24 ただの少年にする方法
「この国には死刑がないのです。それは悪いことばかりではないのですが」
隊長さんは言った。
兵舎の二階に来ていた。
二階は、一回の広間のところが食堂のようになっていて、長い机がふたつで、四十席くらいある。
そこに兵士が着席していた。
三十人くらいだ。
警備兵とは別の、遠征兵限定らしい。
遠征兵は、距離に関係なく、王都の外の案件を多く扱うらしい。
前側に兵士が集まっていて、俺は一番うしろの席に座っていた。
なんか隊長さんが、いま俺から目を離すわけにはいかない、とかいうので無理やり座らされたんですけど。
場ちがい感がすごい。
「あの少年はこれから、スキルを封印された状態で、地下深い牢屋で人生を終えることになるでしょう」
「危険ですね」
兵のひとりが言った。
なにが?
「そうです。スキルを奪うスキルを持った人間、神になると宣言した人間が、この王都にいることが知られていくでしょう。長期間です」
「彼を外に出す人間が現れたら」
「そうですね。共感か、悪用か。どちらが原因でもおそろしい」
「外部とはかぎらない」
「そのとおり。内部にも、異分子が生まれる可能性がある。その可能性は、決してゼロにはなりません。非常に危険な時代が続いてしまう」
隊長さんは言った。
「ですが、身柄を拘束した段階でもう、殺すことは不可能。また彼は少年であるし、ひとりの死者も出しているわけではない。特例の死刑も、あの、平和の王、では許可しないでしょう。となれば第二の案。神官に、少年のスキルを消していただくしかない。できるだけ早く」
なんだ、絶望的な話でもするのかと思ったら、解決しそうじゃないか。
「どうしますか、隊長」
「そうですね……」
絶望的な顔をしている。
「神殿に、少年を連れていくしかない、のでしょうかね……」
「ですが少年を、地下牢においておくより、ずっと危険です。道中、なにがあるか」
「そうですよねえ……」
「しかしやるしかないだろう。今後、王都の治安が悪化するようなことがあれば、とんでもないことになる」
「地下牢だけは厳重にすればいい」
「それが完全ではないから言っているんだろう!」
「神殿に少年を連れ出すほうが危険だろうが!」
「なに!」
「なにを!」
「神官に来てもらえばいいんじゃ」
兵たちがこっちを見た。
小声のひとりごとのつもりだったけど、言い合っているうちの静まりきっていた一瞬、に俺の声が染み入ってしまった。
「誰だお前は」
「あ、すいません……」
だまっていよう……! いつまでも……!
「バインか……?」
近くにいた男に呼ばれた。
「ほら、おれを覚えてないか?」
彼は自分を指して言う。
「いや……」
「さっき、武術大会で。おれ、いたんだよ。服を着ているから、バインて一瞬わからなかったな」
失礼なことを言う男だ。
「隊長。彼を連れていけば、神官を派遣してくれるのでは?」
失礼な男が言った。
「神殿は、神官を危険にさらすのを最も嫌うんだ。強固に守られている神殿から神官を出したくない。たとえ王都でも断られる。ただ、バインの、神の子でも捕まえるその力を示せば、派遣してもらえるんじゃないか?」
失礼な男が親切に説明してくれた。
「なるほど」
隊長さんが言う。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺は立ち上がった。
武術大会の、あの少年と戦っていた俺は、起こし員さんの力で最強ぶっていただけの俺なので、俺を連れていったところでどうにもならないはず。
あれ、でも起こし員さんは関係ないって、誰か言ってたっけ? じゃあなんなんだ?
「それは名案ですね」
隊長さんが無責任なことを言う。
「もともと過去に、王都側の不手際があったせいで、神官の派遣を断られるようになったのですから、強い説得材料があれば、王都まで連れてこられるかもしれません。少年を連れていくより、協力的な神官を王都に連れ帰るほうがずっとやさしい」
「え、でも、俺が力を示せ、とか言われたらどうするんですか?」
「力を示せよ」
親切な男が言った。
「強く、速く、硬い。あのブレイより強かったんだ、文句を言われる筋合いはないぜ」
「ブレイより?」
「おいおい」
食堂がどよめいた。
俺の心も、どよめいている。
「バインさん、よろしくおねがいします」
隊長さんが言う。
「いや、おねがいされても」
「この件がうまくいったら、バインさんが必要な費用として、わたしが個人的に10万ゴールドの支払いを確約します」
隊長さんがとんでもないことを言い出す。
「え? いやそんな」
「確実にコッサに帰っていただきます。ですから、どうかよろしく」
「でも」
「少年の件は、とにかく急ぐので」
「でも」
「おねがいします、こちらを終わらせて、バインさんが無事に帰ってくだされば、すべて丸くおさまるんです」
「そりゃ、俺もうまくいったらうれしいですけど」
「おねがいしますね!」
隊長さんがやってきて、俺の手を取った。
少年のことで困るのはわかるけど、そんなに俺のこと心配してくれるの?
なんか、すごいいい人だな。
「俺にできることなら」
「ありがとうございます!」
隊長さんが両手で俺の右手を握った。




