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39 よろしくおねがいます!

 約半日後、俺たちは神殿にいた。



 神殿は、まわりを岩山や大きな湖など、立ち入りにくい地形に囲まれた場所にあった。


 巨大な石造りの建物には、外からでも軽々しく立ち入れない雰囲気を強く感じる場所だ。


 前夜から入り口で隊長が手続きをして、朝になってやっと許可が降りた。

 スキルが使えなくなるという腕輪をつけてから、神殿の中に入ることができた。


 中に入ると巨大な空間があり、中央の高くなっているところで、スキルの消去が始まった。

 階段を上がり、色々なところから集まってくる光の中で俺はなんともいえない感覚になってた。

 眠るような、苦しいような……。


 おどろいたのは、スキルを奪うスキル、が消えたとき、持ち主に奪われたスキルが返っていったことだ。

 武術大会の人たち以外にも、少年がそれまで持っていた人にももどったようだ。スキルを奪うスキルは、他人のスキルの使用権を得る、といった効果だったらしい。


 ただ、それを知ったのは王都にもどってからだ。

 現場では、隊長の体に、剣の雨、のスキルがもどらなかったのでわからなかった。おそらくボスの、スキル入れ替えスキルが影響していると思われた。そのせいで、スキルの所有者があいまいになってしまったんだろう。


 だから、捕まっているボスのスキルも、少年が最終的に持っていて俺が神殿に行く前に奪った、スキル交換スキル、ももどらなかった。



「取り去ることができました」

「ありがとうございました」


 俺は事前に言われていたとおり、深く頭を下げから、階段を降りた。


 待っていたアリンさん、隊長と一緒に神殿を出る。

 やっと外に出ると、ついため息が出た。


「どうした」

 アリンさんが言う。


「つかれました」

 俺が言うと、隊長が笑った。


「ふつうの場所ではないですからね」

「王都に神官が来てくれないっていう理由もなんとなくわかりました」


 そもそも自由に話ができる空気じゃない。

 むだな音がしないから、当然私語もできないし、頼み事を言い出せすのが大変だ。


「では、王都にもどりましょうか」


 俺たちは待っていた馬車の荷台に乗った。

 馬が走り出す。


「いろいろ大変でしたね」

 隊長は言った。


 王都に剣のヤリが落ちてから、まだ一日経っていない。夜になる前に地下牢の戦いを片づけてから、そのまま神殿に向かっていた。さいわいボスが負けたことを知った相手は戦意をなくし、あとはバラバラの、脱獄犯だけだった。ナックルが監視をし、隊長が先頭に立って、みるみるうちに優勢が勝勢になった。


「あの、隊長のスキルは残念でしたね……」

「いいんですよ。もう、使う機会もほぼないでしょうし、こんなふうに悪用されるくらいならないほうが安全です」

「でも、スキルは、人生の一部のようなものなんじゃ……」

「そうですね。こうしている時間も、わたしの人生の一部ですよ」

 隊長は微笑んだ。


「あの、ボスとかいうやつにバインのスキルが消えたことを言ってやりたいな。悔しがっているだろう」

 アリンさんが言う。


「お前が、他人からスキルを奪うスキル、を手に入れたら、自分勝手に世界を荒らすと思い込んでいたからな」


 ヤリを始末してからいったん、隊長たちのところにもどったけれども、そのときのボスのはしゃぎかたといったら、どうかしていた。俺が世界征服でもすると思っていたみたいだ。

 スキルを消すと言ったときのおどろきっぷりもすごかった。


「頭がおかしいって何度も言われましたよ」

 せっかく世界をひっくり返せるのに、と。

「頭がおかしいやつに言われたな」

 アリンさんが笑う。


「ところでお二人は、あの少年のこと、どう思いますか?」

 隊長が言った。


「どう、っていうのは?」

「バインさんの印象ではどうですか。彼の考えについて」

「えっと……。それは……。なにか言う立場にないかな、と」

 俺は、少年のまっすぐな目を思い出した。


「立場にない?」

「いや、立場っていうか、まあ。あの少年のやり方はまずいと思いますけど、そもそも俺は、あの少年みたいな、世界をちゃんとしないと、っていうような強い気持ちはないんで。武器屋で、なんとなく生活してただけで、特になにも、という感じだったんで……。なにか言う立場にないかなって」

「そうですか」


 草原を通る街道がずっと続く。

 俺たち以外には人の姿はない。


「では問題です」

 急に隊長が言った。


「はい?」

「ひどい事件、ひさんなことがたくさん起きている町で、それをなくすにはどうしたらいいでしょうか」

「え? わかりませんけど」

「アリンさんはどうです?」


「兵を派遣して、規則をつくり、それを守らせることでしょう」

 アリンさんはすぐ言った。


「なるほど。バインさんはどう思います?」

「えっと、アリンさんみたいな感じでいいんじゃないですか?」

「つまり?」

「ひどいことを起こす人がいるなら、それをさせないようにして……。あ、ひどいことって、災害みたいなのも含むんですか?」

「どう考えてもいいですよ」

「じゃあ、川の整備とかも、ですかね」

「なるほど」

 隊長はうなずいた。


「いい考えですが、それでも、ゼロにはならないでしょうね」

 隊長は言った。

「答えがあるんですか?」

「あります」

「なんですか」


「町の人間が全員いなくなればいいんです。そうすれば争いはなくなる」

 隊長は言った。


「それって、なんか……。そういう問題ですか?」

 いじわる問題みたいな?

