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31 これは夢だ

「おい、どうなってんだよ!」

 ナックルが木の陰からこっちを見ていた。


「グルルだよ」

 俺はグルルの背中の上から、こたえた。


「なんの説明にもなってねえぞ」

「ああ、ええと……、ケルベロスっていってたかなあ」

「なんだと?」


「あ、ケルベ・ロス……?」

「区切り方の話をしてんじゃねえよ! なんでお前、平気で三つ首の魔獣の背中に乗ってんだよ!」

「心友、だから……?」

「おかしいだろうが!」


 そうだ、おかしい。


 たしかグルルは転生したはずだ。

 王都の手前で再会し、いつかまた会う約束をした。

 なのにここにいる。

 また転生したのか……?


 そして出会った。

 前前世から俺たちは、おたがいをさがしていた……?


「そうだナックル。グルルに、王都まで連れていってもらうっていうのはどうだろう」

「は?」

「たぶん、グルルだったらすごい速さで行ってくれるんじゃないかな」

「……行ってくれれば、な?」

「そうだ。グルルなら、アリンさんが荷物を忘れた、あの村の場所も覚えてるよな?」

「グル……」


 グルルが俺から顔をそらす。

 元気なさそうだな。


「うん? グルル、どうかしたのか?」

「グルルル……」

「ちょっと、村に連れていってほしいんだけど」

「グル。グルル」

「うん?」


 どっち?


「えっと、グルル。村に連れていってくれない? 嫌なの?」

「グルル」

「じゃあ、連れていってくれるのか?」

「グルル」

 どうしたんだ?


「村には連れていってくれるけど、王都までは嫌なんじゃねーの」

 ナックルがぼそっと言うと、グルルが大きくうなずいた。


「グル! グル!」

「グルル、そうなのか?」

「グル!」

「うーん。でも、どうしても王都まで行きたいんだけど」

「グルル……」

「王都まで行かされるなら、村へも連れていきたくないんじゃねえの? ていうかそもそも、あんまり村へも行きたくねえんだろ」

「グル!」


 グルルが大きくうなずいた。


「え、ナックル、なんでグルルの言うことがわかるわけ?」

「わかんねえよ」

「わかってるじゃないか!」

「とにかく、村に行ってくれるっていうんだから、行ってもらえよ」

「行くよ!」

「なに怒ってんだよ」

「怒ってないよ!! さっさと乗れば! 行くよ!」

「……本当に、ケルベロスに乗ったりしてだいじょうぶなのか?」

「だいじょうぶだよ!」


 ナックルが、おそるおそるやってくる。


「……だいじょうぶか?」

「だからだいじょうぶだよ! グルルは優しいんだ」

「そうじゃなくてよ。こいつ、あんまり、乗られるのとか好きじゃねえんじゃねえの?」

 ナックルが言うと、グルルがはっとしたようになって、それから大きくうなずいた。


「ほら。やっぱ、ケルベロスだから、あんまりそういう扱いはされたくないよな?」

「グル!」

「でも行かなきゃ、王都が!」

「王都のことは、こいつには関係ないだろ」

 ナックルが言うと、グルルがナックルをじっと見た。


「村へは遠いのか?」

「グルル」

「すぐ到着するのか。……だったら、案内だけしてもらって、おれたちは村まで走ってついていこうぜ。ケルベロスには、ケルベロスのやり方がある。ほこりだってあるだろ。そりゃ、バインにおどされたらやらざるを得ないだろうけどよ」

「おどしてなんかない! 心友中の心友なんだから!」

 グルルは無言。


「案内だけしてもらおうぜ。それなら、やってくれるか?」

「……グル」

 グルルは、脚を曲げて、地面にふせた。


「どうしたグルル?」

 これはいったい……?


「乗っていいのか」

 ナックルが言うと、グルルがナックルを見て、うなずいた。

「グル」

「でも、ケルベロスが人間に乗られるって、そうとうきついんじゃねえのか?」

「グルル」

 グルルは首を振った。


「気持ちをわかってくれたおれなら乗せてやるって? でも」

「グル!」

「たしかに急ぐけどよ。……じゃあ、村まで頼んでもいいか?」

「グル!」


 グルルは、右の首で、首のうしろあたりを示した。

 俺の前だ。

 そこにナックルが乗る。


「わりいな」

 ナックルが首の根元をなでると、グルルが頭を上げて、気持ちよさそうに目をつぶった。


 そして、グルルが立ち上がった。


「行こうぜ」

「グル!」

「……え、なんでナックル、そんなに、グルルの言うことわかる、の……?」

 なんで一心同体感出してるの……?


「バインもわかるんだろ?」

「グル、がはいで、グルル、がいいえ、っていうことくらいしかわからないけど……。そんなにわかったことないけど……。いまだかつて……。いまだかつて……!!」

「そうか? まあ、おれ、犬飼ってたことあるからな。慣れてんだ」


 そういうことなの?


 グルルが立ち上がった。

「グルルル!」

「行くぞってよ」


 グルルが森の中をすごい速さで走り出した。

 体がうしろに持っていかれそうになり、急いで前傾する。


 木がたくさんある中を、まっすぐ走っているように見えた。


 そして木がとぎれた瞬間。

 前方へ大きく飛び出した。


「うおお!」

 崖だった。


 完全に空中。

 浮遊感が体を包む。

 下に村が見えている。


 そのまま村の中心、広場に着地した。

 グルルの体が着地の衝撃を全部受け止めてくれた。



 村人たちは、あぜんとこっちを見ている。

 でも、すぐひざをついた。


「森の主さま……!」


 ナックルがグルルの首をなでると、グルルが脚を曲げた。

 ナックルが広場に降りた。


「おお、主さまが……!? この方が、主さまの、主さま……? 主主さま……!!」

 あるじあるじ……?


「ききたいことがあるんだが」

 ナックルが言うと、村人はみんな、深く頭を下げた。


「ははー! どんなことでも、なんなりと……!」


 ……。

 ……。

 えっと……。

 俺は……。

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