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21 圧倒

 白銀の鎧で身を固めた『薔薇の剣士 Lv.99 ソードマスター』は重戦車のようにゆっくりと正面から進撃を開始する。これまでのようにスピードで攪乱する必要はなかった。『平間ミヤビ Lv.99 オーバーロード』は炎の魔法を乱射して迎撃するが、薔薇の剣士は避ける素振りさえ見せない。


 炎は薔薇の剣士に近づくと、みるみる減衰して無視できるほどに小さくなってしまう。薔薇の剣士は蚊に刺された程度のダメージを受けるだけである。直撃コースの炎だけ、一応〈ブラック・プリンス〉をぶつけて打ち消す。


 身に着けている鎧〈スターリングシルバー〉は、魔法に強い耐性があるのだ。〈スターリングシルバー〉が発する聖なる光は、あらゆる魔法を封じてしまう。


 ミヤビの〈焔の波〉が撃ち出す炎は決して消えずに残り続けるという特徴があるが、〈ブラック・プリンス〉は状態異常の類を一切受け付けない。継続ダメージの心配もなかった。薔薇の剣士はただ、正面から斬りかかるだけでいい。


 そうして小細工なしの殴り合いが始まる。しかし、戦いは最初から一方的なものとなった。二本の剣をLv.99の怪力で振るう薔薇の剣士に対して、ミヤビは防戦一方である。ステータスは同等なのに、全くミヤビは抵抗できない。


「クッ……何よ……! どうしてこうなるのよ!?」


 装備が違いすぎた。お互い数発ずつは入ったが、薔薇の剣士は〈スターリングシルバー〉が固くほとんどダメージを受けない上に、〈ブルー・ヘヴン〉のステータス上昇効果でどんどん強くなる。


 一方のミヤビは悲惨だ。ダメージはまともに喰らうし、せっかく攻撃が当たっても〈ブルー・ヘヴン〉の自動回復効果で回復されてしまう。そのうちミヤビは薔薇の剣士の手数に翻弄されるばかりになる。


「この私が、やられっぱなしで終わるわけないじゃない! 来なさい、ワンちゃんたち!」


 ミヤビの周囲に魔方陣が展開され、『ケルベロス Lv.40』が三体ほど出現する。モンスターを召喚する魔法らしい。数を頼みにする戦法に、以前までの雅雄とツボミなら対応できなかっただろう。


 三つの頭を持つ地獄の番犬であるケルベロスたちは、炎のブレスを吐きながら薔薇の剣士に突進してくるが、薔薇の剣士は全く無視した。ケルベロスのブレスも、鋭い牙も爪も、薔薇の剣士に一切ダメージを与えられない。空中で見えない壁に阻まれたかのように、薔薇の剣士には攻撃が通らないのだ。


 ミヤビと戦っている合間で薔薇の剣士は剣を一閃し、ケルベロスたちを全滅させた。


「「僕らには通用しないよ……!」」


 〈スターリングシルバー〉はLv.70以下の攻撃が全て無効なのだ。かつて薔薇の剣士が戦った赤松たちのマジンゴーレムと同じである。ミヤビがいくら低レベルのモンスターを召喚しても関係ないし、スペシャルバーストを解除して硬直キャンセルを多用した戦い方を選択すれば、その時点で勝負が終わっていた。今のままでは厳しいとわかっていながら、ミヤビはスペシャルバーストを維持し続けるしかない。


 限りなく詰みに近い状態だと思われたが、ミヤビは不敵に笑ってスペシャルバーストを解除した。


「それで勝ったつもり? 私はお兄様の妹よ? 小細工ならいくらでも用意しているわ」


 Lv.58のマジックナイトに戻ったミヤビは、ステータスウインドゥを呼び出して操作する。ミヤビの体に古墳時代を思わせるデザインの、金属を革紐で綴じ合わせて作った鎧が装着された。甲冑はまばゆく光り、ミヤビのステータスが変化する。


「どう、お兄様? この姿なら、お兄様は絶対に勝てないでしょう?」


 『神林メガミ Lv.99 勇者』。ステータス表示はもちろん、姿格好までいつぞやのメガミと瓜二つになっていた。メガミと化したミヤビは黄金の鎧を身に纏い、真っ白な天使の翼を広げている。


 ミヤビは〈ヤタカガミ・アーマー〉を装着して、コピースキルを発動したのだ。宝箱から件の鎧を持ち去っていたのは、ミヤビだったのである。


 しかし時間制限ありとはいえ、スペシャルバースト状態をコピーするとは。凄まじいチート装備である。これは楽に勝たせてもらえそうにはない。だが、同時に負ける気は全くなかった。


「お兄様、終わりの時よ!」


 一分一秒が惜しいのか、ミヤビは剣を振りかざして突っ込んでくる。薔薇の剣士は二刀の剣で迎撃するが、一撃一撃が重い。多分、ステータスだけならかなり負けている。〈ブルー・ヘヴン〉のステータスアップ効果は発動しているはずだが、それでも今のミヤビの方が速く、固く、力が強い。


 だから勝てないかといえば、答えはノーだ。〈ブラック・プリンス〉の時間加速スキルを発動して薔薇の剣士はミヤビの前から姿を消し、側面から斬りかかる。それでも予想通り、勇者メガミとなっているミヤビは反応してきた。


「見えてるわよ、お兄様!」


 振り下ろされる左からの〈ブルー・ヘヴン〉をミヤビは弾く。しかし、続けて振るわれる右の〈ブラック・プリンス〉を防げない。回避しようとして浅く斬りつけられ、バランスを崩したところにもう二、三発入る。そしてミヤビが反撃しようとした瞬間には、再び時間加速スキルを発動して別の角度から斬り込む。


 反応できるのと、対応できるのとは全く別だ。ミヤビは薔薇の剣士のスピードに反応はできていても対応はできなかった。変幻自在の二刀流を高速で叩き込まれて、ミヤビは翻弄されてしまう。剣だけの勝負なら、明らかに薔薇の剣士に分があった。


 しかし本当のメガミなら、事態を打開する力を持っている。そのメガミをコピーしたミヤビも、当然同じ力を持っている。ミヤビは剣を振り、マジックスキルを発動した。剣の切っ先から雷が放たれる。


「喰らいなさい、神の雷を……! 『ゴッド・サンダー』!」


 音速を遙かに超える極太の稲妻が、周囲を埋め尽くした。いくら時間を操って素早く動いても、全く関係ない。回避不可能な必殺の一撃。望むところだ。薔薇の剣士は、真っ向から受け止める。

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