6 握手
「「ボクらが戦う必要はないだろう……?」」
「それでも私はあんたをぶっ飛ばす! でないと私の気が済まないから!」
言っていることは無茶苦茶であるが、ともかく火綱は本気だった。火綱は複数の火球を放つ。火球は薔薇の剣士を包囲するように動き、追尾してくる。普通のプレイヤーなら逃げ切れないだろう。しかし薔薇の剣士は違う。
「「喰らうわけないだろ、そんな程度……!」」
何発撃たれても普通の魔法など当たるわけがない。〈ブラック・プリンス〉の時間加速スキルですり抜けるだけだ。時間の流れが百倍の世界で、火球は止まって見える。薔薇の剣士は火球を避けて接近し、火綱に斬りかかった。
「この瞬間を待っていたわ! 『フレイム・レイン』!」
炎の雨が、薔薇の剣士の頭上から降り注ぐ。即座に薔薇の剣士は時間加速を発動して火綱の背後に回り込む。しかし、あまりに単調すぎる動きだった。火綱は当然読んでいて、対応してくる。
「「『フェザースラッシュ』!」」
「メガミを助けるのは私だ! 『ムーンサルトスラッシュ』!」
火綱は薔薇の剣士が放った最速の斬撃を宙返りで回避しながら斬りつけてくる。薔薇の剣士はモーションスキルをオーバーライドでキャンセルして避け、着地を狙って突き技で突進する。
「「ボクらだって、彼女を助けたいと思ってる! 『スラスト』!」」
「その思いは、絶対に私たちの方が強いわ! 『スラッシュ』!」
火綱は斬撃を正確に合わせて、モーションスキルをモーションスキルで相殺する。硬直キャンセルで薔薇の剣士と火綱はさらにスキルを繰り出す。
「「だからって、ボクらに何もしないなんて選択肢はないんだ! ボクらは変わったんだから! 『捨て身スラッシュ』!」」
「私たちも、変わりたいの! 今度こそ、メガミの力になりたいんだから! 『バーニングスラッシュ』!」
防御を無視した剛剣と、炎に包まれた剣がぶつかり、やはり相殺される。これで終わるわけがない。今一度オーバーライドによるキャンセルを入れて仕切り直し……というところで、薔薇の剣士と火綱の間に、巨大な氷の壁が現れた。
「『ブリザード・ウォール』! 姉さんも、二人も、いい加減にしてください! 私たちが争うなんて、メガミだって望んでないでしょう!? 姉さんはこんなことがしたかったんですか!?」
「そうね。メガミは望んでないわよね。ただ、私の気が済まなかっただけ」
憑きものが落ちたかのように、火綱は剣も杖も降ろした。もう戦意はなさそうだ。一暴れして溜まったものを発散し、冷静になったのだろう。それを確認して薔薇の剣士は雅雄とツボミに分離した。火綱は雅雄に視線を向け、さらに言葉を重ねる。
「……メガミがああいうことになったのは、はっきり言ってあんたの責任よ。だから、責任をもってメガミを助け出して。私たちも全面的に協力するわ」
「わかった」
ツボミが死んだとき、雅雄がメガミの言うことを聞かなかったのがメガミの絶望につながったのだろうか。正直よくわからないが、メガミを助けるという気持ちは変わらない。雅雄とツボミで、ユメ子を倒す。それにトップ層のプレイヤーである火綱と冷司が協力してくれるなら、心強い。
「それから一つ、忠告するわ。ユメ子のスピードは、今日のあんたたちよりずっと速いわよ」
「ボクらも、本気ならもっと速く動けるさ……!」
半分負け惜しみでツボミは言う。確かに薔薇の剣士がLv.99のスペシャルバーストを使えばスピードはさらに上げられる。ユメ子がスキルやオーバーライドを使えばもっと速く動けるような気がするが。
ただまあ、だからといって雅雄とツボミがユメ子に勝てないかというと全く別問題だ。スピードで負けていても、Lv.99に達した薔薇の剣士には火力と装甲がある。不思議と雅雄はユメ子に負ける気がしなかった。
「私はあんたたちを仲間だと認めるわ。だから私のことは火綱って呼んで」
「私も、冷司でいいですよ。あなたたちのことも、名前で呼ばせてもらっていいですか?」
こういうところから、人と人との信頼関係はできるのだろうか。全く初めての経験だ。雅雄はうなずき、二人を名前で呼んだ。
「うん。よろしく、火綱、冷司。何でも協力するよ」
「こちらこそ、頼りにしてるわ、雅雄、ツボミ」
雅雄とツボミは冷司、火綱とそれぞれ握手した。
「さっそくだけど、雅雄とツボミにお願いしたいことがあるの」
火綱は申し出る。いったいどんな話だろう。どんな敵だろうと、薔薇の剣士になれば勝てないことはないと思うが。ギミック等が多いダンジョンの攻略等なら、苦労するかもしれない。
「何? どこを目指すの? 誰と戦えばいい?」
緊張しながら雅雄は尋ねるが、苦笑いしながら冷司は首を振る。
「違う、違いますよ……。学校での話です」
「お願い! 他に事情知ってる人もいないし、頼めそうな人もいないの?」
やはり雅雄の脳は戦いに侵されつつあるのだろうか。しかし学校のことでこの二人が雅雄に頼らなければならないことなんてない思うが。
「学校……? どういうこと?」
若干顔を引きつらせながら雅雄は尋ねる。ツボミと一緒にいることで少しマシになったが、基本的に雅雄は学校ではいい話がない。そこはかとなく嫌な予感がする。意を決したような顔をして、火綱は叫んだ。
「メガミの代わりに、オープンスクールの劇に出てほしいの!」
その言葉を聞いた瞬間、雅雄はめまいがしてその場に座り込みそうになった。無茶振りにも程があるだろう。僕にどうしろって言うんだよ……!




