表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/39

14 武術大会受付事件

 闘技場、というところは、王都の居住地や繁華街から離れたところにあった。

 歩いているうちにそれらしい、どでかい建物が見えてきたけどこれもまた、やたらに大きい四角い建物だ。横に大きい。


「ふだんは、兵隊の訓練場としても使われているぞ。武舞台も広いが、客も万単位で入る」

「万?」

 そんなに?


「じゃあ、それくらいの人が王都にいるんですか?」

「ああ」


 裏通りばかり歩いてると全然わからない。


 闘技場が近づくと、人の姿が増えてきた。


 闘技場の手前で、ぱっ、と建物はなくなり、広場がある。

 広場といっても、樹海の村より広いくらいの、けっこうな広さだ。


 そこに人がたくさんいた。

 数百人が、あちこちに。

 ただ多いというわけじゃない。

 体が大きいというか、悪そうな顔というか、そういう人が目につく。


「うん? もう、受付が始まっているな」

「え?」

「ちょっといいか」

 アリンさんが、近くの悪そうな男に声をかけた。


「もしかして、武術大会の受付は始まっているのか?」

「ああ、そうだが、まさかあんたも出るのか?」

「どうも」

 アリンさんは俺の腕を引いて、広場の真ん中を進む。


 大きい男ばかりじゃないけれども、美人に腕を引かれる俺がなんとなく、じろじろ見られている気がする。


「早く受付をしないと間に合わない。遠征など行っていると、いまがいつなのか、よく忘れてしまうのだ」

 アリンさんは、たくさんのこわそうな人たちを全然気にせず、ぐいぐい俺の腕をひっぱっていく。


「あの、もしかして俺に申し込みをさせようとしてますか?」

「いまやらないと、参加できないぞ」

「ちょっと待ってください、参加はしませんよ! そんな、危ないじゃないですか」

「おもしろいことを言う」

 なにもおもしろくない。


「安心しろ。予選を突破するのはなかなか難しいし、もし突破したとしても、本戦は明日だ」

 なにも安心ではない。


「そこが受付だ。うん?」

 闘技場の立派な入り口の近くに机が置いてある。

 そこで怒鳴っている男がいた。

 他の人はちょっと離れて見ている。


「おい! 武器が使えねえって、どういうことだ!」

「今回は、持ち込みの武器はなし、こちらで用意された、剣、槍だけが使用可能となっておりまして」

「聞いてねえぞ!」

「そもそも、言わないからな」

 彼らがこっちを見た。


 アリンさんが言いながら近づいていく。

「武術大会は、毎回事前の告知がない項目がある。誰でも知っていることだ。今回は使用武器だったのだろう」

 男は、鎌を持っていた。

 鎌の根本には鎖がついていて、じゃらじゃらと先にのびていって、男のカバンの中につながっていた。


 周囲から声がする。

「あれ、ハンバイケンじゃないか?」

「そうだ。鎖鎌のハンバイケンだ」

 他の参加者からそんな声が聞こえた。

 名前を知られる有力候補なのだろうか。


「おい女。男に口ごたえをするな」

「なに?」

「女は黙ってろ」

 前に出てきた鎌男は、アリンさんに指を突きつけた。

 指先は、アリンさんの胸にめり込んでいた。


「そうそう、そうやって、男の機嫌を取ってりゃいいんだ」

 鎌男は調子に乗って、アリンさんの胸を二度三度とつっついた。


「ちょっと!」

 俺はアリンさんの腕を引いた。

 アリンさんも、どうして黙って……。


 と見たら。

「剣を貸してくれ」

 受付に言うアリンさんはなにかを決意したような目をしていた。

 彼の首が飛ぶ!?


「おもしろい、おれとやるのか」

「その口、二度ときけなくしてやる」


「おい、なんかやるみたいだぜ!」

「おもしれえ!」

「男、その女を丸裸にしてやれ!」

「その女、アリンじゃねえか?」

「お! おもしれえ、アリンとハンバイケンか! やれやれ!」


 人がだんだん集まってきてしまう。

「ちょちょちょ! 待った!」

 俺は二人の間に割って入った。


 男は俺を見る。

「なんだ? お前がやるのか? ……まさか、お前が武術大会に出るなんて言わないだろうな?」

 男は笑う。


「ちょっとおもしろいじゃねえか。客席にいても、参加者って言うのか?」

「すいません、ほんとにあぶないですから、やめましょう。これから大会なんですよね? ほら、鎌なんか見せびらかすのやめてくださいよ。とりあえず、話し合いで、平和に、平和に」

「なに?」

 男の声が低くなる。


「鎌なんか、だと?」

「え?」

「まさか、おれの鎌をバカにするやつがいたとはな……」

「え、バカにしてませんけど!」

「おれをいくらバカにしてもいいが、鎌をバカにするやつは許さん」

 鎌以外もバカにしたら怒りそうですけど。


 男は、カバンからずるりと鎖を引き抜いた。

 鎖の先には四角い、こぶし大の分銅みたいなものがついている。

 右手で鎌を持ち、左手で分銅をくるくる回し始めた。


「ちょっと待ってくださいよ! あやまります、すいません、バカにする意味はなかったんですけど、鎌なんか、と言ってしまってすいませんでした」

「鎌なんか。また言ったな。許さん」


 え、いまの鎌なんか、は数えなくてよくない?

 謝罪の対象を明確にする、大事なやつじゃない?


