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01 運命の日

「おーい、バイン。配達だ!」

 店長のガンダさんが言う。


「おーい! おーい!」

「聞こえてますよ」

 俺は、商品陳列の手を止めて、カウンターに向かった。


「こちらのお客さんの家までだ!」

「どうも、すみませんねえ」

 にこにこと笑う50歳くらいの女性。


「わたし、このあと、まだ行くところがあるので、先に品物だけ持っていってもらえますか?」

「お安い御用ですよ!」

 とこたえたのは、もちろんガンダさんの方。


 俺は、木箱にぎっしりと詰まった、薬草やら、小ビンやら、紙袋やら、の商品に、ちょっと気後れしていた。


「わが、ガンダ武器屋は、お客さんの要望さえあれば、喜んで配達もしますからね!」

 ガンダさんは愛想よく言う。

 無料配達で、売上をのばそうというのが最近始まった。

 それだけじゃない。武器屋というわりに、売上を求めて、薬草に手を出したり、パンに手を出したりしている。

 外から見たら何屋だかわからないだろう。


「あらうれしい。また利用しようかしら」

「それはありがたい! またぜひ、ガンダ武器屋をよろしく!」


 女性は俺を見る。

「よろしくね」

「お安い御用ですよ!」

 俺は、やけくそで声を張り上げた。



「やっばいなこれ……」

 俺は木箱を持ったまま、体を近くの建物にもたれさせた。


 箱の上に貼り付けた地図を確認する。

 この通りをぐるーっ、とまわってきて、やっと目的地だ。

 いやきっついす。

 品数制限しないとだめですよこれ。


「ん?」

 ふと、路地が目に入った。


 建物の間の、薄暗い道を歩いていく。

 ひとがすれちがうのに体を傾けなきゃならないような細い道だ。

 地図にはない道だが、ぐるーっと、大まわりしなきゃならない道を、地図上の最短距離で行けそうだ。

「いいぞいいぞ」

 距離は半分以下、いや三分の一以下だ。

 

 さっきまでは一歩も動かしたくなかった足が、ちょっと軽くなった。

 いいぞいいぞ。


 と思いながら角をまがると、急に、ちょっとした広場に出た。

 そこに男たちが数人。

 こっちを見る。

 全員、鋭い目つきで、瞬時に剣を抜いた人、杖をかまえる人がいる。

「え? え?」


 後ずさろうとしたら、背中になにか当たった。

 振り返る。


「どこから入った」

 巨体の男が、俺を見下ろしていた。


「え? あ……」

 背後から、バリバリバリ、としびれるような衝撃を与えられ、俺は気を失った。



「ぷわっ」

 起き上がる。

 水をかけられたらしい。びしゃびしゃだ。

 顔をぬぐおうとしたら。

 縛られている。

 足も。


 いや、そもそもここはどこだ。

 薄暗い部屋だった。

 ずらりと男たちがいる。

 十人くらいだろうか。


 男たちは武装しているような。


「お前さん、どこの者だ」

 奥の男が言った。

 ひとりだけ着席している。

 眼光が鋭く、ひげがきれいに整えられていた。


「ボスの質問にこたえろ! 名前を言えって言ってんだよ!」

 えらい人の横の、でかい男が怒鳴った。


「ば、バイン、20歳です……。女性と付き合ったことはありません……」

 なんか余計なことまで言った気がする。


「どこのもんだ!」

「ガンダ武器屋の、従業員です……」

「はあ? ガンダ武器屋?」

 体のでかい男が、間の抜けた声を出す。


「……あの、大通りのところか?」

 別の男が言った。


「はいそうです!」

「はあ?」

 大男は、また間の抜けた声だ。


「なに言ってんだてめえ!」

「そのバイン君が、なんでうちの取引現場に現れたのかな?」

 奥の男がおだやかに言った。

 

