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29 修行開始!

「まず、イメージしてみて! 雅雄君がなりたい職業とレベル! 剣を使う物理戦闘系ならソードマンかナイトかな? 思い切ってソードファイターとかロードとか、上級職を目指すっていう手もあるけど」


「じゃあソードマンで……Lv.20くらいを目指してみるよ」


 メガミの言葉を聞き、少し考えてから雅雄は言った。雲の上の存在である上級職は論外として、ナイトはクエストをクリアしないと就けない。オーバーライドなら関係ないのだろうけど、心理的な引っかかりは少ない方が成功するはずだ。


 Lv.20を目指すのも同じ理由である。まずは自分にもオーバーライドを使えるという感触がほしい。上手くいけば、さらに強力なスペシャルバーストを目指してステップアップできるだろう。


「え、そんなのでいいの……? もっと上を目指した方が、イメージしやすいと思うけど……?」


「うん。一歩ずつ強くなりたいと思うから」


 メガミは首を傾げるが、考えを変える気はなかった。雅雄はメガミとは違う。主人公でなくモブなのだ。とりあえず脇役くらいにはなれる実力を身につけなければなるまい。


 雅雄はその場で剣を構え、精神を集中してみる。


(僕はソードマンだ……! Lv.20くらいは超えてる……!)


 しかしいくら念じてみても何も起きない。そのうち、脳内が雑念で溢れかえる。Lv.20だって雅雄には高いのではないか。もやしのようにひ弱な雅雄にソードマンになれるほどのパワーがあるのか。今、雅雄は剣をメインウェポンにしているけれど、本当にそれは正しいのか。


 かといって魔法を使えるようになるイメージも湧かない。雅雄にとって魔法とは、あの夜に魔法少女メガミが魔女と戦うために行使していた奇跡の力だ。雅雄ごときが使えるなんてとても思えない。


 いや、それなら雅雄は剣を使えるはずだ。だって、あの夜に雅雄の前には、確かに剣が現れた。雅雄は剣さえ掴めれば、天上のステージに行けた。それができなくて今、相変わらず雅雄はモブの地位に甘んじてはいるのだが……。


「雅雄く~ん! 大丈夫?」


 メガミの声で雅雄はハッと我に返る。全く集中できていなかった。これではスペシャルバーストなんて発動するはずがない。


 振り返ってみればメガミはダンジョン内にレジャーシートを敷いて、遠足にでも来たかのようにちょこんと座ってこちらに手を振っている。多分、周囲に聖水をまいてモンスターが近寄らないようにしている。メガミからすればこのダンジョンはピクニック気分で来られる場所なのだろう。


「モンスターと戦いながらの方が集中できるんじゃないかな? ちょっと待ってね!」


 メガミはピュー! っと指笛を吹く。ふらふらと『吸血バット Lv.25』が飛んでくる。こいつと戦いながらスペシャルバーストを会得しろということらしい。


「よし、やってやる……!」


 雅雄は小声でつぶやき、吸血バットに斬りかかる。まずは一撃、まともに入った。吸血バットの腹から血しぶきが飛び散る。しかし吸血バットの動きは鈍ることなく、雅雄に噛みつこうとする。


「クッ……!」


 雅雄は〈シルバーシールド〉で受け、吸血バットの牙から逃れる。それでもHPが25も減った。HPを増やす装備を身に着けていなかったら、即死だった。そんなに強そうには見えないが、相手はLv.25である。普通にやっていたら雅雄は勝てない。何か弱点はないか。勝ち筋を見つけ出す必要がある。まずは〈びっくり花火〉でひるませて……


 雅雄は頭をフル回転させようとするが、メガミの声が遮った。


「雅雄君! 今の雅雄君はソードマンだよ!」


 そうだった。いつものようにアイテムを使いまくって勝つのでは意味がない。必死に自分に言い聞かせながら、雅雄は突っ込む。


(僕はソードマンだから、こんなやつ一撃で倒せるんだ! 絶対勝てる!)


 雅雄は攻撃を受けながらも二、三度吸血バットを殴る。それでも吸血バットはピンピンしていて、噛みつきやら体当たりで反撃してくる。雅雄は盾で上手く凌ごうとするが、全ては防ぎきれない。みるみるうちに雅雄のHPは減少していき、レッドゾーンに突入した。


「雅雄君、私がフォローするから安心して戦って! 『ハイ・ヒール』!」


「ありがとう!」


 メガミの回復魔法で雅雄のHPは全快した。さらにメガミは『ハイ・ブースト』、『ハイ・プロテクト』といった補助魔法を使い、雅雄の攻撃力と防御力を強化する。これならきっと勝てるはずだ。


 雅雄は勇んで吸血バットに飛びかかり、滅多打ちにする。吸血バットが逃げようとする素振りを見せた。幾多の戦闘を経て鍛え上げられた雅雄の直感が告げる。ここがチャンスだ。雅雄はモーションスキルを発動した。


「今だ……! 『フェザースラッシュ』!」


 初級剣技が炸裂し、吸血バットは倒される。モーションスキル使用後の硬直が、疲れた体に心地よい。満足して汗を手で拭い、雅雄は後ろを向く。メガミにもいいところを見せられたのではないか。


「え~っと雅雄君、オーバーライドは?」


「あっ……」


 途中から相手を倒すことに夢中になって、完全に忘れていた。気付けば、オーバーライドなんて全く発動していない。


「時間はたっぷりあるから、大丈夫だよ! 次、行ってみよう!」


 メガミは苦笑いしながらも新たに吸血バットを呼んでくれる。呼べるモンスターの種族や数は調整できるらしい。今回も一体だけだ。


 雅雄もいきなり成功するとは思っていなかった。地道にがんばろう。

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