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4 わけがわからない展開

 翌日、雅雄はいつも通りの時間に学校に行く。とにかく今日は、自分のペースを守ることだけを考えよう。普段通りに過ごせば過ごすほど寂しさで胸が痛いが、乗り越えなければならない。


 トラブルになるのは間違いないので、ツボミには近づかない。気になって仕方がないし、何かの拍子で記憶が戻らないかと淡い期待も抱いてしまうが、雅雄がすがるべきなのはそこではないはずだ。


 ツボミの変調には周囲も気付き始めていて、ちょっとした騒ぎになっていた。雅雄がフラれたという解釈をされているので、チラチラと観察しながらも雅雄に話し掛けてくる者はいない。これが腫れ物扱いというやつか。まあ、気にする必要はないだろう。


 本当に、以前の雅雄に戻ってしまっただけだ。休み時間は一人でゲームをするか、寝たふりをするかでやり過ごす。昼休みはどうしようか。さすがに教室にはいられない。便所飯でいいだろうか。


 とりあえず食糧を調達するため雅雄は購買部に向かうが、途中で意外にもメガミに声を掛けられる。


「やあ、雅雄君! お昼買いに行ってるの?」


「え……? うん」


 急にどうしたのだろうと思いながら、雅雄は素直にうなずく。するとメガミは、いきなり雅雄の袖を握ってきた。


「じゃあ、一緒に食べよ!」




 驚きながらも特に断る理由がなかったので、雅雄はメガミについていく。行き先は昨日と同様生徒会室だった。古びた長机に並んで掛けて、メガミは弁当を広げる。


「雅雄君が空いててよかったよ~! 実はお弁当、作り過ぎちゃったの!」


「そうなんだ……」


 広げられた弁当箱を見て雅雄はぎょっとする。三段の大きな重箱に、小綺麗な料理が所狭しと並べられている。軽く三、四人前はありそうで、かなりの量だ。絶対こんなに食べられない。


「雅雄君、昨日お昼食べてなかったでしょ? だからお腹空いてると思って、一杯作ってきたの!」

「そ、そうなんだ……」


 メガミはニコニコしながら言うが、雅雄は顔を引きつらせる。昨日は夕食を多めに食べたため、今日特別に空腹であるということはなかった。というか、作りすぎたから雅雄が誘われたのではなかったのか。雅雄のためにこれほどの量を用意したなら、話が丸っきり逆である。


「さぁ、遠慮せずに食べて!」


 メガミに促され、雅雄はおずおずと料理に箸をつける。雅雄の子ども舌に合わせてくれているのだろう、唐揚げやエビフライなど洋風っぽいものが中心だ。弁当なので冷えてはいるけれど、サクサクしていて非常においしい。……まるで、店で買ってきた弁当のようだ。


(まさか、本当に買ってきたのを詰め替えたわけじゃないよね?)


 雅雄は一瞬疑うが、メガミは自分で作ったと言っている。メガミが嘘をつくとも思えないので、これらは全てメガミが作ったものだろう。感じ的に、冷凍食品でもない。出来が良すぎて既製品に思えるだけだ。


 最初は普通に箸が進んでいた雅雄だが、だんだん苦しくなってくる。単純に量が多すぎるし、どうしてもスーパーで売っている弁当を食べている気分になってしまうのだ。正直、不格好でも「家庭の味」を感じさせてくれるツボミの料理の方がおいしい。


 最終的に、雅雄は1/3以上を残してしまった。せっかく作ってくれたのに、メガミに申し訳ない。




 普段通りの学校生活をこなし、やがて終業のチャイムが鳴る。ちなみに休み時間中もちょくちょくメガミが話し掛けてきた。多分、気を遣ってくれているのだろう。


 ホームルームの後、部活にも委員会にも入っていない雅雄はさっさと帰ろうとする。しかし、教室を出たところでメガミが追いかけてきた。


「雅雄君、帰るの? 私も今日は何もないから、一緒に帰らない?」


「うん、まあ、いいけど……」


 断る理由もないので雅雄は承諾するが、いったいメガミは何を考えているのだろう。最近はツボミと一緒に帰っていたのでご無沙汰だが、思い返せば以前はたまたま帰りに一緒になることがあれば連れ立って帰宅していた。しかし、あくまでたまたまの場合だけである。こんな風にメガミから声を掛けられたことなど一度もない。


「……雅雄君はGOWの新作、やってる? 私、あれに結構ハマってて……」


「う~ん、今のところ手を出してはいないかな」


 他愛のない会話をしつつ、並んで帰り道を歩く。何か意図を持って接近しているのは間違いないが、メガミの目的がわからない。


 雅雄がいぶかしんでいると、大通りに出たあたりでメガミは突然雅雄の手を握ってくる。


「雅雄君! 今日は時間あるかな?」


「え、うん……」


「じゃあ、向こうのゲーセン行ってみない? 最近私、あんまり行けてなくてさ。久しぶりに行ってみたいなぁ~って」


 期待に目を輝かせてメガミは雅雄の顔を見上げる。いったい何をたくらんでいるのだろう。皆目見当がつかなくて不気味だ。しかしこんな顔をされていると、断るのも気が引ける。内心でますます首を傾げながら、雅雄は了承した。


「わかった、行こう」


「ありがとう! 嬉しい!」


 メガミは雅雄の手を引いてゲームセンターの方に歩き出す。本当に、いったい何を考えているのだろうか。

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