「ずるいですか?」

「はあ」

「わたしも、この話を聞いたときにはなんとなく、そう思いましたよ」


「でも、こう解釈しました。なにか劇的な効果を求める場合、極端な力が必要です。1か0かというような。それがつまり、あの少年です」


「急激にやってくる平和があるとしたら、それはなにかが、ねじ曲げられている。その反発力がたくわえられたまま、いつか暴発するかもしれない。神様はいないんです。いえ、そうじゃないですね。神様がいるとしても、その力を頼るようでは状況は変わらないという考えです。神様には、見守ってもらうくらいがちょうどいいんじゃないでしょうか」


「なるほど……」

「ええ。つまりバインさん、遠征兵になりませんか?」

 は?


「なんの話ですか?」

「これからバインさんは、いままで通りの生活はできないと思ってください」

「え?」

「闘技場でたくさんの人が、バインさんが派手に剣を吹き飛ばした様子を見ていたでしょう。もう、特別な強さの人だと知られてしまったんです。注目度は、武術大会の優勝者以上ですよ」


「バインさんにはそこにいるだけで、意味、ができたんです」

「意味?」

「力です。軍隊が町にやってきたら、それだけで意味ができるでしょう? バインさんは、強い力なんですよ」

「え……、でも俺はそんな……」

「わたしたちは知っていますよ。バインさんは軍隊といったものとはちがうと。積極的に戦いたがらない、戦いに関わりたがらないことを。しかしまわりはそうではない」


「警備兵、近衛兵あたりも当然ほしがる人材です。侵略への転用もうたがわれる。だからこそ、スキルを消すのは急がれた。スキルがあったら、それこそ、ボス、のいうようなことを求められたかもしれない」

 たしかに、隊長にかなり急がされて神殿に向かった。


「じゃあコッサにも、もどれないんですか?」

「このままでは。そのための遠征兵です」

「え?」

「コッサは大きな町ではないですね? そんなところに、バインさんが行ったら周辺の地域はどう感じるでしょう。でも、遠征兵という肩書は、それを緩和するのです」


「遠征兵なんて、公的な冒険者みたいなものだ。個人の権限が大きい」

 アリンさんは言った。


「極端にいえば、定期的に王都にもどってくれば、あとは自由にどこに行ってもいい。無論、任務を果たさなければ収入はないし、犯罪行為は厳しく処罰される。だが、のたれ死んでも気づかれないこともあるくらいだ」


「今日だって任務でどこに行っているか、生死もわからないやつらもいる。ただ、遠征兵になることはお前にとって大きな負担だろう。お前は軍人でも冒険者でもないのだからな」

 アリンさんは俺を見る。


「どうする?」

「やります」

 俺が言うと、アリンさんは変な顔をした。


「まだ考えてもいい」

「二人が、俺のことを考えてくれてるのもわかりますし、俺も、俺のことをちょっともてあましてるっていうか、いろいろなことに詳しい人たちの近くにいたほうがいいっていうのは思いますし。それに。隊長のスキルの分、なにかしたいという気持ちも」

「バインさん、それは気にしないでください」

「しますよ。というか、隊長もちょっと、それを気にさせようとしてますよね?」


 俺が言うと、隊長はちょっとわらった。


「俺なら、いずれ、はい、って言うだろうと思って話し始めてる感じがして。なんか、そういうふうに持っていってますよね? なんとなくわかりますよ。わかりますけど……、たぶん、俺が暮らしにくくなるのは、実際そうなんだろうし、だったらのっかります」


「なんか、遠征兵っていう、俺のことを考えてくれてる部分がある人たちに、ついていったほうがいいと思うんで。だから。よろしくおねがいます」

「本当にいいんですか?」

「確認ですけど、辞めたくなったらすぐ辞められたり、命令拒否したくなったら、できるんですよね?」

「ええ。警備兵や近衛兵はすぐには無理ですが」

 隊長が笑う。

 俺も笑う。

「では、遠征兵で、よろしくおねがいます!」


 隊長が手を出した。

「こちらこそ」

「はい」

 俺はその手を握った。


「こっちもだ」

 アリンさんが手を出した。

 握手する。


 と。


 アリンさんが立ち上がり、そのまま俺を引っぱった。

「うわっ」

 馬車から落ちる。


 と思ったら。


「おお!?」

 馬に乗っていた。

 アリンさんの馬だ。


「隊長。このまま新人研修に行ってきます」

「ええ!?」


「いまからですか?」

 馬車から隊長が言う。


「細かい手続きはそちらでお願いします」

「スキルを持っていないことの証明が……。いや、神殿に証明してもらうことはできますね……」


「行ってもいいですか、隊長!」

 アリンさんが声を張り上げる。

「……どうぞ!」

「では」


 俺たちの乗っている馬が、馬車から離れて走り出す。


「アリンさん、なにやってるんですか!」

「新人研修だと言っただろう。これからしっかり仕事を教える」

「俺がどこか行くと、意味があるとか言ってたのはいいんですか?」

「遠征兵という肩書ができただろう。それに私だって多少の意味はある。まあまあ知られているんだ」

「自分で言うんですね」

「お前はきっと知らないだろうからな」


 今日はすこし荒っぽい走り方をさせていた。

 だから景色がぐんぐん変わっていく。


「これからどこに行くんですか!」

「目をつけている岩山がある。そこの湖で、変わった石が手に入るらしい」

「またそんなあやしげな」

「なにがあやしげだ。お前も手伝うんだぞ」

「わかりました先輩!」

「うん。良い返事だ」


 アリンさんがさらに馬の速度を上げた。


 草原が広がる。

 すこしグルルのことを思い出した。

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