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61 激戦の行方

「もういいわ……! 死んだことも自分でわからないくらいに、一瞬で殺してあげる!」


 静香はなりふり構わず全力で雅雄とツボミを殺すことに決めたようだった。こうなってしまえば雅雄たちに勝ち目はない。投石でも直接攻撃でも、結局雅雄たちはステータス差がありすぎて、ほとんど静香パーティーのHPを削れてはいないのだ。遠距離から呪文を連発されれば、雅雄たちは何もできないまま負ける。


 一応こういう場合は森に逃げ込むことに決めているが、本気の静香がそれを許してくれるとは思えない。万事休すかと思われたとき、手配していた助っ人はようやくやってきた。


「遅くなって悪かったな! 確かに手紙は受け取った! 俺が来たからにはもう大丈夫だ!」


 『??? Lv.68 ロード』。仮面の剣士である。昨日のうちに手紙を出しておいたのだ。森の中を突っ切って来たらしく、川を渡って雅雄たちの背後から現れた。


「ハハッ……! あんたもまとめて始末しようと思っていたところよ! 覚悟なさい!」


 静香は笑うが、きっと空元気だろう。本当に仮面の剣士を倒す気ならもっと人を用意したはずだ。逆転の目はある。


「あんたたち! どうにか時間稼ぎしなさい! やつは私が倒すわ! 私には、メガミに備えるための切り札がある……!」


 静香はそう命令すると、目を閉じて精神集中し始める。まさか静香もオーバーライドを使う気なのだろうか。だとしても、メガミほどのオーバーライドは無理だろう。


 時間稼ぎを指示された盾男三人は、五月雨式に仮面の剣士に斬りかかる。仮面の剣士は正面から迎え撃ち、オーバーライドのエフェクトをまき散らしながら一人目を斬り倒した。


「グハッ……!」


 バターを切るかのように、黒薔薇の剣〈ブラック・プリンス〉は盾と鎧を綺麗に切断する。無論、一撃でHPはゼロだ。レベルも装備の質も違いすぎる。


「悪いが、君たち全員を相手にする気はない。リーダーを叩かせてもらう」


 そう言ったかと思うと、仮面の剣士の姿は雅雄の視界から消える。次の瞬間、仮面の剣士は静香の前に出現していた。


「高速移動スキル……!」


 雅雄の目には、そうとしか見えなかった。雅雄の目は残像的なものをわずかに捉えるばかりである。以前にも使用していたが、本当にチートだ。雅雄はもちろん盾男たちも全く反応できない。


 オーバーライドを使うべく精神集中している静香は微動だにしない。静香の近くに控えていた弓手が短刀で斬りかかるが、相手にならない。彼女もやはり一撃で剣の錆となった。


 問題は、残された盾役の男二人である。静香がやられれば彼らも為す術なくやられてしまう。かといって、静香の救援は間に合わない。じゃあどうするか。静香を助けるため、盾男二人は雅雄とツボミに突進してくる。雅雄とツボミを人質にでもしようというのか。


 雅雄とツボミは投石を再開して対抗するが、盾男二人は止まらない。盾で弾きながら突進してくる。彼らも文字通り必死なのだ。多分、興奮で感覚が麻痺している。雅雄は剣を抜くが、勝てるわけがない。


「チィッ!」


 仕方なく仮面の剣士はまた高速移動のような謎のスキルを使って、こちらに戻ってくる。仮面の剣士は一人を斬殺し、もう一人を蹴り倒して雅雄たちを救う。しかし盾男二人が稼いだ時間は無駄にはならなかった。静香が目を開いたのだ。


「みんな、ごめんね……! やつは私が殺して仇討ちさせてもらうわ!」


 静香の周囲に虹色のエフェクトが発生する。静香は、オーバーライドを使っている。静香の方に駆けた仮面の剣士は、凍り付いたようにその場で固まる。常時オーバーライドしている仮面の剣士を止めるとは、静香はいったいどんなオーバーライドを使ったのだ。


「所詮あなたはゲームオーバーになった人間……! 私に勝てるわけがないの。さっさと消えなさい……!」


「クッ……!」


 『??? Lv.41 デューク』。『??? Lv.23 ナイト』。仮面の剣士のステータス表示がどんどん変化して、レベルが下がっていく。いったい何が起きている?


「あら雅雄、わからないの? 意志の力で世界を上書きするのがオーバーライドでしょう? 私は上書きしているだけよ。あんたなんか大したことないってね! 意志の力でゲームにしがみついているだけの亡霊を潰すなんて、簡単なことよ!」


 通常はイメージで自分を強化するところを、相手の弱体化に使う。相変わらず静香の発想は悪魔的だった。


「雅雄、あなたもわかってるわよね? あなたには私しかいないってこと。思い出してみなさい? あなたの親はあなたをどうしたかしら? メガミはあなたの救いになった? ツボミなんかに甘えてて楽しい? あなたには何があるの?」


「あ、う……」


 雅雄はうめきながら足を震わせた。頭の中にスタングレネードが炸裂した気分だ。両親には捨てられた。メガミには近づけず、かといって逃げられもせず。永遠に追いつかない鬼ごっこ。


 そして雅雄には、やっぱり何もない。ゲームなら負けないと勇んで参加したワールド・オーバーライド・オンラインでもそれを証明し続けるばかりだ。


「私はあなたの欲しいものはあげられない。でも、あなたの居場所は作ってあげる。嬉しいでしょう? 跪きなさい。あなたはずっと私の奴隷姫よ」


「あっ、ああっ……!」


 静香はニッコリと笑みを浮かべ、雅雄は膝をついた。何も考えられなくなって、雅雄の手から剣が消える。服も変質して真っ赤なフリルのついたドレスとなり、髪は女の子のように長く伸びる。無駄に強いオーバーライドで雅雄の腕に刺さっていた〈マーカーアロー〉が砕けて消失。ステータス表示は『平間ミヤビ Lv.1 奴隷』となった。


 ああ、これがオーバーライドなのか。心も体も凍り付いたように動いてくれない。ただただ、冷たいばかりだ。雅雄の全ては、ゼロに収束する。

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