5 頭が沸いている人たち
「スト~ップ! 香我美さん、そこまで!」
緩い癖っ毛のショートがよく似合う小柄な子猫系美少女が雅雄とツボミの間に割って入り、手を広げて雅雄を守る構えを見せる。成績優秀、運動神経抜群で人望厚く、生徒会役員を勤める雅雄の幼馴染み、神林メガミだ。
立ちはだかったメガミを見て、ツボミは木刀を構えたまま不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「何……? 邪魔しないでよ。邪魔するなら君も……!」
「話はだいたい聞いたよ~! でも木刀はやりすぎ! 本気で洒落になってないよ! 停学になってもおかしくない! だいたい、雅雄君がそんな酷いことをしたって証拠もないじゃん!」
「そ、そうだよ! 僕が学校に来たとき、靴箱に手紙なんてなかった!」
メガミの反論に便乗して、雅雄も訴える。雅雄が一人で言ったなら誰も相手にしてくれないが、メガミと一緒なら別だろう。それでもツボミは猜疑の目を雅雄に向ける。
「誰かが勝手に君の靴箱を覗いて、捨てたっていうの? 藤井さんのラブレターは、わざわざ一年生の教室に捨てられてたんだよ? 君以外の誰がそんな手の込んだ嫌がらせをするっていうのさ!」
ツボミは吐き捨てるように言う。メガミは冷静な口調のまま質問する。
「……藤井さんが手紙を靴箱に入れたのって、いつの話?」
「昨日の放課後って言ってたけど、それがどうかしたの?」
ツボミの回答を聞いて、メガミは名探偵のように指摘した。
「だったら、雅雄君は犯人じゃないよ! 雅雄君、昨日はすぐに帰ってたでしょ! 今日の朝だってギリギリに来てたし!」
学校が嫌いな雅雄は常に一番遅く来て、一番早く帰っていた。放課後に手紙が投函されたなら、雅雄が手紙を目にするタイミングはない。
「じゃあ、いったい誰がこんな酷いことを……」
どうやら納得したらしい。ツボミは剣を引いてつぶやく。メガミは雅雄を守るように広げていた手を降ろし、嘆息した。
「それはわからない……。でも、昨日は校内清掃で美化委員が遅くまで残ってたよね?」
メガミはちらりと静香の方を見る。静香は美化委員長で、昨日残って作業をしていた。
「あら、私を疑ってるの? 私はやってないわよ。神に誓ってもいいわ」
静香はニッコリと微笑んでメガミからの牽制球をかわす。この反応を見て、付き合いの長い雅雄は確信する。ああ、静香のちゃん仕業だったのか。静香だったらいかにもやりそうだ。神なんて一切信じていないし。むしろ悪魔そのものだし。
「そうは言ってないよ~。とにかく、犯人は雅雄君じゃないってだけ」
メガミは笑顔で静香の言葉をさらりと流した。メガミも内心は怪しいと思っているだろうが、証拠もないのに糾弾するわけにはいかない。下手をすると静香に反撃されて大やけどする。揚げ足を取ろうと、静香は待ち構えているのだ。
いったん剣を引いたことで頭が冷えたのか、ツボミは犯人捜しを棚上げにして雅雄に尋ねる。
「……君が犯人じゃないのはわかった。済まなかったね、いきなり押しかけたりして。それで、どうだろう? 藤井さんと付き合ってみる気はない? 誤解はボクの方から解いておくよ。彼女、本当にいい子なんだ」
「え、え~っと、ごめんなさい。そ、そういう気はないんだ……」
顔を引きつらせ、たどたどしくも雅雄はきっぱりと断った。お金を積まれても、あんなクリーチャーと付き合う気はない。
「それは残念だね……。でもどうして? 他に好きな人でもいるの?」
「そ、そうなんだよ。本当にごめんなさい……」
雅雄は詰問されて素直にうなずく。否定すると余計にこじれそうだ。ツボミは絶対に納得しないだろう。まぁ、本当のことなので仕方がない。
ここで静香がニヤリと笑って声を上げる。
「へぇ、そうなのね。やっぱり相手は……」
「し、静香ちゃん!?」
静香はみんなの前で雅雄の思い人の名前を発表しようとする。雅雄が動揺しながら後ろを向くと、静香はポンと雅雄の背中を押した。
「え……? ちょ、うわっ!」
たまらず雅雄はバランスを崩し、前に転げる。思わず雅雄は目の前にあったものを強く掴むが、勢いは止まることなく床に激突した。
「痛ててて……。何だこれ?」
雅雄は右手で鼻っ柱を押さえながら顔を上げる。雅雄は左手でスカートと短パンを掴んでいた。これはまさか……。
雅雄はおそるおそる上を見上げ、固まった。小さなリボンのついたかわいらしい縞パンが、女の子らしい丸みを帯びた柔らかそうなお尻を包み込んでいる。露わになった太ももにもほどよく肉が付いていてエロい。
ツボミは半泣きでプルプル震えながら雅雄を見下ろしていた。
「死ね! 変態!」
ツボミは木刀を振り降ろし、雅雄は間一髪で横に転がって回避した。雅雄は起き上がって遁走する。
「これは事故! 事故なんだよぉ!」
「黙れ! 変態はぶっ殺す!」
衝動のままツボミは足に引っかかったままのスカートと短パンを脱ぎ捨て、逃げる雅雄をパンツ一枚で追いかけ始める。ついでに靴下も片方脱げたのがちょっとかわいい。いやしかし、それは女子としてどうなのだ。しかしツボミのムチムチしたカモシカのような生足が躍動する様子はなかなか見応えがある。
「あ~もう、だから木刀はだめだって!」
メガミが頭を抱えて声を上げた。ツボミの足に見とれている暇もなく、雅雄は逃げる。ツボミは追いかける。もう滅茶苦茶である。結局、さらに追いかけてきたメガミがツボミを取り押さえて、どうにか騒ぎは収まった。