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5 火綱の怒り

「あんたたちのせいでメガミがあんなことになったのに、あんたたちに助けられるなんてまっぴらごめんよ!」


 火綱の叫び声で雅雄とツボミは動けなくなったが、無視して冷司は怒鳴った。


「姉さん、何を言ってるんですか!? 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう!? この間は何も言ってなかったのに!」


「ヘルプの話とは別よ! ずっとメガミが、どんな気持ちで戦ってたと思ってるの!? メガミのための戦いに、あんたたちになんか加わってもらいたくない!」


 なぜそこまで火綱が雅雄とツボミを拒絶するのかは不明だが、ともかく火綱は本気だった。多分、うかつに近づけばモンスターもろとも魔法で攻撃される。


 完全に足を止めてしまった雅雄のところに、馬から降りたツボミが駆け寄る。ツボミは雅雄に尋ねた。


「雅雄、君はどうしたい?」


「……僕は、メガミを助けたい」


 そう思ったことを嘘にしたくはなかった。雅雄たちしかできないから戦うのではない。メガミを助けたいから戦うのだ。


 雅雄の答えを聞いて、ツボミはニッコリと笑う。


「なら、やることは決まってるね?」


「そうだね!」


 雅雄もツボミを見て笑った。怯えることなど一切ない。自分の意志に従って動けばいいのだ。数が多いとはいえスペシャルバーストを使うまでもない敵なので、雅雄とツボミは剣を抜いてそのままモンスターの群れに突っ込む。


「来ないで! これ以上近づいたら、あんたたちも焼き払うわ!」


 火綱は雅雄とツボミに杖を向ける。職業はマジックナイトだが、今回は支援に徹しているようだ。逆にワーロックの冷司は前に出て剣を振るっている。


「君が何と言おうと関係ない! 僕らは、ツボミを助けるんだ!」


 雅雄とツボミが立ち止まることはない。抜刀して、目についた『もうどくスネーク Lv.41』にモーションスキルを撃ち込む。


「行くよ、ツボミ! 『フェザースラッシュ』!」


「オーケー! 『フェザースラスト』!」


「まだだね! 『捨て身スラッシュ』!」


「そこだ! 『スラスト』!」


 初級モーションスキルから入り、倒しきれなかったので中級モーションスキルを発動する。雅雄とツボミが交互にスキルを放つことで、全く隙はない。とりあえず一体、敵を倒した。あとはこれを繰り返して馬車に近づき、護衛の役目を引き受けるだけだ。


 しかし、あくまで火綱は雅雄たちを拒否する。宣言通り、火綱は雅雄たちもろとも焼き払うべく、炎を撃つ。


「私は絶対、あんたたちを認めない! 『ハイ・フレイム』!」


 直進してくる火球が、数体のモンスターを薙ぎ倒す。間一髪で雅雄とツボミは横に身をかわして火球を避けた。


「姉さん、いい加減にしてくださいよ!?」


 たまらず冷司が抗議の声を上げる。しかし、火綱は止まらない。


「私は、許せないの! メガミのことをわかってなかった人も……! メガミの力になれない自分自身も……!」


 やけになっているのか、火綱はオーバーライドまで使って火球を乱射する。これはいけない。手をこまねいて見ていたら、本当に雅雄もツボミも死んでしまう。


「雅雄!」


「うん!」


 二人は視線で会話して〈ブルー・ヘヴン〉と〈ブラック・プリンス〉を呼び出す。二人はしっかりと手をつないで、二本の美しい剣を交差させた。雅雄とツボミは心を一つにして、スペシャルバーストを発動させる。




「今、青薔薇の奇跡はこの手の中に!」「そして、黒薔薇の永遠は二人を包む!」


「「奇跡の願いは永遠となり、運命を切り開く! 目覚めよ、薔薇の剣士!」」




 青と黒のオーラが竜巻状に放出され、やがて収束する。現れたのは『薔薇の剣士 Lv.40 デューク』だ。美麗にして華麗なる薔薇の剣士は、二本の剣を手足のように操り、周囲のモンスターをあっという間に打ち倒してしまう。


「手を出さないでって言ってるでしょう!」


 火綱は火球を立て続けに放つが、薔薇の剣士は一切気にしない。時間加速を発動すれば、関係ないからだ。火綱の攻撃を無視して時間加速を連続使用し、薔薇の剣士はモンスターの掃討に集中する。


「余計なこと、しないでよ!」


 モンスターが減ったことで、火綱は馬車から離れられるようになった。火綱は剣を抜き、右手には剣、左手には杖というスタイルで薔薇の剣士に襲いかかる。全く手加減してくれる様子はない。


「「ボクらが戦う必要はないだろう……?」」


 そう言いながらも、薔薇の剣士は剣を構えた。話し合いで解決できれば一番いいはずなのに。みんな、この世界で剣を振るうことに慣れすぎてしまったのかもしれない。

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