02 男子が死んだ
静かな森だ。
木がたくさんならんでいて、空は見えるけれども、木々の間からなんとか見えるくらいの空で足もとは薄暗い。
空が遠く感じる。
「……え、ここ、どこですか?」
口に出してみた。
誰の返事もない。
さっきの男たちは誰もいない。
どういうことだ?
森なんて、町の近くにないですけど。
しん、としている。
えっと……。
さっきのことを思い返してみる。
まず、なぜか俺はあやしい男たちにさらわれた。
それでなぜかコインを投げた。
手を開くと、つぶれたコインがある。そう、これだ。
何度も投げさせられた、なぜか龍の面しか出ないコイン。
それで、コインをたくさん投げたら、大騒ぎが始まった。
それから、転送がどうとか言ってた。
樹海に飛ばせとか。
それでどこかに飛ばされた。
じゃあ、ここは樹海?
というか樹海ってなに?
まわりを見る。
木がたくさんあるところに飛ばされたということは、まちがいなさそうだった。
「うーん」
とにかく、町に帰らないと。
配達もまだ途中だった。あのおばさんも困ってるだろう。商品はどうなっただろうか。
この森を出て、どっちに行けばコッサの町があるのか。
ガサッ。
音のしたほうを見る。
離れたところ、木の陰から黒い魔物が顔を出していた。
犬っぽい。ただ、犬の倍以上の大きさだ。
目が鋭く、薄暗い森の中で光っていた。
低い、うなり声を上げながらこっちを見ていた。
「……」
近くの木を見る。
幹が太くて背が高く、一番下の枝にも手は届かないだろう。
魔物が一歩、こっちに来る。
え、はやいはやい行動がはやい。
ちょっと待って。
あれは、背中を向けて逃げたほうがいい魔物だろうか。
それとも、背中を向けないで、大きな声を上げるとあっちが逃げてくれる系の魔物だろうか。
冒険者になる気がなくても、冒険者講習に出ておくといろんな知識が得られておもしろいのよ、というお客さんの顔が目に浮かんだ。あなたは正しかった。
魔物がこっちへ歩き始めた。
「わ、まだ考えてるから!」
大声を出してみたけど反応が悪い。
いやむしろこっちに走って来る! すぐ逃げなきゃいけないやつだった!
こんなことなら、近道なんてしなければよかった!
「うわあああ!! ……ああ?」
魔物は、なすすべのない俺の横を、たたっ、たたっ、と走り抜けて行ってしまった。
なんだよ……。
力が抜けて、ひざをついた。
危なかった。
今日は死ぬかと思うのが多い日だ。
本当に。
でもどうしよう。
また今度、あんなのが出てきたらまずい。
木登りする準備をしておかないと。
枝まで、なんとか……。
そっちを見たのは、なにか、視界に入った気がしたからだった。
見間違いかと思った。
だって、なにも音が聞こえなかったから。
すぐそこに、無音で、小屋くらいの大きさの魔物が現れたなんて、思わないでしょう?
大きさだけじゃない。
頭が三つある。
四本の足の長さが、俺の身長くらいあって、だから、とんでもなくでかい。
爪は鋭いし、薄く開いた口からはずらりと牙が。
そして、と頭の中を整理しようとしているうちに、その魔物が軽やかな足取りで俺に近づいてきて。
真ん中の頭が大きく口を開けた。
大きい。
すっぽり、腰くらいまで食べられちゃいそうだな、と思ったらそのまま上半身が、バクリ。
死んだ。