16 戦いの行方
「ほら、そこでしょ! 『ヘビースラッシュ』!」
「高位の忍者なら、こういう芸当もできるのでござるよ!」
ユメ子は空中を滑らかに走り、ミヤビが撒き散らした炎を避けつつ、モーションスキルを発動したミヤビに斬りかかる。スペシャルバースト発動中でオーバーライドによる硬直キャンセルを使えないミヤビは、ユメ子の攻撃を避けられないはずだ。ユメ子は走りながらLv.99のスペシャルバーストを解除してLv.70に戻り、スペシャルラッシュを発動する。
「[秘伝・稲妻十七連打撃]でござる!」
ユメ子は紫のオーラを放出しながらミヤビに突っ込んでいく。手裏剣やくないを投げつけながらユメ子は分身し、四方八方から斬りかかる。誰も避けられない必殺の奥義だ。しかし、ここまで含めてミヤビの作戦通りだった。
「同じ手で、やれるわね! 死になさい!」
一度、薔薇の剣士を撃破したときと同じように〈焔の波〉から全方位に炎が溢れ出す。薔薇の剣士と違って、ユメ子には炎を消す手段がないため、逃げる他ない。スペシャルラッシュを中断したユメ子は空中であるのに大きく後ろに跳ねて、炎を回避する。
「まだ終わっていないわ! 『メガ・フレイム』!」
「忍法・『身代わりの術』!」
ミヤビの追撃を、ユメ子は身代わりの術で丸太と自分を入れ替えて凌ぐ。お互い、スペシャルバースト中なのでスキル使用後の硬直をキャンセルできない。やがて硬直は解けるが、次の一撃で決めるべく、二人は迂闊に動かず様子をうかがう。
「フフフッ……! 観念したら? わかったでしょう? あなたでは私には勝てないわ」
ミヤビはユメ子に声を掛ける。これも駆け引きの一環だ。ミヤビはユメ子に全力で逃げられると手がないので、向かってこさせようとしている。
「さすが、生粋のプレイヤーではなく、成り上がった者……! 正直甘く見ていたでござるよ。それでも、勝つのは拙者でござる。拙者こそが、最強のプレイヤーであるが故に……!」
ユメ子は不敵に笑う。引く気が一切ない。自分こそがワールド・オーバーライド・オンラインで最強のプレイヤーであると信じているから。ミヤビは鼻で笑う。
「ハハハッ、恋愛脳のガリ勉バカ女の体を奪って気が大きくなってるのかしら? かかってきなさいよ、あなたなんか全然大したことないって、私が教えてあげる」
「何を言っているのでござるか? 大したことがないのは貴殿でござるよ? ……忍法・『分身の術』!」
ユメ子が印を結ぶ。同時に、ユメ子は三人に分裂した。
「「「神仏照覧……! 目に焼き付けるでござる、プレイヤーが到達できる最強の力を……! ゲームクリアのために求められる力を……!」」」
三人のユメ子の声がハモる。はったりではなさそうだ。ミヤビはユメ子の動きを注視しつつ、身構えた。
○
「やっと着いたわね……」
「そうですね……」
忍び殺しの塔を見上げ、火綱と冷司は疲れた顔を見せる。ここまでの道のりも、それなりに長かった。山道ということで、気力の消耗が倍ぐらいに増えている。雅雄も喋る元気がないくらい、息を荒げていた。
しかし、本番はここからだ。果たしてユメ子を捕まえられるかどうか。雅雄も塔を見上げる。和風な世界観で構築されている東方エリアに似合わず、忍び殺しの塔は石造りでやたらと巨大だ。見上げていると首が痛くなる。
「とりあえず、入ってみようよ」
言うが早いかツボミは歩き出す。そもそも中にユメ子がいるかどうかもわからないが、進んでみるしかない。目撃証言は途絶えていないので、まだユメ子は塔の攻略に手間取っているはずだ。
中に入ってみると、忍び殺しの塔はごく一般的なダンジョンだった。何もない大広間になっている一階を抜け、二階に上がる。二階以上は適度に広い回廊が組み合わさり、迷路になっていた。
問題は塔が大きすぎるということだけだ。天井が高いことを勘案しても、まともに昇れば何階層あるかわからない。途中でエレベーターでもあればいいのだが。
「ショートカットできるルートとかないのかなぁ」
雅雄は周囲をキョロキョロと見回してみる。火綱はおもむろに天井の隅を指さす。
「あるわよ。あそこ」
微妙に石の組み合わせ方が違う一角があった。言われてみれば非常に怪しい。
「ああ、ユメ子ならあそこからショートカットしそうですね。多分あそこが開くんでしょう。抜け道になっています」
冷司はうなずくが、火綱は首を振る。
「そんなに甘くないわよ。多分、罠ね」
火綱は落ちていた石を拾い、投げつける。天井の継ぎ目から鋭い刃が飛び出し、雅雄はギョッとする。もし忍者のスキルで壁を走って抜け道に入ろうとしていたら、なますに刻まれていたところだ。
「なるほど、これで忍び殺しの塔なんだ」
得心がいったという風にツボミは言った。おそらく抜け道は用意されているが、すべからく罠が仕込まれているのだろう。
いずれにせよ、雅雄たちにできるのは正面突破だけだ。どこかでユメ子に遭遇すると信じて、雅雄たちは歩き始めた。




