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10 【忍びの里】

 東方ステージの中心地である【オオエドシティ】は、名前のとおりちょんまげで日本刀を提げた武士たちが往来を闊歩する和風の町だった。武器屋では日本刀やら薙刀を買えるし、屋台では蕎麦やらおでんやらが売られている。町の中心には姫路城をそのままコピーしてきたっぽい真っ白な天守閣と石垣の城がそびえ立っていた。


 興味深くはあるが、雅雄たちからすればあまり目新しさはない。時代劇の撮影風景をそのまま見せられている気分だ。和風の甲冑や武器も今まで使っているものに比べて優秀というわけでもないし、この場所自体にはあまり用がない。


 問題は、ユメ子の足取りを掴めるかどうかだ。手分けしてNPCやプレイヤーと会話し、情報収集をする中、雅雄たちはそのヒントを掴んでいた。




「へえ、将棋盤なんて置いてあるのね」


「姉さん、そんなのやってる場合じゃないですよ。こっちに来てください」


 体力回復のために入った宿屋で雅雄たちは地図を囲む。宿屋も旅館風だ。畳の上に地図を広げている。


「【オオエドシティ】がここ。NPCの話だと、こっちに【忍びの里】があって、それからもっとこっちに忍者用のダンジョンがあるって……」


 雅雄は地図上で、少し離れた場所の点を指す。忍び殺しの塔なるダンジョンがあり、忍者系の最強装備を入手できるとのことだ。


「なるほどね……! 私たちは、ユメ子がダンジョンの方面とこの町をたまに行き来してるって聞いたわ……!」


 火綱と冷司は主にプレイヤーへの聞き込みを行っていた。〈金の鍵〉がないとこの地方に来られないわけではない。関所を大回りすれば、入国すること自体は可能だ。ただし、鍵なしでは入れないダンジョンも多いので、活動はかなり制限される。それなりの数のプレイヤーが【オオエドシティ】には到達していた。


 情報を纏めると、ユメ子はこの町でちょくちょく目撃されており、クエスト討伐対象なので挑んだプレイヤーもちらほらいるということだ。しかしユメ子のスピードには誰もついていけず、返り討ちにあうか逃げられるかで、倒されてはいない。


 一方で、ユメ子が【オオエドシティ】を拠点にしているという情報はない。市内での目撃証言はかなり少ないのである。常駐はしていないと見て間違いないだろう。


 地図を見ると【オオエドシティ】、【忍びの里】、さらには忍び殺しの塔はほぼ等距離だ。おそらくユメ子は【忍びの里】を拠点に忍び殺しの塔攻略にいそしんでいる。そして帰りは【忍びの里】に直帰せず、消耗品補充のため【オオエドシティ】に向かうこともあるのだろう。


「……だったら、【忍びの里】に行ってみようか。多分、もっと情報を得られるよ」


 雅雄は提案する。ユメ子を確実に捕まえるために、雅雄たちは彼女がいつ動いているか知らなければならない。元々この世界の住人で、ペナルティ上等なユメ子と雅雄たちは違う。ずっと張り込みなんてできない。


「そうね。そうしましょう」


「いいと思いますよ」


「うん、行こう!」


 火綱はうなずき、冷司とツボミも同意する。方針は決まった。準備が出来次第出発しよう。




「ハァハァ……。この道、まだ続くの?」


「ですね……。まだ後二時間は歩かなきゃいけないんじゃないですか?」


 火綱は息を荒げながらうんざりした顔をして、冷司も嘆息する。正直、雅雄も歩きっぱなしが続いて辛い。


 【忍びの里】は【オオエドシティ】から山道をずっと進んだところにある。道が悪くて馬車を使えないので、徒歩で行くしかない。脇の茂みから『かたなモンキー Lv.42』やら『忍犬 Lv.39』やら『ローリング岩石 Lv.40』やらが出てくるが、雅雄たちなら充分に対応可能だ。


 しかし途中に何もないので、休憩なしで山中を突っ切るしかないのである。いくら体力のあるアバターの肉体でも、動き続けると疲労が蓄積してしんどい。間違って宿屋でもないかと視線をさまよわせながら歩くが、余計に疲れるばかりだ。


 とはいえ距離的には、三時間程度でたどり着ける場所である。やがて山の中腹あたりに見えてきた【忍びの里】を見て、雅雄はホッと息をつく。


「もうすぐだね……!」


 木造で藁葺きの家が並んでいる他には何もない、寂しい村だった。しかしあそこにはきっとユメ子がいる。ユメ子を倒して、雅雄たちがメガミを救うのだ。


 雅雄は勝利を夢想するが、ツボミの鋭い声で我に返る。


「……! 危ない、雅雄!」


 雅雄はとっさに剣を抜きながら、その場から飛び退く。地面に無数の手裏剣やらくないやらが突き刺さった。周囲を見回せば、十数人もの黒装束の忍者たちが、雅雄ら四人を囲んでいた。


「ぷれいやぁどもよ! 我らの里には入らせぬ!」


 さらに数人の忍者を従えた妙齢の女性が、道の方からやってくる。彼女だけは甲冑に派手な柄ものの陣羽織を合わせていて、さらに毛皮まで着込んでいる。忍者というよりは山賊のようだ。


「どういうことでしょう……? 討伐クエストのイベントでしょうか……?」


 冷司は首を傾げる。火綱は剣を構えながら吐き捨てる。


「そんなわけないでしょ……! でも様子がおかしいのは確かだわ!」


 現れた忍者は全員NPCのようだった。しかし彼らは、プレイヤーがプレイヤーであることを認識している。


「皆の者! 我が娘を守るのじゃ!」


「ハハッ! カゲロウ様! ユメ子様には指一本触れさせません!」


 カゲロウなる女の号令でNPCの忍者たちは襲いかかってくる。なんとなくわかった。【忍びの里】はユメ子の故郷で、カゲロウはユメ子の母親。【忍びの里】は、雅雄たちを排除しようとしている。


「行こう、雅雄」


「うん……!」


 どういう事情があるにせよ、ここは戦うしかない。こちらにだって引けない理由はある。雅雄は隣に来たツボミの手を握った。

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