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10 神聖鉱山

 客間でソファーに掛けた雅雄とツボミに、長船君は突然頭を下げた。


「単刀直入にお願いするぜ。俺と一緒にダンジョンに潜ってくれ!」


 突然の依頼に、雅雄とツボミは顔を見合わせるばかりだ。生産職の長船君がダンジョンに行ってどうするというのか。何か目的があるにしても、低レベルで特殊すぎる雅雄たちより普通のパーティーに護衛を依頼した方がいい。


「いったいどういうことなの……?」


 雅雄は尋ね、長船君は説明してくれる。


「おまえが預けてくれた〈ヒヒイロノカネ〉だが……今の俺じゃ全然だめだ。全く加工できない。いろいろ試してはみたんだが……」


 〈ヒヒイロノカネ〉は固すぎて、長船君のハンマーを一切受け付けないということだ。今、長船君が持っている道具では残念ながら歯が立たない。長船君の技術以前に、もっとハイランクな道具が必要なのである。


「客から聞いた話だが、この間のデス・アンデッド城陥落で【名もなき村】方面で新しいダンジョンが解放されたんだ。多分、そこなら〈ヒヒイロノカネ〉を加工できるハンマーが見つかると思う」


 そのダンジョンの名は神聖鉱山。ずばり、ダンジョンの最奥に神が作ったハンマーが眠っているという噂だった。


「だが、神聖鉱山に入れるのは生産職に就いているかLv.20以下のプレイヤーだけだ。情けないが、俺に一人でダンジョンに潜る勇気はない……!」


「だからボクらに護衛してほしいってわけか……。雅雄、どうする?」


 ツボミに訊かれ、あっさりと雅雄は答える。


「いいんじゃない? 受けて」


 デス・アンデッド城陥落で新しい地域に行けるようにはなったが、ますますハイレベルなステージになったせいでみんな苦戦していて全く情報が集まっていない。雅雄たちも強くなっている実感はあるが、今踏み込んでいくのは危険すぎる。攻略情報が集まるまで、長船君に付き合うというのは悪くないだろう。


「すまねえ。恩に着る。鍛冶師のプライドに賭けて、絶対にいい装備を作ってみせるからな。ひょっとしたらレベル制限ありの装備になるかもしれないが……」


 長船君が言うには、ここまでハイレベルな素材だと何らかの制限なしに装備できる武装にはならない可能性が高いということだった。〈ブルー・ヘヴン〉や〈ブラック・プリンス〉が上級職でないと装備できないようになっているのと同じだ。


「強化に強化を重ねて制限をはずすこともできるかもしれないが、多分素直に強化した方がいい装備になると思うぜ」


「……それなら防具がいいかなあ。盾じゃなくて、鎧」


 長船君の解説を聞いて、雅雄は言う。頭に浮かんでいるのは先日のスケルトンキングとの一戦だ。相手がスキルを使用していたとはいえ、軽く喰らっただけで薔薇の剣士は瀕死に追い詰められていた。ますます敵が強くなるこれから先、スペシャルバースト状態で装備できる防具がないと、何もできないまま即死させられてしまうというケースが出てきそうだ。


「任せてくれ。最強ランクの防具を作ってやるよ」


 長船君は笑顔でドンと胸を叩く。これは期待できそうだ。




 さっそく雅雄たちは【名もなき村】に移動することにする。山口さんの方は店番もあるので残ることになった。「彼をよろしくお願いします」と深々と頭を下げられ、雅雄とツボミは恐縮しきりである。


 長船君も独力で【名もなき村】までは行ったことがあるので、セーブポイントから転移することが可能だ。一気に【名もなき村】に一同は転移した。


 掘っ立て小屋だらけの小さな村では、外の畑で住民たちが野良仕事をしていた。相変わらずのどかな村である。


 しばらくのんびりとした風景を眺めていると、一人の女の子が手を振りながら雅雄たちの方に走ってきた。


「雅雄~! ツボミ~! 久しぶり~!」


「シノ! こっちこそ久しぶり!」


 たまにクエストを手伝ってくれるNPCのシノだった。シノはニコニコと笑顔を浮かべて、教えてくれる。


「ええときに来たね! 村はずれの橋の修理が終わって、南の方に行けるようになったんよ!」


「へぇ、神聖鉱山もそっちにあるの?」


 雅雄が訊くと、シノはうなずく。


「うん、神聖鉱山とか精霊の泉とか、死者の谷は南にあるんよ!」


「死者の谷……?」


 不穏なネーミングに雅雄は反応する。いったいどんなダンジョンなのだ。


「〈復活の宝石〉っていう死者を蘇らせる秘具が眠ってるっていう噂やね。探しに行って戻ってきた人はおらんけどね」


 軽くホラーな話だが、要するに死亡したプレイヤーを生き返らせるアイテムがゲットできるということのようだ。死亡=ゲームオーバーのこの世界では、貴重すぎるアイテムである。


(でもまあ、関係ないよね……)


 単純に死ななければいいだけの話だ。入手するのは相当困難なようなので、手を出さない方がいいだろう。


「鍛冶師の人を連れてるんやね。今回は神聖鉱山に行くん?」


「うん。よかったら一緒に来てくれる?」


「ご一緒するんよ! ちょうど神聖鉱山でとれる秘石のストックが尽きかけてるところやから!」


 秘石から万病に効く薬を作れるということで、村人たちもたまに神聖鉱山には行っているということだった。そしてシノが加わった一行は、いよいよ神聖鉱山を目指す。

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