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3 ヤスさんからの依頼

「頼む! 娘を……メガミを助けてやってくれ! メガミの意識が戻らないんだ……!」


 頭を下げるヤスさんを見て、雅雄とツボミは顔を見合わせる。


「今は入院しているということにしてメガミの体を凍結しているが、魂がいつまで保つかはわからないんだ……! 一刻も早く、メガミを救出してほしい……! ユメ子を倒してくれ……!」


「そりゃあ、僕らにできることがあれば協力しますけど……」


 困惑を隠せず雅雄は応じる。なぜ、雅雄とツボミに言ってくるのだ。Lv.99のスペシャルバーストを使えば、雅雄たちは確かにあの世界で最強に近い。しかし、仮にも神様でGMをやっているヤスさんなら、他に頼れるプレイヤーを何人も知っているのではないか。


 雅雄たちの顔を見て察したのだろう、ヤスさんは雅雄の疑問に対する解答を提示する。


「彼女……服部ユメ子に勝てる可能性があるのは君たちだけだ。なぜなら、彼女のスピードは桁違い過ぎるからだ……!」


「忍者だからってことですか……?」


 雅雄は首を傾げる。いまいちピンとこない。アバターはメガミのものを奪っていても、ステータスはユメ子のものに入れ替わったのだろうけど、そこまで差ができるものなのか? いくら「すばやさ」特化型の忍者でも、他のプレイヤーで太刀打ちできないということはあるまい。


 雅雄はそう考えるが、ヤスさんは大真面目にうなずく。


「ああ。そのとおりだ。元々彼女には才能があったのだろうな……! 才能と職業がパーフェクトマッチの状態で、服部ユメ子のステータスはとんでもないことになっている……!」


 ヤスさんはワールド・オーバーライド・オンラインの中と同じようにステータスウインドゥを呼び出す。表示されているのはユメ子のステータスだ。「ちから」や「がんじょうさ」は200にも届いていないが、「すばやさ」だけは600を超えていた。


「はぁ、すごいんですね」


 雅雄は間抜けな声で言った。雅雄自身の素のステータスは、全て20にも満たない。桁が違いすぎて、いまいちどのくらい凄いのかわからないのだ。雅雄は各種装備で補ってかなりハイレベルのモンスターとも戦えるようになっている。ステータスの差なんて、その程度の話だろう。


「……こっちがメガミのステータスだ。もちろん、全プレイヤー中で総合力はダントツのトップだぞ」


 ちょっとイラッとしたのか、ヤスさんは眉間にしわを寄せながら新たなウインドゥを開く。表示されたメガミのステータスは、ユメ子に比べれば非常に高かった。全てのステータスが300台と非常に高レベルに纏まっている。しかしさすがに、600を超える項目はない。


「……わかっただろう? しかも服部ユメ子は、忍者系統のスキルでさらにスピードを上げられる。もっと強力なスペシャルバーストを使ってくるかもしれない……! 〈ブラック・プリンス〉を使いこなしている君たち以外に、勝てる者はいないのだよ!」


 ヤスさんはくわっと目を見開く。確かに、百倍の時間加速を発動できる〈ブラック・プリンス〉の力なくしてユメ子を捉えることは無理そうだ。あまりの迫力に雅雄は思わず後ずさるが、全く動じずツボミは尋ねた。


「だったら〈ブラック・プリンス〉を量産すればいいんじゃないの?」


「君はわかっていて訊いているだろう? あんな強力な剣を量産することなんて不可能だよ。〈ブラック・プリンス〉も〈ブルー・ヘヴン〉も世界に唯一無二の、君たちだけの勲章だ」


 ヤスさんは苦笑いするが、ツボミはニコリともせず鼻を鳴らすだけだ。ツボミはさらに訊く。


「神様っていうのは無力なんだね……。服部ユメ子がゲームをクリアしちゃったら、神様ってことになるの?」


「いや、彼女を神と認めることはないだろう……。そもそも彼女は、プレイヤーではないからね。彼女は、NPCなんだ……」


 だからヤスさんはユメ子の存在を許すことができない。資格のない者に、ゲームをクリアさせるわけにはいかないのだ。


「NPCね……。ふうん……」


 ツボミがきな臭い何かを感じ取っているのはわかった。しかしそれでも、メガミは救出しなければならないと雅雄は思っている。ツボミを失った雅雄のためにメガミは力を尽くしてくれたのだ。今度は雅雄がメガミを助ける番である。


 そもそも、変にヤスさんに突っかかり続けて関係が悪化するのもよろしくないだろう。ヤスさんは腐っても神様かつGMだし。ゲームのルールを変えられる者と敵対するのはよろしくない。雅雄は決断し、伝えた。


「僕らでメガミは絶対に助けます。だから、ヤスさんは安心して待っていてください」


「服部ユメ子に勝てるのは君たちだけだ……。本当に頼むよ」


 ヤスさんが姿を消す。雅雄はツボミに目配せして、ツボミは力強くうなずいた。


「うん……。彼女に罪はないからね……! ボクらで絶対に神林メガミを助けだそう!」


 雅雄も同じ気持ちだ。雅雄だって、少しは強くなれたのだと実感している。さっそく明日からメガミの捜索を始めよう。雅雄とツボミなら、きっとユメ子にも勝てる。

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