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5 何もかもが突然

「ねぇ、雅雄君! これ、やってみない?」


 雅雄はメガミに手を引かれ、アクション系やらシューティング系やら、様々なゲームを協力プレイで遊んでいく。何をやっても雅雄はへたくそで、メガミはやたらとうまかった。本当に久しぶりなのかと疑いたくなるほどだ。


 どのゲームでも、協力プレイならいいところまで行ってしまう。雅雄がミスを連発しても、待っていたかのようにメガミはフォローする。


 未知のステージを体験しまくっているのに、ちっとも楽しくない。雅雄がどう動こうがメガミがなんとかしてしまうので、自分で遊んでいる気がしないのだ。メガミの掌で踊らされて、むしろ無力感を感じる。


(まあ、メガミが楽しいならいいか……)


 多分、メガミは雅雄を接待しようとしているのだろうけど、雅雄がメガミを接待している気分になっていた。そんなことには露ほども気付かず、メガミは無邪気にはしゃぎ続ける。どうして変なところで抜けているのだ。


「あ、そっちに敵が行ったよ! うわ~、こっちにも来ちゃった! そうそう雅雄君、左、左!」


 メガミの言うとおりにすると大概うまくいき、メガミは喜ぶ。なんだか作業のようになってきた。ちょっと前にツボミと一緒に来たときは、すごく楽しかったのに。雅雄は無駄に沈み込むばかりだ。


 ひとしきり数種類のアーケードゲームで遊んだ後、メガミはクレーンゲームの方に目をやる。


「あの子、かわいい! う~ん、とれるかな~!」


 メガミはショーウインドゥに展示されたトランペットを眺める黒人少年のように、クレーンゲームの筐体に貼り付いてクマのぬいぐるみに目を輝かせる。……雅雄にとれということだろうか。あまり自信はないし、気も進まない。しかし、やりたくないなんてとても言える雰囲気ではなかった。


 空気を読んで、雅雄は申し出る。言いながら、ため息が漏れそうになる。


「僕がチャレンジしてみるよ」


「ほんと!? 期待してるよ~!」


 ぱぁっと笑顔になるメガミを横目に、雅雄はコインを投入する。正直、この手のゲームは雅雄が最も不得意とするものだ。メガミに見られているというプレッシャーもある。自然と手が震えて、目が泳ぐ。


 一回目。ボタンを押すのが遅すぎて、クレーンはお目当てのぬいぐるみを通過してしまう。……距離感はわかったということにしよう。切り替えて再チャレンジだ。


 二回目は早すぎた。虚しくクレーンは空を切り、何も掴まないまま取り出し口上部の穴でアームを開く。全然、掠りもしない。


「もうちょっとだよ雅雄君、がんばって!」


 メガミはそう言うが、タイミングはよくわからなかった。三回目も空振りし、四回目でようやく少しだけ当たる。しかし五回目はまたしても空振り。


 うまい人ならちょっとずつ移動させてとりやすい位置に追い込むのだろうけど、雅雄にはそもそもとりやすい位置というのがどこかわからない。あてずっぽうでアームを動かしているのと同じだ。とれるわけがない。


 六回目、奇跡的にドンピシャのタイミングでボタンを押すことに成功した。不安定ながら、アームがぬいぐるみの頭に引っかかる。ゆらゆらしながら、ぬいぐるみは宙に持ち上がった。頼む! そのままうまくいってくれ!


 しかし無情にもアームが動き出したところで、ぬいぐるみはぽとりと落ちてしまう。結果を見れば、ぬいぐるみは数センチ出口に近づいただけだ。全くとれる気がしない。雅雄はがっくりとうなだれる。


「さすが雅雄君! なかなかいい位置に動かしたね! ちょっと貸してもらっていいかな~!」


 ぬいぐるみはほとんど動いていないにもかかわらずそんなことを言って、メガミはコインを入れる。メガミは一発でぬいぐるみをとってしまい、胸に抱きしめながら子猫のように笑う。


「ありがとう! 雅雄君のおかげだよ!」


「ハハハ……」


 いや、絶対僕はいらなかったよね……? ツッコミを入れそうになるのをすんでのところで耐えて、雅雄はあいまいに笑ってごまかした。笑顔が引きつっていないかだけが気になる。




 気付けば外は薄暗くなっていた。かなり派手に寄り道をしてしまったようだ。雅雄とメガミは、並んで帰り道を急ぐ。ゲーセンから少し行ったところの交差点で、二人は別れることになっていた。


「今日はありがとう! とっても楽しかったよ~! 夏休みに入ったら忙しくなる予定だから、よかった……」


 人気のない交差点で、メガミはお礼を言ってくる。人通りどころか夕方なのに車も通っていなかった。ジーという虫の鳴き声だけが聞こえる。


「そうなんだ」


「うん。夏休み明けすぐのオープンスクールで生徒会が演劇をやる予定なの! その準備しなくちゃいけないから! 雅雄君に見せられないのが残念だよ~!」


 多分、中等部向けの入試説明会のことだろう。一瞬、雅雄が小学生たちに混じって劇を観ている光景が頭をよぎった。それはさすがに勘弁してほしい。


 さて、そろそろ帰ろう。交差点から雅雄は去ろうとする。


「今日はありがとう。また明日ね」


「ま、雅雄君! ちょっと待って!」


「ん? 何?」


「えっと、その……」


 雅雄は引き留められて立ち止まった。メガミは何がどうしたのか、顔を真っ赤にしてもじもじする。トイレにでも行きたいのだろうか。


 雅雄が首を捻っていると、メガミは突然雅雄の手を掴んできた。雅雄はびっくりするが、振り払うわけにもいかない。メガミは雅雄の手を掴んだまま、半分ヤケクソのように叫んだ。


「雅雄君! 好きです! 私と付き合ってください!」

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