「えっと……」

「ボスの質問にこたえろコラ!」

「ひっ! な、なんのことかわかりません……!」


「とぼけると、ためにならないぞ」

 奥の、ボス、は言う。

「本当に知りません! 配達の途中で、近道しようとしたら、通りかかっただけで……」

「おれたちはなあ」

 大男が、俺に顔を近づけてくる。


「あの、ほんの一瞬だけだ。そのときだけ、取引をしてた。だがお前はその一瞬に現れたんだ! おかげで取引はパーだ!」

「ひいい!」

「痛い目みないとわかんねえんだな?」

「ひっ」

「まあ待て」


 ボスは、にやあ、と笑った。

 気持ちが悪い表情だった。

「あれを持ってこい。昨日のやつだ」

「はい」


 男が奥の部屋に行って、もどってきた。

 ボスに金属製の小箱をわたす。

 ボスが中からつまみあげたのは……。

 コインだ。


「これで、ちょっと遊んでみないかい?」

 またボスが、にやあ、と笑う。


「これは、ちょっと特別なコインでね」

 俺の前までやってくる。


「手を出しなさい」

 俺は縛られた両手を出した。


「表に龍が、裏には死神が描かれた、大変貴重なコインだ。これをあげよう」

「ボス」

 大きい男が言う。


「これなら、証拠が残らんだろう」

「ですが」

「わたしが使ってみたいんだよ。使ってみたいんだよ!」

 ボスが白目をむいて叫ぶ。


「はい!」

 大きい男は、気をつけをした。

「わたしがやりたいって言ったら、やるんだ。どんな死に方をするのか、考えただけでわくわくする。わかるな?」

「はい!」

「それとも、お前が投げるか?」

「いいえ! もうしわけありませんでした!」

「いい子だ」

 ボスは、大きな男の顔をなでた。


 そしてこっちを向いたときには、またにやあ、と笑っている。

 ボスはそのコインを、俺の手に置いた。


 あの大男が、あんなに嫌がってたものをくれました……。


「コインを軽く投げてみなさい」

 ボスは言う。

「え?」

「表が出るか、裏が出るか」

「は?」

「やれ!」


 大男の声に押されるように、俺は急いで投げた。


 床に落ちたコインは高い音を立てて回転し、片面が出た。

 龍の面だ。


「龍か」

「は、はい」

「もう一回やってみなさい」

 そう言って、ボスは俺の手にコインを置いた。


「え?」

「やってみなさい」

 にやあ、と笑う。


 俺はコインを投げた。


 また龍の面だった。


「ほう。そうかそうか」

 ボスが手をたたいた。


「いやあ、君はなかなか運が強い!」

「は、はあ」

「もう一回」

 またコインを俺の手に置く。

 なにしてるんだこれ。

「さっさとしろ!」

 大きい男が怒鳴るので、俺はすぐ投げた。


 龍の面。


 ボスが笑いながら手をたたく。


「おもしろいねえ」

 ボスは笑いながら、また、俺にコインを置いた。



 それが、しばらくくりかえされた。

 10回はこえている。

 20回くらい?

 全部、龍の面が出た。そういうものなんだろうか。


「ボス……」

 と、男の表情をうかがう大男の態度が、さっきまでとなにかちがう。

 どこか引きつっていた。


 ボス、という男は、すっかり無表情になっていた。

「ボス、もうそろそろ」

「投げなさい」


 投げる。

 龍の面。

 ボスが舌打ちした。


「いつ死ぬんだ……。つまらん……。つまらん……」

 ボスがぶつぶつ言っている。


「次だ」

 ボスはコインを拾って、俺の手に置く。


 そのときだった。

 俺は、コインを迎えに行こうと、ちょっと動いた。

 ちょっと、こう、迎えにいっているんだけれども、姿勢も直したい、と同時に思ったというか。

 左手は迎えにいきつつ、右手はちょっと体勢を調整しようとしてつい足側にのばそうとして、両手をつなぐひもが、ピン、と張る格好になった。

 そしたら、ちぎれた。


「えっ?」

 とおどろいて、足に変な力が入った。


 そうしたら、足を縛っていたひもも、ぶつっと切れた。

 自由の身。

「えっ?」

 びっくりして手に力が入った。

 手のひらを開くと、コインが、ぐにゃぐにゃになって、潰れていた。


 部屋が、しん、と静まった。

「ボス……」


 大男が、うかがうようにボスを見ていた。

「……だから、わたしはやめろと言ったんだ」

「ええ?」

「それをお前が。こんな、確率上、なにが起こるわからんようなことをするとは本当に愚か者だ!」

 ボスが、大男の鼻先に人さし指を突きつけた。


「ああつまらんつまらん。お前たちで処理しておけ。わたしは知らん」

 ボスは、ドアを開けて奥に行ってしまった。

「ボス!? クソ!」


 大男が、ゆっくりとこっちを見た。

 俺をにらみつけている。

「おい。そのコイン、広げられるか?」

「はい?」

「広げられるかってきいてんだ! 広げて投げろ!」

「は、はい!」


 俺は、無理だろうと思いつつ、潰れたコインを元通りにしようとした。

 すると、こう、コインの端を指でつまんで広げようとしたのに、ぐい! ぐい! と力が入ってしまって、どんどん、金属のかたまりになっていく。


 俺は、そうっと、手のひらにのっているかたまりを、大男に見せた。


「あの、これ……」

「くそ! もういい、おい、そいつをやれ!」


 大男が言ったか言わないか、くらいのときに、近くにいた誰かが俺に剣を振り下ろした。


「ギャー!」

 死んだー!

 と思ったら。


 バキーン!

 音とともに剣は折れて、飛んだ剣の先がくるくるまわって床に刺さった。


 ……?


「頭を飛ばせ!」

 大男が声を張り上げる。

 ひゅっ! と背筋が寒くなるような風が吹いてきて、首にあたった。

 それだけだ。

 涼しい。


「毒!」

「もうやってます! ですが、耐性が異常で無効化されました!」

「なんだと?」

「他のスキルも魔法も効きません!」

「そんな話は聞いてないぞ! 身体能力だけだろうが!」

 大男が声を張り上げる。


 なんの話をしてるんだ?


 俺の近くに黒い煙みたいなものが現れたり、部屋の中が光ったり、あるいは槍や剣が俺に振り下ろされる、ように見えて、折れて部屋に落ちる、といったことがくりかえされる。

 なんだ?


 もしかして彼らは、一種の劇団なのか?


「クソがクソがクソが!」

 大男が床をふみ鳴らす。

 穴が空きそうだ。


「転送しますか?」

「なんだと?」

「樹海に送れば、あるいは……」

「よしやれ!」

「転送ですか!? でも転送の石の費用は2000万ゴールドですが!? ボスの許可が必要です!」

「このままだとなにが起こるかわからん! もう飛ばせ! おれは知らん! もうこんな組織やめたい!」

 大男が頭を振る。


 なにごと?


 太った男が、ぶつぶつと、なにか言い始めた。


「準備できました!」

「やれ!!!」


 大男の絶叫とともに、俺は光に包まれた。



 気づいたら、深い森にいた。


 ???

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― 新着の感想 ―
[一言] 句読点と!が多くて読みづらかったです。
[一言] 多分、1048576=2の20乗ってすぐ分かるような賢い人は、あまりこういうの読まないと思いますよ。
[良い点] タイトル良いですね これで釣られる人結構いそう
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