17 いろんな活路
俺以外の仲間たちは、まだなにか話をしている。
待っていたけれどもこっちを見ることがない。
俺の積極性を見たいのかな?
「あの……」
歩いていこうとしたら、髪の長い男がこっちに来る。
なんだ、待っててよかったのかな。
「作戦は、ぼくらで考えるから。そろそろ、こっちも見ないでくれる?」
「えっ?」
「これからもっと他の参加者も来るよね? ぼくらが、仲間同士で動いていると知られたくないよね?」
「あ、なるほど」
仲間であることを知られてしまうと、対策されてしまう。
「そろそろ、ぼくらも離れて行動するから」
「わかりました!」
考えが足りなかったことを、思い知らされた。
俺は席にもどって、彼らを見ない練習を始めた。
これでいい。
でも、名前くらいそろそろ教えてほしい。
ドアが開いた。
別の係員だろうか。俺を見る。
「バインさん。個室のご用意ができました。どうぞ」
「あ、はい」
俺は、控室を出る一瞬前に、ちらっと彼らの方を見た。
無視だ。
俺なんて知らない、という演技がよくできている。
その調子だ。
俺は係員さんと通路を進んだ。
「本通路は、円を描くように闘技場の、客席の下を一周しております。参加者専用通路です」
「なるほど」
たまに横道がある。それが、闘技場に通じる道だったり、係員用の通路だったりするのだろう。
しばらく進んで、ドアがたくさんならんでいる通路の、近くのドアを開けた。
中は、右手にベッドが、左手に机と椅子があった。
ほぼ、寝るだけの部屋、という広さだ。
「こちらをお使いください。このあと本戦の抽選がありますので、予選が終了するまでには、控室におもどりください」
「わかりました」
ドアが閉まった。
ベッドにすわってみる。
いい感触だったので、ちょっと横になってみた。ふつうのベッドに見えたけれど、かたくもなく、やわらかくもなくちょうどいい。
枕も、ある程度頭を包んでくれるようでいて、反発力もある。寝やすそうだ。
考えてみれば、樹海の村から出て、夜通し馬に乗って、そのままだった。
明日に向けて、今夜は早く寝ないと。
不安だ。でも、やるしかない。
コッサに帰……。
「……バインさん。バインさん! バインさん!!」
「え?」
目を開けると、ドアのところに、泣きそうな顔の係員さんがいた。
「うーん、なんですか……」
「早く来てください! もう、参加抽選が始まるんです!」
「参加抽選……?」
「お休みのところ申し訳ないのですが、これも、仕事なので……! お呼びするのが仕事なので……!!」
係員さんが、より、泣きそうな顔になっている。
「バインさん以外の全参加者が、控室に集まっています……!!」
「あ、え!? もうそんなに? いや、寝てませんよ!」
「……」
係員さんは無言で俺を見ていた。
寝ていたらしい。
「お急ぎください、このままだと、抽選に遅れてしまいます……」
「はい、わかりました。……?」
俺はふと思った。
「抽選に遅れると、どうなるんですか?」
「最悪の場合、参加資格が失われてしまうかも……」
参加資格が失われる?
そんな抜け穴が?
規則の死角だ。
みんなは本気で勝ちたいから、時間を守るに決まっている。
そういう思い込みが、遅刻を死角にした……。
「バインさん、急がないと!」
「あ、はい……」
「早く、お願いします」
係員さんが俺の腕をつかむ。
「ゆっくりめでいいですか……?」
「急いでください!」
「急ぐと精神集中ができなくて。試合に負けたらあなたのせいになってしまう……」
「試合は明日です!」
即論破された。
「バインさんが遅刻すると、こちらも困るんですよ!」
「はい……」
俺は、係員さんに背中を押されながら、のったりのったり通路を歩いた。
「バインさん、お願いします、もっとキビキビと!」
「はい……」
「バインさーん!」
背中を押す係員さんの、泣きそうな声が聞こえた。