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12 ゲームスタート!

 翌日、雅雄のPCにメールでヤスさんからとあるサイトのURLが送られてきた。URLをクリックするとゲームのダウンロードサイトに飛ばされる。


「ワールド・オーバーライド・オンライン……?」


 雅雄は一人ぼっちの自室で、ゲームのタイトルを読み上げる。雅雄の予想通り、MMORPGのようだ。


「普通のPCゲーっぽいなあ。神様ならVRゲームとか作れないのかな?」


 文句を言いつつさっそく雅雄はダウンロードして、起動する。その瞬間に周囲の景色がぐにゃりと歪み、視界が真っ白になっていく。




 気付けば雅雄は、平原のど真ん中に立っていた。


「ここは……!」


 雅雄は周囲を見回す。向こうの方に村と思しき小集落があり、逆方向に進めば森に入れるようになっていた。村に建っているのは掘っ立て小屋とレンガ造りの建物ばかりで、中世風ファンタジーを思わせる。

 雅雄の服装も変化していた。白い無地の簡素な上着に、ズボン。腰には小さなナイフを差している。初期装備なのでこんなものなのだろう。


「ヤスさん、やるじゃないか……!」


 まさか本当に全感覚型VRMMOだったとは。一瞬、異世界に転生したのかと思った。それくらいのリアル感だ。こんなゲームをプレイできるというだけで、参加した価値があるというものである。


「電子的にゲームの世界を作っているわけではないのだけれどもね。そのアバターは正しく君の分身なんだ。ここはゲームであってゲームでない、リアルな空間なのだよ」


「凄いですね……」


 神様たるヤスさんが雅雄の前に現れ、どこかで聞いたようなフレーズを使って教えてくれる。神の力で雅雄の分身を作って魂を移し、ゲーム的な法則に支配されている異世界に飛ばしているという状況なのだった。草の臭いや風の感覚も、いつも通りに感じられる。逆にいえば何のフィルターもなしに痛覚も味わうことになるが、そこは慣れるしかない。ちなみに本体は元の世界で眠った状態になっている。


「手で画面を降ろす操作をするとステータスウインドゥが開くから、やってみなさい」


 雅雄はヤスさんに言われた通り、目の前のブラインドを降ろすような仕草をする。『平間雅雄 LV.1 無職』に始まるステータスウインドゥが展開された。


「下にチュートリアルがあるから、それを読んでからプレイしなさい。悪いが他の参加者にも説明しなければならないから、もう行かせてもらうよ。何かあったらGMコールを使ってくれ」


 そう言い残してヤスさんは姿を消した。雅雄はステータスウインドゥの下部にあるチュートリアルのボタンを押す。スマホやタブレットを扱う要領だ。チュートリアル画面が開き、イントロダクションが表示される。


『ようこそ! ワールド・オーバーライド・オンラインの世界へ! この世界は百年前に現れた魔王により侵略を受け……』


 テンプレ通り、勇者が魔王を倒すゲームのようだ。雅雄はイントロダクションを読み飛ばし、システムの説明をざっと読む。


 戦闘そのものは生身で普通に動くのとほぼ同じ。道具、装備といった概念も一般的なRPGと何ら変わりない。セーブできるのが町や村のセーブポイントだけというのも、まあ普通だろう。このゲームのことを関係者以外に口外してはならないというルールもあった。


 さらには簡単にプレイヤーが諦めてしまわないためだろう、こちらでお金を稼ぐたびにリアルマネーも振り込まれる。小遣い以上の額にはならないので、生活費として両親から普通の中学生以上のお金をもらっている雅雄にはどうでもいいことだが、他のプレイヤーは必死になるだろう。


 重要なのは二点だ。まず、一日90分しかプレイできないという点。参加者は学生中心らしいので、学校に行かず引き籠もってゲームをやる者が現れるのを防ぐための措置だろう。90分は正直短いと思えるが、そこは神様が作ったゲームだ。この世界では時間の流れが五倍速い。実質は7時間半プレイできるので、充分である。


