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33 残機一

 『薔薇の剣士 Lv.99 ソードマスター』。白銀の鎧〈スターリングシルバー〉でガチガチに防御を固めたこの姿であれば、ノブの攻撃など恐れるに足りない。最短距離で斬りかかるだけでいい。それだけでノブを圧倒できる。相討ち上等で攻め込めるので、思考を読まれても関係ない。


 だが、ノブも簡単には負けてくれない。オーバーライドを駆使して反撃する。


「その姿では、君は俺に追いつけない……! 『疾風迅雷』!」


「「どうだろうね……!」」


 ノブが発動した百倍の物理加速に対して、〈ブラック・プリンス〉による百倍の時間加速を発動する。ノブと薔薇の剣士はほぼ同速となった。その状態で、何度も二人はぶつかり合う。


「『雷切千鳥』!」


「「『ゲイルスラスト』!」」


「『金翅鳥王剣』!」


「「『サーキュラースラッシュ』!」」


 モーションスキルの応酬の中で、お互いの隙を探り合う。ノブは物理的に高速化しているので、一撃一撃がかなり重い。それでも薔薇の剣士は〈スターリングシルバー〉の防御力で耐えられる。


 とはいえ不用意にダメージを受けていては、とてもHPが保たない。薔薇の剣士は大振りの攻撃を連発し、ノブを近づけさせないように戦う。ノブの方も、小技では薔薇の剣士にダメージが入らないので大技を使うようになってくる。


「そこだろう! 『神速の一太刀』!」


 百倍速の中であるにもかかわらず、ノブは薔薇の剣士の攻撃を薄皮一枚で避けて斬りかかる。しかし薔薇の剣士は、同じくモーションスキルで切り返す。


「「違うね! 『捨て身スラッシュ』!」」


 剣と剣がぶつかり、お互い攻撃が入らない。ノブは思考を覗き見ることができるにもかかわらず、である。百倍の物理加速をしながら精密な動きをするので精一杯ということなのだろう。


「「『水面蹴り』!」」


「クッ……! 『身代わりの術』!」


 試しに薔薇の剣士が放った下段への回転蹴りを、ノブは避けきれずに受けてしまう。『疾風迅雷』が解除されるが、畳みかけられる前に自分を木偶人形と入れ替える緊急脱出技で凌いだ。


 ほとんどダメージは与えられなかったが、大きな収穫だ。やはり今、ノブは薔薇の剣士の思考を、ぼんやりとしか読み取れていない。お互い、反射だけで戦っている。付けいる隙が見えた。


 即座にノブは『疾風迅雷』を再発動して仕掛けてくる。が、先ほどと同じ展開にしかならない。このままでは千日手だ。勝負を決めるため、ノブはここからもう一段階ギアを上げてくる。


「まだまだだ! 『疾風迅雷』!」


「「『フェザースラッシュ』!」」


 ユメ子が〈朧風月〉を使ってしかできなかった、『疾風迅雷』の二重発動。ノブは自分の意思力だけで実行して見せた。ソニックブームが荒れ狂う中、一瞬でノブが迫る。


 かつてこの姿でユメ子と戦ったとき、薔薇の剣士は『疾風迅雷』の二重発動に対抗できず、ひとたまりもなく敗れた。では、今回はどうか。


 薔薇の剣士は、ノブのこの行動を完璧に予測していた。ノブは読まれていることくらい、感じ取っていただろう。それでも、一万倍の加速には対応できないと見込んで構わず突っ込んだ。大きな間違いである。


 とっさに左手で合わせた初級斬撃は押し返されるが、計算通りだ。『フェザースラッシュ』発動と同時に、薔薇の剣士はもう一つ、モーションスキルを始動させていた。


「「『チャージスラスト』!」」


 頭部を狙っているのはわかっていたので、高さは合わせられる。問題は方向だけ。薔薇の剣士は左手の剣が伝える感覚だけを頼りに、一瞬でためを作った突きを左手でねじ込む。ノブの攻撃を消しきれず、全身に割れるような衝撃が走るが〈スターリングシルバー〉の装甲は耐えきった。


 形としては相討ちだが、勝ったのは薔薇の剣士だ。衝突のダメージで〈スターリングシルバー〉はベコベコに変形し、HPも半分以上削れたが、それでも攻撃を当てた。『疾風迅雷』が解除され、強力なオーバーライドを使った反動で動けないノブが目の前に出現する。


 今のノブは、もはや獲物でしかなかった。薔薇の剣士は時間加速を発動しながら、剣を振りかぶる。


「「[黒薔薇ノ終劇(フィナーレ) 永遠ノ愛]!」」


 『スラッシュ』『捨て身スラッシュ』『サーキュラースラッシュ』と立て続けに斬撃に襲われるが、ノブは防御することさえできない。時間加速を発動し続けているので、棒立ちのまま斬られ続けるばかりだ。時間加速を前提に、薔薇の剣士は同じモーションを繰り返すだけ。単純すぎる永久パターンだが、だからこそ逃れることは不可能である。


 十二分に切り刻んだところで『スラスト』を下段から見舞い、宙に浮いた瞬間『スパロースラッシュ』を差し込んで終わらせた。ノブは細切れになって吹っ飛んでいく。


 これでもまだ終わっていない。ついにノブの残機をあと一まで減らしたが、それだけだ。残機ゼロに追い込まなければ、勝ちではない。


 予定調和でノブは復活し、最後のスペシャルバーストを発動した。上空から落下しながらノブは数十人にも分身し、印を切る。


「ハハハッ、後悔するといい! 俺をここまで追い詰めたことを……!」


 赤紫色をしたオーラの嵐が吹き荒れた。残機を全て失ったことで、ノブを縛る制約は何もなくなっている。一人に融合し直したノブは、オーラが消えると同時にスタンと音を立てて石畳の床に着地した。


 『又吉信龍 Lv.999 ニンジャセイバー』。意味合い的には、Lv.∞と同じだろう。忍び装束も額に開く第三の眼もそのままに、赤紫のオーラを身に纏っている。たすき掛けにしていた藁人形は全て消えていた。


「終わりだ……! 君たちは」


 本気のノブが歯を剥いて笑い、刀を振りかざす。

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