19 悲しい現実
「話はわかった。レベルを修正することはできないな」
「「どうして!」」
雅雄とツボミは同時に声を上げて無駄にハモり、ヤスさんは回答する。
「前に言っただろう? そのアバターは正しく君たちの分身なのだよ。君たちの魂と肉体を寸分の狂いなくこの世界に落とし込んだ結果がそのステータスだ」
つまり、雅雄やツボミの現実世界での能力をゲームの世界で正確に再現した結果、雅雄はLv.1、ツボミはLv.11となったわけである。ならますます納得がいかない。
「じゃあなんで僕がLv.1でみんなはもっと高いんだよ! おかしいじゃないか!」
「そうだよ! ボクならLv.40くらいあってもいいはずだ! もしくは他のみんなのレベルが高すぎる!」
雅雄とツボミの抗議を受け、ヤスさんは困った顔をする。
「そう言われてもなぁ……。君らが他の参加者に比べて優れている部分って、全然ないし」
確かに雅雄は平凡な中学生だが、平凡ということは平均くらいはあるということだ。普通よりちょっとテストの成績はいいので、むしろ平均より上のはずである。かつ勉強せずにこれなんだから、地頭はいいといえる。
「いや、僕は普通くらいでしょ! 成績はまぁまぁだし……!」
「ボクだってそうだよ! 成績はちょっとよろしくないけど、運動神経だったらそこそこだ……!」
雅雄とツボミは口々に主張するが、ヤスさんは嘆息する。
「テストの成績とか、学校でしか評価されない項目は関係ないんだよ。君たちはそれ以外がだめすぎる。どうやら参加者をリストアップした部下の見込み違いだったみたいだ……」
例えば「かしこさ」というパラメータがあるが、これは学校の成績で決まるわけではない。ちょっと勉強ができるから自分が頭いいと思い込んでいるのは、バカの類だ。本当の意味での頭の回転が問われる。「ちから」なら単純な筋力に加えて、実戦でその筋力を活かせるセンスがあるかだ。
こういった一つ一つのパラメータに加えて、コミュニケーション能力やリーダーシップなどを評価され、レベルは決定される。
「君たち、学校の勉強以外でアピールポイントはあるかい? 生徒会で役員やって何かイベントを成功させたとか、バイトリーダーだったとか、ツイッターのフォロワーが多いとか、フェイスブックの友達が多いとか……」
「……」
「……」
就活生にアピールポイントを訊くようなヤスさんの言葉に、雅雄とツボミは沈黙する。当然、あるわけがない。二人揃って黙り込むしかなかった。
ヤスさんがいうには、無作為に一般人を参加させれば平均はLv.10程度になるということだ。平均以上を集めたはずが、ツボミはほぼ平均程度の凡俗だった。雅雄に至っては、最底辺に突き抜けた使い物にならないゴミである。
ツボミは不満げな顔をするが、平均程度ということで内心安堵しているのだろう。落ち着いた口調で話を切り替える。
「じゃあ、どうしてボクらだけスタート地点までハンデがついてるんだよ? 最初からこの町でやった方がレベルが上がりやすくて有利じゃないか!」
ツボミの質問にヤスさんは答える。
「え~っと、見込みがありそうな者に参加してもらったら、平均レベルは20ちょっとくらいになったんだ。Lv.15以上を【ブレイバーズシティ】からスタートに設定したから、ほとんどがこの町からのスタートになった」
スタート時のレベルには制限があり、どんなに能力が高くてもLv.30までである。しかしLv.15以下は数人程度しかおらず、またLv.30近くも数人程度しかいなかったため、平均でいえばLv.20程度となった。Lv.5未満の【名もなき村】からのスタート者に至っては、雅雄一人だったらしい。
ともかく、参加してしまったものは仕方がない。しかし【ブレイバーズシティ】周辺のダンジョンはLv.15以上のモンスターしか出現せず、低レベル帯のプレイヤーには酷すぎる。
そこでLv.15未満の低レベルプレイヤーは必ず自分と同程度のモンスターだけがポップするように設定された【名もなき村】、【名もなき町】からスタートすることになったのである。雅雄たちに配慮した結果、スタート地点が変更になっていたのだった。【名もなき村】や【名もなき町】には低レベル者だけが入手できるレアアイテムも配置されており、むしろ雅雄たちは有利になっている。
「え~っと、私も部下が作ったリストを元に厳正に審査をしたのだがね、どうしても数人は低レベル者が混じってしまったのだよ。君らもLv.15くらいはあるかなと思ってスカウトしたんだが……。そういう意味では、申し訳ない」
ヤスさんは口籠もりながら謝る。選んだ自分が悪いと言い切りやがった。雅雄たちの立場がない。
多分、ヤスさんの部下が候補をリストアップしたときに忖度したのだ。メガミがやりやすいよう、メガミに近くて弱い者を多くリスト入りさせたのだろう。そして本来、ヤスさんが審査して弾くところを何人かは間違って通過してしまった。
「でも、この周囲だと強いモンスターと戦えるんでしょ? レベルもすぐに上がるよね……」
雅雄はそう言いながらステータスウインドゥを開き、震える手で次のレベルまでの経験値を閲覧しようとする。今までは低レベルなモンスターだけを相手にしていたが、ここなら違うはずだ。他のみんなは普通にレベルアップしているようだし。数字を確認して希望を持とう。
同じ事を考えたのか、ツボミも青い顔をしながら雅雄にならう。そして表示された数値を見て、雅雄とツボミは同時に声を上げた。




