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34 成長

「……君は、本当はどうしたかったの?」


「私はお兄様に必要とされたかった……。私の居場所がほしかった……」


 それが、ツボミの問いに対するミヤビの答えだった。ツボミはミヤビの手を取り、ゆっくりと立たせる。


「……ボクは、君を否定しない。君は雅雄の過去そのものだから。雅雄がここまで来るのに、君が必要だったから。雅雄、君はどうする?」


 ミヤビは泣いているような笑っているような、困っているような喜んでいるような、そんな顔をしていた。


「……」


 この世界であれば、雅雄はツボミとともに剣を振るうことができる。ミヤビも剣を振るえる。だから衝突した。雅雄は恥ずべき過去として、ミヤビを消そうとした。ミヤビは生き残るために、雅雄の存在を奪おうとした。果たしてそれは正しかったのか。


 なぜ、雅雄の中からミヤビが産まれたのだろう。それは、静香やメガミに気に入られることで、自分の身を守ろうとしたから。牙も爪もないかつての自分が考えていたのは、きっとそれだけだったのだ。


 そして今回、ミヤビは自分の身を守るため雅雄に牙を剥いた。過去の自分を消そうとして、過去の自分に手を噛まれた。そんな構図だ。


 断固としてミヤビを認めず、消したとして、意味があるのか。きっと意味はない。過去という事実は残り続けるだけである。それでは研鑽を積み重ねてきた過去をバックボーンに持つユメ子に絶対勝てない。雅雄が本当に変わるためには、過去が必要なのだ。


「大丈夫だよ、雅雄」


 ツボミが、黙り込んでしまった雅雄の手を取る。もう片方の手は、ミヤビの手を握ったままだ。ツボミが、雅雄とミヤビをつないでくれた。


 そうだ。ここにはツボミがいるのだ。何も恐れることはないし、くだらない体面を気にする必要もない。ただ、雅雄が思ったとおりにすればいい。ツボミがいればそれができる。きっと、それこそが雅雄の成長だ。


「……ごめん、ミヤビ。僕が間違っていたよ。君は僕だ。だから、戻ってきてほしい」


 意を決して、雅雄は告げる。ミヤビは顔を上げ、淡く笑った。


「ありがとう。嬉しいわ、お兄様……」


 ミヤビの体が光の粒子となって、雅雄の体に吸い込まれる。雅雄とミヤビは、一つになった。


「さて、そろそろよいでござるか? 単なる時間稼ぎに付き合う気はないでござるよ」


 Lv.130を維持したままのユメ子は、そう訊いてくる。雅雄は構えていた〈ショートアダマンソード〉を鞘に収めながら、首肯した。


「うん。ツボミ、いいよね?」


「もちろん。準備はできてるよ。決着をつけよう!」


 雅雄は左手で〈ブルー・ヘヴン〉を、ツボミは右手で〈ブラック・プリンス〉を構える。ユメ子がLv.99を超えているからどうしたというのだ。今の自分たちなら、負ける気がしない。


 雅雄とツボミは、それぞれの愛刀を交差させて床に突き立てる。確信があった。今の雅雄とツボミなら、どんな壁だって越えられる。




「今、僕は愛という名の奇跡を起こす!」「そして、ボクはその愛を永遠と誓う!」


「「愛の奇跡は永遠となり、一つの運命となる! 目覚めよ、薔薇の剣士!」」




 青と黒のオーラが竜巻状に放出される中、雅雄とツボミは抱き合って唇を重ねた。青と黒のオーラに赤のオーラが混じり、いっそう強く放出される。


 オーラが収束したとき、〈スターリングシルバー〉で身を固めた白銀の騎士が現れた。ミヤビの要素が入ったせいか、胸の膨らみが大きくなって、容貌もより女性らしくなっている。ステータス表示は『薔薇の剣士 Lv.99 ソードマスター』だ。


「ハッ、結局はその姿のままでござるか。だったら瞬殺でござる!」


 ユメ子は飛びかかってくるが、手榴弾が炸裂したかのように、薔薇の剣士の体から〈スターリングシルバー〉が弾け飛んだ。装甲の一片一片が勢いよく飛んできて、ユメ子はひるむ。


 肌着同然の姿だった薔薇の剣士を、真っ白な上着とズボンが包む。頭には大きな赤薔薇の造花をあしらったつばの広い帽子が乗せられ、表が黒、裏地が赤のマントが背中に翻る。


 右手の薬指には、青薔薇の紋章が刻まれた指輪。左手の薬指には、黒薔薇の紋章が刻まれた指輪。そして、右手の小指に赤薔薇の紋章が刻まれた指輪。


 これが、生まれ変わった薔薇の剣士の姿だった。ステータス表示は、『薔薇の剣士 Lv.130 ソードセイバー』に変化している。雅雄がミヤビを取り込んだことで、オーバーライドを三つ使えるようになった。だからレベル制限を上書きして、Lv.99の壁を突破した。


 薔薇の剣士は、右手で〈ブラック・プリンス〉を床から引き抜き、さらに左手で〈ブルー・ヘヴン〉も引き抜く。その瞬間、〈ブルー・ヘヴン〉もまばゆい光に包まれ、その形態を変化させた。


 美しさはそのままに、より長く、刀身が厚くなる。そして、そうなるのが当然であるかのように、〈ブラック・プリンス〉と同じサイズにまで大きくなった。さらに青い刀身に少しだけ赤が混ざって、全体が淡く紫がかった色になる。


 〈ブルー・ヘヴン〉が進化した、新たなる雅雄の半身、〈青のレクイエム〉。その使用解禁条件は、Lv.99を超えていることと、一切の防具を装備していないことだ。長船君は〈ブルー・ヘヴン〉を修理したときに、〈青のレクイエム〉への進化機能を仕込んでいたのである。


「雅雄、ツボミ、無事!?」


「生きていますよね、二人とも!」


 塔の壁が崩れた際に、戦場がどこであるか把握したのだろう。ユメ子が呼び寄せたモンスターを全滅させた火綱と冷司も駆けつけてきた。


「「……見ていて。僕が、ユメ子を倒すから」」


 二人の力を借りる気はない。反撃の準備はすでに整っている。後はユメ子を倒してしまうだけだ。今なら、薔薇の剣士にはその力がある。

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