05 第一村人発見
グルルのすみかは、大きく張り出した岩の下だった。
入っていくと、枯れた植物が積み重ねてあって、ふかふかの寝床が。
俺は、はしっこを借りて寝た。
意外にも、そのへんの安宿のベッドよりもずっと寝やすかった。
起きると、俺はグルルと一緒に木の実を食べた。
木の実といっても俺の顔よりも大きい。そして、中は甘酸っぱくてみずみずしい。
「うまいな」
「グル」
グルルはどれだけ食べるのかと思ったら、一個しか食べなかった。
「それで足りるのか?」
「グル」
意外と少食なんだな。
さて。
居心地は悪くないけど、もどらなきゃな。
俺をさらった奴らのことを、町の警備隊にちゃんと言っておかないと。店長とか、いろんな人が被害にあうかもしれない。
あいつら、なんなんだろうな。
「グルル」
「グル?」
「お前、この森から人間の村に行く道とか、知ってるか?」
「グル」
「え、知ってるの? 俺、行きたいんだけど」
「グル?」
グルルは、前に出て足を曲げ、振り返った。
「乗れってこと?」
「グル」
「なんだよ、今日はやる気あるじゃん」
俺はグルルに乗った。
グルルが森の中を走り出す。
「どうしたんだよ、なんかやる気だな」
「グル」
「俺と離れるの、つらいだろ?」
「グルル」
「早く離れたいのか?」
「グル」
「こいつー」
俺がグルルの頭をグリグリやると、グルルがふらついた。
しばらく進んでいくと、視界がぱっ、と開けた。
遠くまで見通せる。
なんだか、ちょっと、黒く見える、先がとがった山が遠くにいくつかあって、おそろしい印象だけど、このあたりはまだ木々がたくさんある。
「おお……、おお!?」
眼下は崖だ。
ずっと岩肌が下まで続いている。下は草原だ。
崖のすぐ近くは木々がない。
そこから、森の中を細い道が通っていくのが見えた。
たどっていくと、ぽっかりと、森の木々がない場所がある。
敷地を囲んでいる木の壁と、中にはいくつも木造の屋根が見えた。
村だ!
村の周囲は丸太でつくった壁が一周している。
開閉できる木の扉が見えた。
外壁にそって家がならんでいて中央に広場ができていた。
というか。
森だと思ってたけど、これ、ふつうに山の中っぽいな。
「よいしょっと」
俺は、グルルからおりた。
近くの木に手をかけて、崖のギリギリまで乗り出してみた。
崖から直接行ければ楽だけど、かなり急だ。落ちたら大変なことになってしまうだろう。
直線的に、最短距離を行こうとする、その近道を求める気持ちが、こんな面倒なことを引き寄せたともいえる。
やっぱり、人生に近道なんてないんだよな。うん。
「よし、いったん」
と俺がグルルに言いかけたときだった。
ドン!
「えっ」
背中を押されて俺の体が宙を舞っていた。
体が反転しながら見えたのは、頭で俺を押し出したグルルの顔だ。
どことなく、笑っているようにも見えた。
「なにをするー!!」
俺はゴロゴロと崖を転がり落ちていった。
むくり。
「あーびっくりした」
俺は崖の下で起き上がった。
立ち上がってみる。
意外とどこにもケガがない。
痛みもない。
見上げると、崖は、岩が変に突き出ているところや、岩の間からにょっきり出ている枝もある。
ああいうのに当たったら大ケガしていただろう。
どうやら、奇跡的に運良く、ちょうどいい感じで岩肌を転がって落ちてきたようだ。
……そんなことありえるか?
もちろん、確率はとても低いだろう。
だからといって、確率が低いことと、絶対に起こらないのは別だ。
こんなところに飛ばされるくらい運が悪いんだから、崖から落ちても助かるくらい運がいい。
そういうごほうびだって、あっていいと思うんだ。
グルルの姿は見えない。
「あいつ、なんなんだよ」
立ち上がる。
「ひゃっ」
近くで声がした。
カゴを背負った女の子がいた。
十歳くらいだろうか。
カゴの中には、たくさんの葉っぱが入っている。
山菜でも取りに来たんだろうか。
ちょうどよかった。
村の人だろう。
「あ、どうも、あの村の人ですか?」
「きゃー!」
「えっ」
女の子は村の方へと走り出した。
なんで?
「あの、ちょっと」
ついていこうとすると。
「きゃー! きゃー!」
女の子はますます叫びながら、俺から一歩でも離れたいというように走っていく。
ちょっと、なんだよ!
そんなに俺、変な見た目かよ!
ひどい! 傷つく!
気持ち悪いと思ったとしても、積極的にこの人には関わりたくないなあ……、くらいの態度でとどめてくれよ!
と思ったけど。
「あ」
俺は立ち止まって、自分の格好を見た。
全裸だった。