「死ぬ前に言いたいことはあるか」

「だから、ちがいます、誤解で」

「死ね」


 と言ったかと思うと、鎌男は左手の分銅を投げた。


 前に出した俺の手をかいくぐるように飛んできた分銅は、どっ! と俺の腹に当たる。

 鎌男はすぐその分銅を手元に引きもどした。


「あれがハンバイケンの鎖鎌……」

「間合いの外からの分銅での直接攻撃。そして、自由を奪う間接攻撃……」

 まわりでなにか言っている。


「苦しいだろう。楽にしてやる」

 鎌男は笑って、もう一度分銅を投げてきた。

 思わず腕を出すと、今度はくるくると鎖がからみついてきた。


 鎌男が鎖を引っ張る。

「おっと」

 前のめりに、ととと、と出ていったところで、俺に迫る鎌男。

 鎌を振りかぶる。

「わわっ」

「死ね」

 俺の頭に鎌を振り下ろした。


「うわっ!」

 反射的に腕を上げた俺は鎖を引きちぎっていた。

 その腕に振り下ろされた鎌。

 バキン!

 折れた鎌の先がくるくる回って、地面に刺さった。


 俺と、鎌男が無言で見つめ合う。

 まわりの男たちも無言だった。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……まあ、まあ、まあ、まあ」

 鎌男が何度もうなずく。


「まあ、今日のところは、まあ、まあ、まあ、まあ、まあ」

 鎖と、先が折れた鎌をその場に捨てると、まあまあ言いながら歩きだした。


「ちょっと待て」

 アリンさんが呼び止める。

 鎌男は、びくっ、と立ち止まり、ゆっくり振り返った。


 アリンさんが剣を構える。

「お前」

「……すいませんでしたー!」

 鎌男が地面に手をついた。


「できごころでしたー! すいませんでしたー!」

 清々しいほどの謝罪だ。


 アリンさんもそう思ったのか、黙って見下すだけだった。


 その空気を感じ取ったのか、そっと顔を上げる鎌男。

 そして立ち上がると、そのまま走り去った。


 なんだったんだ……。


「……あの」

 受付の人がこっちを見ていた。

「ありがとうございます! 助かりました」

 受付の人が俺の手を取って、必死に言ってきた。


「おい。ああいった気難しい冒険者にも、きちんと対応できるようにしろ」

「アリンさん! すいません」

 受付の人が頭を下げる。


「あと、この男の予選も免除しろ」

「は?」

「やつは名の知れたやつなのだろう? それなら、問題ないんじゃないか?」

「あなたも出場希望ですか?」

 と俺を見る。


「いえ、俺は」

「でしたら、はい、特例として、予選は免除となります。な?」

 受付同士で、うなずきあっていた。

「は?」

 聞け。

 感謝してるなら聞け。


「鎖鎌のハンバイケンといえば、普段の武器が使用できる回なら、上位に残ると言われていますので!」

「いえ、俺は」

「ご遠慮なさらず!」

 なあ、と受付の人たちが話し合っている。


「いや、だから!」

「お名前と、住んでいる場所はどちらでしょうか」

「コッサ町のバインです! 俺は、この大会には決して」

「はいわかりました受付完了です!」

「は?」


 あいつ出るってよ。

 聞いたか? コッサからだってよ。

 わざわざ? やばいな。

 アリンの弟子か?

 そんな話が聞こえてくる。


「あとで明日の本戦の説明がありますので、予選が終わるまでには受付にいらしてください」

 受付の人が言った。


 アリンさんが、肩を組んできた。

「だから言っただろう?」

 となんだか得意げなアリンさん。

 なにを言ったって?


「やる気がでてきたぜ」

 他の男たちが、なにか火がついたような表情で、受付にならびはじめた。


「バインさんよ。ハンバイケンに、とどめを刺さないところ、気に入ったぜ」

 肩をたたいてくる男。


「バカめ、戦いは、殺すものだ」

 俺をにらむ男。


「根性なしのハンバイケンめ。おれなら絶対に、死ぬまで戦うが」

 ひとりごとのように言う男。


「力だけがすべてではありません……」

 なんか意味深に言う女。


「オレのスキル、受けてみるかい?」

 なんか明るい男。


「すべて、破壊、する……」

 顔色の悪い男。


「盛り上がってきたな」

 にっこりと笑うアリンさん。


 最悪ですよ。

「出場取り消ししますよ」

 俺はアリンさんにささやく。


 超幸運で予選突破して注目度ゼロなら、一回戦できるかもしれなくもないかも?

 くらいの可能性でしょ?

 こんなに注目されてどうするの?

 死ぬの?


「なぜ」

 アリンさんがおどろいたように言う。

「なぜ? いままでは、たまたま、攻撃が効かなかったですけど、効く攻撃もあるかもしれないじゃないですか。効く攻撃があったときは、死んでるときですからね!」

 特に、魔法使いとか特殊スキルには、相性が悪そうな感じがぷんぷんしますよ。


「だったらすこし、待っている間に心構えを伝授しよう」

「え?」

 ちがいます、いますぐ取り消しを。


 そう思ったけど、人だかりがすごい。

 それに、いま言ったらなんか、え? え? え? 取り消し? どういうこと?

 と白い目で見られそうだ。

 人が減ってから、こっそり取り消すしかないのか。


 あー!

 もー!

 武器屋の配達のほうがましだったー!


 ぜいたくは言いません!

 配達させてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