表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/286

13 クエスト

 結局初日は暗闇バット狩りに終始した。スロースタート過ぎる気もしたが、このゲームはRPGでもコントローラーでコマンドを入力する方式とは違う。まずは絶対に負けない相手を選んで戦うときの動き方やダメージを受けたときの痛みに慣れなければならない。適度に反撃してくる暗闇バットは練習台に最適だった。


 おそらく、雅雄の選択は正しかった。経験値やお金を多く落とすモンスターならきっと出現頻度が低いのだろうが、暗闇バットはいくらでもリポップしてくる。塵も積もれば山となる方式で、経験値はともかくお金は貯まった。


 ちなみに次のレベルまでどれくらい経験値が必要なのかは、恐ろしくて確認できていない。暗闇バットは経験値1なので、三十体倒していても経験値はわずか30である。ちょっと厳しいタイトルなら、Lv.2にさえ上がらないだろう。実際、雅雄はLv.1のままである。




 二日目も三時間ほどは暗闇バット狩りをして、雅雄は手応えを感じる。小学生のときにいじめられまくっていたせいだろうか、案外すぐに痛みにも慣れてきた。ストーリーを進めよう。


 とはいえすぐに次の町を目指したりせず、雅雄はクエストを受けることにした。いきなり次の町を目指すのはまだ怖いので、こちらの攻略を選んだのである。


 雅雄は村のよろず屋で装備をととのえる。武器は〈農民の鉈〉、鎧は〈農民の蓑〉だ。魔王を倒す勇者を目指すはずなのに、山に入る農民のような格好になっている。


 〈麦わら帽子〉と〈鍋の蓋〉が役に立つとは思えなかったので、兜と盾は買わなかった。帽子で視界を遮るのはまずいし、鍋の蓋を持つくらいなら右手は空けておいた方がいい(雅雄は左利きである)。


 システム上二刀流が問題ないのは確認済みだ。この世界では二刀流はキ○トしか習得できないユニークスキルというわけではないらしい。ただ身体感覚がそのままなので、よっぽど修練しないと使い物にならない。


 初期装備のナイフを、いざというときに右手で使うという構想だった。利き手でない腕で普段から武器を使いこなすのは無理であるが、防御になら使えるだろう。初期のフェンシングは短剣を防御用に装備して二刀流で戦っていたと聞いたことがある。


 森の中にはキバいのししやきのこブタ、昼オウルなど、暗闇バット以外のモンスターも出現するが、どれも大したことはない。昨日戦ってみたが、充分雅雄でも倒せる。




 雅雄は少し緊張しながら、森の奥へと入っていく。こんな通過点の森で脇道に逸れていく酔狂なプレイヤーは雅雄くらいのものだろう。だから、雅雄だけが見つけることができた。


「た、助けて~! 誰か助けてくんろ~!」


 一人の女の子が、三匹の暗闇バットに追いかけ回されていた。やがて女の子はつまずいてころび、地面にうつぶせに倒れる。雅雄は女の子と暗闇バットの間に入り、鉈を振るって暗闇バットを次々と叩き落とした。


「大丈夫ですか?」


「は~死ぬかと思った~!」


 茶色い頭巾をかぶったエプロン姿の地味目な格好の女の子は、仰向けになって地面で大の字の姿勢をとり、胸を撫で下ろす。NPCとは思えないほど、自然な仕草である。このゲームのNPCは、ほぼ人間と思って間違いない。


「ありがとうごぜぇます。助かりましたわ」


 女の子は立ち上がってパンパンと土を払い、雅雄の顔を覗き込む。


「私はシノっていうんや。麓の村に住んでます。あんた、冒険者かね?」


 格好は村人Aだが、顔を見るとシノは結構かわいい。雅雄はNPC相手だというのに少しドギマギする。


「一応そうですよ」


 雅雄が作り笑いを浮かべて答えると、シノは首を傾げた。


「そうなんかね? 全然そんな風に見えないけども……。なんか頼りないような……」


「そ、そうですか……」


 雅雄は顔をひきつらせる。鉈を装備し蓑をかぶった雅雄は、どこからどう見ても山仕事に赴く百姓だ。体格は貧弱でなよなよしており、確かに頼りない。


「あんた、全然モテへんやろ。顔はちょっとかっこいいのになぁ……」


 NPCにまでそんなことを言われるとは。このゲーム、無駄にリアルだなあ。


「と、ところで君はどうしてこんなところに?」


 雅雄は話を進めることにした。雅雄自身のことについてダメ出しが続くと、ガラスのハートが砕けてしまいそうである。


「そ、そうやった! お父さんを捜さないと! お父さん、森にキノコを採りに入ったまま、ずっと帰ってきてないんです!」


 シノの左上方にウィンドウがポップした。


『クエスト:森の迷い人 受託条件:Lv.5以下 クリア条件:クエストボスを倒し、シノのお父さんを無事連れ帰ること 報酬:〈身代わりのお守り〉』


「……よければ僕が探してきましょうか?」


 雅雄はシノに向かって笑って見せる。クエストボスというのは引っかかるが、報酬が魅力的すぎる。ネーミングからして、一回は死亡を無効にしてくれるアイテムではないだろうか。ゲットできると大きなアドバンテージになる。


「あんたが? でもなんか頼りないからねぇ……」


 シノは口元に指を当てて思案するが、やがて決断した。


「よっし! じゃあ、一緒にお父さん、探してくれるかね? あんた一人に任せるのは不安やから、私もついてくよ!」


 『シノ Lv.1 村人』が仲間に加わった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