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60 対決

 まだログイン時間が残っていたので、雅雄とツボミは静香との決戦に備えて仕込みを行う。二人の腕に刺さったままの〈マーカーアロー〉の効果でログ記録は静香に流れ続けているが、構うものか。スキップで【名もなき村】に移動したのでとりあえず静香は追ってこられない。明日は日曜日なのでリアルで静香と顔を合わせることもない。


 雅雄は静香にメールを出して、明日のログイン時間と場所を伝えた。これから残り持ち時間を使って必死で静香たちは【名もなき村】まで向かうことになるだろう。結果として静香がゲーム内で雅雄たちの対策を練る時間がなくなるし、人数も揃えられなくなる。




 そして次の日の朝、とんでもないニュースが連絡網で雅雄の耳に飛び込んできた。火事が起きて生徒会室が丸焼けになったというのだ。現場からはタバコの吸い殻が発見されたということで、心当たりのある者はすぐに学校へ出頭しろとのことだった。


 間違いなく静香の仕込みだろう。今頃、メガミたち生徒会役員は学校に呼び出されて事情聴取でもされているのではないか。後処理でもてんやわんやだろう。今日一日、メガミは学校で過ごすことになる。メガミの助けは期待できない。


 まさか静香がここまでやるとは。雅雄には理解できないクレイジーさである。


 だが、雅雄は落ち着いていた。それでも関係ない。雅雄にはツボミがいる。




 予定通りに雅雄とツボミは静香たちを【名もなき村】近郊の川原で待ち受ける。すぐに静香は現れた。


「悲しいわ、雅雄。どうして私の言うことを聞いてくれないの? またあの原っぱで待ち合わせする約束でしょう?」


「ぼ、僕は静香ちゃんの思い通りにはならない! ツボミにだって、手を出させない!」


 雅雄は威勢よく吠えるが、体は震えていた。雅雄たちの誘いに乗って姿を現したという時点で、静香にも余裕なんて一切ない。早く決着をつけないとメガミの介入があると焦っているはずだ。頭ではわかっていても、やはり静香と対面すると恐怖が先に来てしまう。


「そういうわけだから、君らはボクたちに関わらないでくれるかな? 今だったら、剣を引いてあげてもいいよ?」


 ツボミは剣を抜き、静香に向ける。こちらは雅雄と違って堂々としたものだ。しかし静香はツボミを鼻で笑う。


「ハッ、あんたなんかが私たちに勝てるわけないでしょう? 苦しんで死なせてあげる!」


 『業田静香 Lv.43 ワーロック』。仲間は上級職でこそないものの、全員レベル40近くで四人いる。静香たちは各々の武器を構え、じりじりと接近してくる。魔法でも使えば一撃だが、宣言通りじわじわとなぶり殺しにする気なのだろう。しかしそれは、静香の慢心だ。


「くらえ!」


「キャッ!」


 ツボミは手にしていた剣をすばやく鞘に収め、ポケットに隠していた石を投げつける。矢を弓につがえようとしていた弓手に命中し、弓手は矢を取り落とす。


「こ、来ないで!」


「痛ッ!」


 雅雄もツボミに続く。今度は静香の頭に当たり、静香は顔を押さえてうずくまる。他の仲間たちはその様子を見てうろたえ、足を止めた。


 彼らにはダメージなんてほとんどない。しかし痛覚は別だ。こぶし大の石をぶつけられれば、誰だって痛みで足が止まる。顔に当たればとても動けなくなるし、鎧の上からでもそれなりに響く。川原には石なんていくらでも転がっている。雅雄とツボミは石を拾っては雨あられと投げつけ、静香たちを近づけさせない。


「盾よ! 盾で頭を守りながら近づきなさい!」


 半ば悲鳴のように盾を持たないワーロックの静香が指示を出す。前衛職の三人は静香の指示どおり盾を掲げて頭を守りつつ、雅雄たちに接近してくる。


「雅雄、後ろはよろしく!」


「うん!」


 ゆっくりと前進する三人の盾男たちに向け、ツボミは果敢に突撃をかける。盾を上に掲げ、自分で視界を遮ってしまっている盾男たちは反応できない。接近したツボミは慌てて剣を抜こうとする盾男の一人にローキックを決めてバランスを崩させ、頭を剣で殴る。ダメージ的に死にはしないが、かなりの痛みだ。盾男は武器を取り落とし、うずくまってしまう。


 残りの二人は一人がやられている間にツボミに襲いかかろうとするが、まだツボミは石をポケットに隠している。資金距離から顔面に石を喰らった二人は悲鳴を上げて顔を押さえ、すかさずツボミは剣で殴打。二人とも撃退されてしまう。


 この間も雅雄は主に静香めがけて投石を続けている。静香は頭を押さえてうずくまるばかりで何もできない。弓手は時折矢を放つが、痛みへの恐怖があるのか雅雄が石を投げるふりをすると身をすくませ、全く雅雄たちに当てられない。半狂乱で静香は嘆く。


「何なのよ……! この戦い方は!」


 ダメージではなく痛覚を狙うという雅雄たちの作戦は、思った以上にはまっていた。双頭竜の塔で装備を槍で統一していたように、静香は事前情報を元に準備をしっかりと行って完勝を目指すタイプだ。PKをするときは集団で囲んでリンチするというやり方で、強敵との交戦は避ける。今まで静香たちはほとんど攻撃を受けることなく戦いに勝ってきたのだろう。


「君たちは本当の痛みを知らないんだ……! でも、ボクたちは知っている!」


 再び盾男たちから距離をとりながら、ツボミは言った。雅雄もツボミも最初のレベルが低すぎて、ダメージを受ける戦い方しかできなかった。というか、ゲームに参加する前から雅雄は体に暴力を刻まれていた。


「調子に乗らないでよ! 『ハイ・フレイム』!」


 立ち上がった静香は、炎の呪文を雅雄たちめがけて放った。あんなものを喰らえば、雅雄とツボミは一撃で死んでしまう。しかし、ツボミは反応した。


「待っていたよ! この瞬間を!」


 ツボミは〈反射鏡〉を取り出して炎を受ける。キバいのししを討伐したときの報酬だ。お盆サイズの丸鏡は粉々に砕けつつ、静香の『ハイ・フレイム』を跳ね返した。静香たちはまともに喰らってしまう。


「やったか……?」


 ツボミはつぶやくが、炎を振り払って静香は立ち上がった。多少はダメージを受けているようだが、HPは充分に残っている。魔法の一撃くらいで彼らを倒しきることはできない。雅雄、ツボミと静香たちには絶望的なステータス差があった。

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