2 ボスとの遭遇
エレベーターはそれぞれ「一人用」「二人用」「三人用」「四人用」となっていた。なんと、一パーティー五人フルメンバーが乗れるエレベーターはない。
「これ、人数少ないやつは絶対に罠よね」
「うん、私もそう思う」
火綱は嘆息し、メガミは同意する。普通のパーティーは必ず別れなければならないということだ。幸いといっていいのか、雅雄とツボミは二人で、メガミのパーティーは四人である。ちょうど乗ることができるが、何も考えずに乗っていいのだろうか。
ちなみにどこを捜しても階段の類はなかった。アニメか何かのようにエレベーターの天井を壊してロープを昇るというのも非現実的だし、多分無意味である。
「一人用に順番に乗るのが一番早いでござる! ニンニン!」
無邪気な笑みを浮かべてユメ子が発言する。普通に考えれば、人数が少ない方に乗るほど高いところまで行けるのだろう。だが、その分いきなり厳しいステージに少人数で放り出されることになる。一人用と二人用はメガミと火綱の予測に従えば罠の可能性が高い。ユメ子はそれでも関係ないと思っている。無茶苦茶に強気だ。
「……私たちは四人用で行こう! 雅雄君も、三人用がいいと思うよ~!」
しばらくして、メガミは決断した。まあ、ばらけるリスクを冒さないというのは順当だろう。ボス部屋に行き着くまでに死傷者を出すのはまずい。
「雅雄、どうする?」
ツボミも判断しかねているようで、尋ねてくる。雅雄は決めた。
「……僕らは二人用で行こう」
メガミの勧めを雅雄は断ることにした。この先、戦闘が避けられないなら雅雄たちはオーバーライドを使うしかない。少しでも消耗を避けて、力を温存しておくべきだ。
「いいんだね?」
「……うん!」
ツボミは念押しの確認をとり、雅雄は真剣な顔でうなずいた。言ってしまってから体が震え、緊張で心臓の動悸が速くなる。最短距離で頂上を目指すということは、今までのように装備やアイテムだけ拾って帰るという展開にならない。ボスと戦うということと同義だ。
「雅雄君がそう決めたなら、口は挟まないよ~! 頂上で会おうね!」
メガミはそう言い残し、仲間を引き連れて四人用エレベーターに乗る。ツボミはメガミに聞こえないようにつぶやく。
「そのときには、ボクらでボスを倒しちゃってるからね……!」
その意気で行くしかない。メガミたちが四人用エレベーターに乗ってしまったのを確認して、雅雄は言った。
「僕らも行こう!」
体の震えを武者震いだと自分に言い聞かせながら、雅雄は歩き出す。ツボミも続いた。雅雄とツボミは二人用エレベーターに乗り込んだ。
不気味なほどにエレベーターはずんずん加速して、やがて止まる。自動で扉が開き、雅雄とツボミは外に出た。
「ほう、いきなり我が玉座に乗り込んでくるとは勇ましいことよ」
雅雄は声を掛けられ唖然とする。黄金の玉座に腰掛けた身長二メートルほどのボロきれを纏い、王冠を被ったガイコツの化け物に雅雄とツボミは見下ろされていた。『スケルトンキング Lv.80』。雅雄たちが知る限り、最も高レベルなモンスターだ。
(ああ、そうか……。やっぱり二人用と一人用は罠だったんだ……!)
メガミや火綱の読み通りだったのだ。雅雄は瞬時に理解する。二人用エレベーターはボス部屋に直行。多分、一人用に乗ったらこの玉座の間さえ通過して屋上にでも放り出されるのではないだろうか。五人パーティーから二人だけでボスに挑戦となれば、かなり絶望的だ。
「さて、蛮勇の代償は重いぞ? 死をもって清算してもらおうか」
スケルトンキングは玉座の傍らに立てかけてあった巨大な剣を握りながら立ち上がる。柄が骨でできた、おぞましい代物だ。刀身は包丁か何かのように無骨で、禍々しい。あんなもので斬られたらひとたまりもない。
「……雅雄!」
「うん!」
ツボミの声で雅雄は我に返る。普通のパーティーだったら終わっているのかもしれないが、雅雄とツボミは元々二人パーティーだ。やることは変わらない。どうせボスには挑戦するつもりだった。道中にモンスターと戦うことなくボス部屋に到着したということだ。むしろラッキーである。
雅雄とツボミはしっかりと手をつないだ。ツボミの熱量が雅雄に移って、雅雄の闘志に火がつく。雅雄が望むものは何だったのか。ツボミは何を望んでいたのか。心の握力ではっきりと掴む。
青薔薇の剣〈ブルー・ヘヴン〉と黒薔薇の剣〈ブラック・プリンス〉を交差させ、雅雄とツボミは一つになる。
「今、青薔薇の奇跡はこの手の中に!」「そして、黒薔薇の永遠は二人を包む!」
「「奇跡の願いは永遠となり、運命を切り開く! 目覚めよ、薔薇の剣士!」」
雅雄とツボミを中心にオーバーライドを示す青と黒のエフェクトが竜巻状に発生した。スケルトンキングは構わず斬りかかってきたが、エフェクトにより押し返される。Lv.80のダンジョンボス兼クエストボスといえど、二人の聖域には入れない。
エフェクトが止んだとき、そこには二本の剣を携えた美麗なる剣士が顕現していた。『薔薇の剣士 Lv.40 デューク』。もはや雅雄とツボミの基本戦闘形態といっていいだろう。
「「君を倒して、ボクらは願いを手に入れる!」」
薔薇の剣士は敢然とスケルトンキングに斬りかかる。ボスに真っ向から戦いを挑んだことなんて、当然雅雄とツボミにはない。こうして、雅雄とツボミの初めてのボス戦は始まった。