 なおその日の制限時間を超えてしまっても強制ログアウトにはならず、超過時間は翌日の持ち時間から減らされる。超過時間が90分を超えれば次の日はログインできない。そして、あまりに長い時間超過だとペナルティで経験値や持ち金を減らされる。


 充分とはいえ持ち時間は平等だ。時間の使い方が勝負を決めることになるだろう。


「あんまり時間を掛けてるとみんなに置いてかれちゃうなあ……。僕は限界までレベルアップする派なんだけど。でも……」


 雅雄は二点目の重要ルールを見て渋い顔をする。これも、当然あると予想していたルールだった。けれども時間制限との組み合わせがきつすぎる。


「やっぱ、死亡=ゲームオーバーだね……。死なない程度に急ぐしかないか……」


 のんびりとレベルアップしていると置いてけぼりにされるが、死んだら一巻の終わり。バランスが難しい。ついでにゲームオーバーになるとゲームに関する記憶を一切失う。


 ともかく、やるしかないだろう。立ち止まっている時間がもったいない。雅雄はとりあえず村を目指して歩き出す。




 【名もなき村】でNPCに話しかけて情報収集した結果、森を抜ければ次の町に行くことができるらしい。どう話しかけても同じ答えしか返さないNPCは結構不気味だった。


 NPCも普段はプレイヤーと変わらず自律的に行動しているが、プレイヤーと話すときは拘束力が働くのだった。それをNPCは訊きたいことを強制的に聞き出すプレイヤーのスキルだと思っている。なので何の役割も与えられていないNPCとは雑談することもできる。まあ、人見知りの雅雄はNPC相手でも心を開くことはないだろうけど。


 【名もなき村】自体には重要っぽいポイントは何もない。草葺きの民家が建ち並ぶだけだ。唯一、領主の館だけはレンガ造りだったが、家紋と思われる黒薔薇の紋章が刻み込まれた扉には鍵が掛かっていて、誰もいなかった。村人に訊くと、領主は各地を旅する騎士で今は不在ということだ。後でイベントが起きるのかもしれないが、今は関係なさそうである。


 森にはモンスターが出現する。いきなり森を通り抜けようというのは無謀なので、まず雅雄は森の入口付近でレベルアップと資金調達をすることにした。最初から持っていたお金で買えるだけ回復用のポーションを買った後、探索開始だ。


 すぐに雅雄はモンスターに遭遇する。暗い森の中を、太ったコウモリがヨタヨタと飛んでいたのだ。


「『暗闇バット Lv.1』か……。一匹だけだし、狙い目だな」


 コウモリの右下に表示された種族名、レベルを見て雅雄は戦ってみることに決める。この相手に勝てないとすれば、何をやっても無理だろう。


「うわああああっ!」


 奇声を上げながら雅雄は暗闇バットに飛びかかり、ナイフで斬りつける。ナイフの入り方が浅かったようで、一撃では倒せない。暗闇バットはフラフラと旋回して、雅雄の腕に噛みつく。


「あ痛たたたたた!」


 なんだこいつ! 近所の犬に噛まれたときより痛い! 死んでしまう!


 雅雄は悶絶しながら暗闇バットを突き放そうとするが、牙がしっかりと刺さっていて抜ける気配がない。雅雄は無我夢中で暗闇バットにナイフを何度も突き刺し、暗闇バットを倒す。痛いのは痛かったが、何とかなった。存外に雅雄は痛みになれているのかもしれない。小学生の頃にいじめられすぎて。


 暗闇バットは光のエフェクトとともに消え、取得した経験値とお金の額がポップしたリザルトウィンドウに表示される。


「経験値1にお金が3クォンか……。少ないなぁ……」


 プラス、「コウモリの毛皮」なる素材を手に入れた。興奮で荒い息をつきながら、雅雄はつぶやく。まぁ、こんなものなのかもしれない。噛みつかれて酷く痛い思いをしたが、冷静になって体力ゲージを見ればHP20のところで3しか減っていない。痛覚とダメージ量は連動していないらしい。相手が弱すぎたのだ。


「だからって無理するとゲームオーバーだ……。今は慎重にいこう」


 もう少しがんばってレベルを上げれば、暗闇バット程度なら一瞬で殺せるようになるだろう。地道に行こう。

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