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エピローグ

「……これだけ想定外の事態が起きています。私も誰かと戦う必要があるかもしれない。前回のゲームのときのアバターを返していただけませんか?」


 ノブの依頼を、ヤスさんはすげなく断る。


「それはできないな。君のアバターは基本的に使用する気はない」


 当たり前だ。そこまでヤスさんはノブのことを信用していなかった。自分の寝首を掻くかもしれない相手に、わざわざ力を与える気はない。事務員として、自分の補佐として優秀なので重用してきたが、いくらなんでも怪しい動きが多すぎる。


 今回のことだって、どう考えてもノブが怪しい。なぜ都合よくノブの娘がメガミの体を乗っ取るのだ。間違いなくノブが絡んでいる。ログ記録を調べれば、ノブが手引きをしたのだとはっきりするだろう。何をたくらんでいるのかはわからないが、ともかく証拠さえ掴めれば詰めることができる。


「……そもそも君は前回、私が想定していたのとは違う方法でゲームをクリアしたんだ。君は言うなれば、裏技を使ってしまっているのだよ……。そのアバターの戦闘力なんて、はっきり言って知れている。君を戦場に立たせるわけにはいかない」


 これは前回のゲームクリア時にすでに本人へと伝えていることで、紛れもない事実だった。それでもクリアはクリアなので、ノブは神になった。今回はその職業やスキル自体を消してしまおうかとも思ったが、そのように世界を改編するのは難しいので断念した。


 今回も、ノブとほとんど同じ方法でゲームをクリアしようとしている者たちがいる。それを許すか許さないかは、彼らのこれから次第だ。


「そうですか」


 ノブはあっさり引き下がる。ノブにばかり構ってもいられなかった。メガミがどうなっているか心配で、いてもたってもいられない。魔法少女として戦っていた関係で、メガミには何度も記憶操作を行っている。ゲームオーバーに伴う強制的な記憶消去で障害が出ていなければいいのだが。


「後は頼んだぞ」


 言い残してヤスさんは現世に戻る。ノブはいつものように澄まし顔でヤスさんを見送った。



「……えっ? うわあああっ!」


 目を覚ました雅雄は後ろからツボミに抱きつかれるような姿勢になっていて、思わず声を上げてしまう。慌てて立ち上がろうとしたところで、踏みとどまった。このまま立ち上がれば、ツボミを吹っ飛ばしてしまう。


「ん……? お待たせ!」


 すぐにツボミも意識を取り戻し、立ち上がって大きく伸びをする。部屋を見回して、朗らかにツボミは言った。


「うん、やっぱりここは落ち着くなあ。……雅雄がいるから」


「僕も君がいてくれると落ち着くよ」


 二人は向かい合い、どちらともなく笑顔を見せる。ツボミは雅雄を見つめ、とんでもないことを言い出す。


「キス、しちゃったね! ……こっちでもする?」


「えっ、えええっ!?」


 雅雄は顔を真っ赤にして、みっともなく慌ててしまう。先ほど、オーバーライドの際にキスしてしまったときとは、テンションが違いすぎる。


「フフフッ、またの機会に取っておいた方がよさそうだね!」


 狼狽する雅雄を見て、ツボミはいたずらっぽく笑う。どうやら、からかわれたということらしい。雅雄はいつものように苦笑する。


「……そうだね」


「また機会はいくらでもあるさ。もうボクは、君のことを忘れたりしないんだから……!」


 ツボミは雅雄の手に触れかける。しかしそこで、けたたましくツボミのスマホが鳴り始めた。雅雄のPCもメッセージの受信を知らせて無機質な電子音を出す。仕方なくツボミはスマホの画面に目を落とし、雅雄はPCのデスクトップを覗き込む。


「クエストのお知らせ……?」


 雅雄は目を丸くする。届いていたのは、ユメ子の討伐クエストの告知だった。クエストを受託するだけで一日のログイン可能時間が二倍に増える。さらにユメ子を撃破すると、報酬三百万クォン。これ以上はないであろう破格の条件だ。ゲーム内ではなく現実世界でアプリのメッセージ機能を使って周知するのも異例である。


 ヤスさんは事態を相当重く見ているらしい。メガミは今も魔法少女としてちょくちょく戦っているっぽいので、そこも影響しているのだろう。ヤスさんは仕事に穴が開いて困っているのだ。雅雄たちは好んでプレイヤーと戦うスタイルではないが、メガミのためでもあるし、このクエストを受託するのもいいかもしれない。


 雅雄がそんなことを思っているといきなりヤスさんが虚空から出現する。雅雄もツボミも驚いて身構えるが、ここは現実であってワールド・オーバーライド・オンラインの世界ではない。雅雄もツボミも、剣を抜くことなんてできない。


 いったい何事なのだと雅雄たちが困惑していると、いきなりヤスさんは頭を下げた。


「頼む! 娘を……メガミを助けてやってくれ! メガミの意識が戻らないんだ……!」


 その知らせを聞いて、雅雄とツボミはただただ顔を見合わせるしかなかった。

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