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4 フィールドでの遭遇

 意気込んでみたのはいいものの、雅雄たちにも生活というものがある。二週間しかないうちの学校の夏休み期間はちょうど盆休みと被っているのだ。最初の三日間は、雅雄の両親が帰ってきていたため、ゲームどころではなかった。


 成績が悪いとか、生活態度がなっていないとか、いろいろと小言を言われた。ただし、雅雄も両親の勤務地である北海道に来いとは絶対に言わない。


 雅雄は縮こまって、聞き流して、その場をやり過ごすしかない。もちろん、ツボミを家に呼ぶなんてできるわけがない。……というか、余計ややこしくなりそうなので来てもらっては非常に困る。


 四月以来様々な出来事があって、ツボミに出会い、自分なりに成長してきたつもりだった。しかし、こうして両親といると自分はちっとも変わっていないのではないかと感じる。両親の前では、相変わらず雅雄は弱虫のままだ。


 ツボミの方も墓参りやら何やらで忙しく、二人で時間を合わせてログインすることもできなかった。もどかしさを感じつつ、雅雄は三日間を過ごす。




 やまない嵐はない。両親の夏休み期間はあっという間に終わり、北海道へと帰っていった。これでようやくワールド・オーバーライド・オンラインの世界に行くことができる。次の日、さっそく雅雄たちはログインし、フィールドに出る。


「……で、ユメ子はどこにいるのかな?」


 笑顔でツボミは雅雄に尋ねるが、雅雄だって知るわけがない。


「さぁ……? でも、あの子だって多分ゲームのクリアを目指してるんだよね。だったら、最前線に向かえば会えるんじゃないかな?」


 凄まじくアバウトな方針だが、全く何の手がかりもないので仕方がない。とりあえず雅雄たちは新しく解放されたという東方のステージを目指すことにした。



 いつものように馬に乗って街道を駆けてゆく。東のステージとの境目にある〈黄金の扉〉は〈金の鍵〉を使うことで通り抜けられた。行く当ては特にないので、雅雄たちは街道を道なりに進んでみる。


 出てくるモンスターは『バーニングバッファロー Lv.43』やら『もうどくスネーク Lv.41』やら『つばさオオカミ Lv.45』やらである。ダンジョンに出てくるモンスターよりは弱いのだろうが、総じて足が速いため厄介だ。なかなか二人乗りの馬では振り切れないのである。スペシャルバーストを使わなくても渡り合える程度だが、時間は掛かってしまう。


 ユメ子討伐クエストを受けた資金で馬をもう一頭買っておくべきだったかもしれない。でも、雅雄はツボミほど器用に馬を乗りこなすことができないので、どっちみち進行速度はかなり遅れる。二人だけの旅は限界を迎えつつあるというのか。


 かなり消耗しながらも雅雄とツボミは街道を進んでいった。やがて雅雄は、街道で戦っている二人のプレイヤーを見つける。


「姉さん! そっちに行きましたよ!」


「わかってるわよ! すぐに私が……」


「ああもう、馬車から離れちゃダメですよ!」


 戦っているのは火綱と冷司だった。『双月火綱 Lv.61 マジックナイト』と『双月冷司 Lv.60 ワーロック』。レベルで言えば、この辺の雑魚より遙かに上だが、それでも苦戦を強いられていた。


 理由は明白で、馬車を守りながら戦っているからである。前に出ている冷司は派手に氷の魔法を放って目の前のモンスターたちを一掃しようとするが、敵の数が多すぎる。倒しきれないうちに次から次へとモンスターが集まってきて、収拾がつかなくなっていた。


 火綱は適宜支援に動こうとするものの、モンスターたちは馬車を優先的に狙ってくる。集中して戦えない。馬車から離れようとしては戻りの繰り返しだ。そして火綱も冷司も派手に魔法を使うので、モンスターを呼び寄せてしまう。結果として、二人はだらだらと湧いてくる敵と戦い続けるはめになっていた。


 とんでもなく拙い戦いぶりである。本当に彼らがメガミのパーティーのメンバーだったのかと疑いたくなるほどだ。多分、メガミとユメ子さえいればこんなモンスターたちは瞬殺して終わりだろう。


 ならば、雅雄とツボミでその役目を代行してやればいい。雅雄とツボミが短期間馬車を守るだけで、火綱と冷司は雑魚モンスターを殲滅してしまえるはずだ。


「雅雄!」


「……うん!」


 雅雄は馬から飛び降り、ツボミは乗馬のまま突っ込もうとする。しかしこちらにちらりと視線を向けた火綱は、叫んだ。


「来ないでッ!」


 反射的に雅雄もツボミもその場で動きを止めてしまう。いったいなんだというのだ。


「あんたたちのせいでメガミがあんなことになったのに、あんたたちに助けられるなんてまっぴらごめんよ!」


 正直なところ雅雄には、火綱が突然そんなことを言い出す意味がわからなかった。でも、火綱の鬼気迫る表情を見てしまうと、ヘビに睨まれたカエルのように動けなくなる。戦うべきか、引くべきか、どちらが正しいかは明らかなのに。


 雅雄は本当にメガミを助けられるのか。急速に胸の中で不安が広がっていった。

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