだ!


 と思ったら、ぽとりと俺の前に落ちた矢。


 自分の額を触ってみると、特に傷はなさそうだった。

 矢を拾ってみる。

 先端、矢じりがつぶれたようになっている。

 あれ……?

 死んだよな……?


「恥を知れ! 動くな!」

 女性は矢を構える。


 最初にもどってしまった。

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