20 俺は最強ぶる
「もう、いいんじゃないかな?」
俺は少年に呼びかけた。
「俺には勝てないよ。ふふ。スキルを集めても、かならずしも最強になれるとはかぎらない。そう、俺みたいな、すごいやつがいるかぎりね」
俺はさわやかに笑ってみた。
いま、少年には俺が相当強い人に見えているはず。
だったら、いまなら。
「ちょっと話をしよう。いいかな? 俺はぐあああー!」
いきなり天井と床からつららみたいなものが出てきて、俺を串刺しに!
なってなかった。俺のまわりでつららみたいなものは全部折れている。
危ないところだった。
起こし員さんに感謝だ。
おびえそうな気持ちを奮い立たせる。
キリッ。
俺は最強。俺は最強。
最強みたいな顔をしないと!
「わからないのかな? 君の攻撃は、俺にはぎゃああー!」
ビリリリバリリリボワワワとなにかが押し寄せてきて、目の前がチカチカする。
いろいろされすぎて、なにをされているのかよくわからないけれども、ちょっと熱かったり、ちょっと冷たかったり、ちょっとしびれたりするだけで、まあ、どうってことはない。
「うおおおお!」
ピカピカ、ズドドドドド!
いまなら平気かと、起こし員さんの様子を確認しようとしたけど、まわりが削れた石やら炎やら水蒸気やら稲妻やらで、全然見えない。
向こうからも見えてないはずだけど、しっかり防いでくれていた。
「むっ! ほっ! はっ! ふっ!」
ボッ! ゴッ! ガッ! グッ!
ふと、グルルのことを思い出す。
グルルは上手だった。攻撃している遊びのときも、俺のことを傷つけず、うまく遊んでくれていた。
転生して元気にやっているみたいだけど、ちゃんとご飯は食べているんだろうか。
「うぎぎぎぎ!」
ゴリゴリゴリ、ギガガガガ!
これが終わったら、コッサに帰る前に、ちょっと会いたいな。
「べべべべべ!」
ビドドドド、ガドドドド!
……しまった。お金の問題が全然解決してない。どうしよう。
「おうおう! おうおうおうおう!」
カンカン、カンカンカンカン!
問題解決に協力したということで、いくらかもらえないだろうか。
「いいいいい! いいいいいい!」
キュイーン! ギュイーン! ガイーン! コイーン!
バイーン…………!
……。
やっと静かになって、ゆっくりまわりが見えるようになってきた。
少年が立っていて、奥に他の参加者が見えた。
女性がひとり、そっぽを向いた。
それで気づいた俺は、あわてずゆっくりと、股間を手で隠した。服は防いでもらえなかったらしい。
「君はいい子だ。でも、よくないことをした」
俺は少年に話しかける。
「はい……」
「どんなよくないことをしたかな?」
「争いをなくそうとしたのに、争いをしてしまったり……、自分がまだ神様になってないのに、神様になった気でいました」
「そうだね」
うまく言葉が見つからないとき。
そんなときは、どうしてだと思う? と相手に問いかけてみよう。
相手が考えて、答えてくれるかもしれない。
お客さんの、子育て中の奥さんがそんな話をしていた気がする。
「僕……。武術大会に来て、出場者のスキルを全部もらえば、それだけで負けないと思ったのに。バインさんみたいな、スキルもないのに僕より強い人がいるとは思いませんでした」
「だとしたら、どんな問題があると思う?」
「……これから、僕が強くなっても、他にも強い人がいっぱいいて、大変な戦争になるかもしれない……」
「そうだね。頭のいい子だ」
俺はうなずいた。
「このまま続けたら、どうなると思う?」
「きっと、僕はひどい目にあうだけだと思います」
「そうだね。だったら、これからどうすればいいと思う?」
少年はすこし考えた。
「武術大会なら、一気に強力なスキルを集められると思ったんですけど、もっとコツコツと、使い切れないほどたくさんのスキルを集めて、神になってから、行動をおこすべきだったんですね」
少年は大きくうなずいた。
「あ、えーと、そうじゃなくて」
「出直してきます」
少年は言う。
「いや、出直すもなにも、もう、おしまいだからさ。もっと、心を入れかえるための方法っていうか」
少年は壁に手をかざした。
大きな音がして、壁に大穴があいた。
穴の向こうには、広場があった。予選に落ちた人なのか、強そうな人たちがまだ残って、練習みたいなことをしている。
その人たちがこっちを見た。
「なにする気だ」
ブレイが言う。
少年は、ドゴン! ドゴン! とおそらくブレイさんのスキルで壁をこわしていく。
近くにいた人たちがいったん離れるも……。
「お願い、助けて! 殺される! 早くこっちに来て! お願い誰か!」
少年が透明な壁のそばで呼びかけると、数人が、じりじり寄ってきた。
「早く! 強い人たちが大変なの!」
「どうした!? お前、参加者だろ?」
なにを……?
「……おい、立ち位置交換って、結界は影響するのか?」
誰かが言った。
少年がこっちを向いて、にこっ、と笑った。
「試す価値はあるよね?」
「ガキを止めろ!!」
参加者全員が、わっ! と少年に向かっていった。
俺も、走って、手をのばして……。
一瞬あと、俺と少年は広場にいた。
俺は少年の腕をつかんでいて、おどろいた様子で少年は俺を見ている。
これは?