11 vs NPC
「今、青薔薇の奇跡はこの手の中に!」「そして、黒薔薇の永遠は二人を包む!」
「「奇跡の願いは永遠となり、運命を切り開く! 目覚めよ、薔薇の剣士!」」
手をつなぎ、青薔薇の剣〈ブルー・ヘヴン〉と黒薔薇の剣〈ブラック・プリンス〉を交差させた雅雄とツボミは、スペシャルバーストを発動する。青と黒のオーラが放出され、二人は一つになる。
「「悪いけど、手加減はできないよ……!」」
相手はLv.40超の忍者系統職ばかりだ。モンスターと違って思考してくる相手なので、素の雅雄とツボミで戦える相手ではない。顕現した『薔薇の剣士 Lv.40 デューク』は二本の剣を振りかざして迫り来る忍者たちを迎え撃つ。
同レベル帯のプレイヤーよりは、若干ステータスが低いようだった。薔薇の剣士は数人の忍者を軽く斬り倒す。殺してしまうまではいっていない。PKのプレイヤーなら容赦なく絶命させるところだが、そこまではできなかった。彼らが口にする言葉から、彼らにも理由があるということを知ってしまったためだ。
「賊を討ち取れば、ユメ子様の力になる!」
「異界からの侵略者から、世界を守るのだ!」
「ユメ子様がいればそれを為せる!」
「ユメ子様なら、異教の神を倒せる!」
「かつての勇者殿も、我々に味方してくれるはずだ!」
NPCたちは、自分たちの世界をゲームの舞台にされていることに憤っている。自由を求めて、ヤスさんを倒そうとしている。そのために、ユメ子に力を貸す。
たかがNPCが、なんて切り捨てることはできない。雅雄たちだって、【名もなき村】でシノには散々助けられたので知っていた。この世界のNPCはプレイヤーと変わりない知性と命を持っている。
ゲームだと割り切って危害を加えるなんてできない。HPをゼロにしてしまわないように注意しながら、薔薇の剣士は戦う。いくら忍者たちが素早くても、薔薇の剣士が操る〈ブラック・プリンス〉の時間加速スキルにはついていけない。薔薇の剣士は峰打ちでどんどん忍者たちを吹っ飛ばしていく。
火綱と冷司も雅雄たちと同じ考えのようで、手加減して力を振るう。派手に炎や氷が飛び交う激戦のわりに、戦死者はゼロだ。
「ひるむな! 賊が力尽きるまで、攻撃し続けるのです! 一番隊は左の男を! 二番隊は右の女を! 三番隊、四番隊は中央の男とも女ともわからぬ者を、仕留めるのです!」
後方で督戦するカゲロウは声を張りながらも、腰の刀に手を掛けていた。彼女自身も相当な手練れのようだ。隙あらば突っ込んでくる気である。
忍者たちはいくら傷ついても、後方で回復アイテムを使ってから戦場に舞い戻ってくる。これではきりがない。このまま戦い続ければ、相手を殺すしかなくなる。いつまでも余力を残せるわけではないのだ。
「仕方ない! 撤退するわよ!」
「了解です!」
「「わかった!」」
火綱と冷司は緊急離脱の魔法を発動し、薔薇の剣士は時間加速スキルで遁走する。【忍びの里】を前にして、撤退を余儀なくされるとは。ユメ子の情報どころではない。根本から、作戦を練り直す必要があった。
「この世界は我らのものだ! 絶対にユメ子の邪魔はさせぬ!」
気勢を上げる忍者たちの声を聞きながら、薔薇の剣士はその場を離脱した。
分離した雅雄とツボミは苦労して登った山道を転がるように駆け下り、少し広くなったところに出る。火綱と冷司が、二人を待っていた。四人は顔を突き合わせ、これからどうするのかを協議する。
「あれは聞き込みするのも無理ね……! あそこにユメ子がいるなら手を出せないわ」
火綱は疲れをにじませた顔で嘆息する。【忍びの里】にさえ近づけないのなら、どうしようもない。冷司も山道を登ったり降りたりで疲れているのだろう、投げやりな調子で発言する。
「NPCだったら、ヤスさんがなんとかしてくれないですかね……」
「ヤスさんねぇ……。役に立つとは思えないけど……」
火綱は懐疑的だったが、話が進展しない。痺れを切らしたのかツボミは動いた。
「訊くだけ訊いてみようよ」
ものは試しとツボミはGMコールを行う。すぐにヤスさんが姿を現した。
「何の用だね? 私は忙しいのだが」
ヤスさんはいつものように天使の翼を広げて腕組みし、神の威厳を保とうとしているようだった。メガミの救出がうまくいっていないからだろう、やたらと不機嫌そうでもある。しかし、神ではあってもLv.50でしかないことを知ってしまった雅雄には、そこらのおっさんが必死にふんぞり返っているだけにしか見えない。
「【忍びの里】のNPCを止めてほしいんだけど、できるかい?」
ツボミの問い掛けに、ヤスさんは重々しくうなずいた。
「……。……できなくはないぞ。時間は掛かるが」
一瞬、ヤスさんが口籠もったのが気になった。雅雄は尋ねる。
「ちなみに、どうやってやるんですか?」
「【忍びの里】の戦闘禁止区域コードを解除して、モンスターを攻め込ませる」
神どころか悪魔の所行だった。雅雄は瞬時に決断する。
「それはやめときましょう……」
「う、うむ。そうだな……。それがいいと思う」
内心はやりたくなかったのだろう、ヤスさんも雅雄に同意した。じゃあ、いったいどうすればいいのか。




