35 Lv.70
「ハッ……! レベルが上がったからってどうってことはねぇよ! 中身は弱虫の雅雄のままだ!」
赤松は嘲るように言い放つが、薔薇の剣士は動じない。冷ややかに言い返す。
「「君がそう思いたいだけだろう? 試してみればいい」」
『薔薇の剣士 Lv.70 ロード』は『マジンゴーレム Lv.70』に猛然と斬りかかる。マジンゴーレムは腕を突き出して迎え撃つ。剣と巨大な拳が衝突するが、揺らいだのはマジンゴーレムの方だった。
「何ッ!?」
赤松がうめき声を上げる。通常攻撃の一撃で、浅くではあるが頑丈なはずのマジンゴーレムの装甲に傷が入った。HPゲージもそれなりに削れているだろう。この一撃で赤松は悟ったはずだ。この小さな敵と普通に殴り合えば負ける、と。
薔薇の剣士はマジンゴーレムの懐に飛び込み、何度か剣を打ち込む。赤松たちが頼みにしている装甲が、順調に削られていく。
「赤松君、落ち着いてください! スキルを使われる前に倒してしまえばいいんです!」
青木が叫ぶ。赤松は精神を立て直し、反撃する。
「そうだな……! レベルが上がっても関係ねえ! どうせてめぇらなんか、一撃入ったら終わりだ!」
マジンゴーレムは今一度巨大な剣を抜いてぶん回す。それだけで旋風が巻き起こり、周囲の草木が吹き飛ぶ。薔薇の剣士は軽業師のように跳躍して避けた。レベルが上がって、当然スピードも上がっている。
間髪入れず赤松は左腕を分離して薔薇の剣士に突っ込ませる。着地を狙おうという魂胆だが、Lv.70となった薔薇の剣士には通じない。剣の一薙ぎでマジンビーグル3号は弾き飛ばされ、体当たりは失敗する。
「これで終わりだと思うなよ!」
赤松は合体を解いて全てのマジンビーグルを突撃させるという思い切った策に出た。五台のマジンビーグルは四方八方からタイヤをうならせて薔薇の剣士の元に殺到する。
薔薇の剣士は泰然と構えるだけだ。そして、体当たりしてくるマジンビーグルを両手の剣で迎撃する。
マジンビーグルは、薔薇の剣士の体に触れることさえできなかった。片っ端から剣の一振りを受けて吹っ飛ばされ、強制的に進路変更させられて明後日の方向に走っていくのみだ。仕方なく赤松たちは再びマジンゴーレムに再合体し、剣を抜いて薔薇の剣士を牽制する。
「クソッ……! パワーが無茶苦茶に上がってやがる……! どうして雅雄ごときにこの俺が……! 女装して泣いてるだけのキ○ガイに……! 俺は変わったはずなのに……!」
不利とわかっていて正面からの殴り合いに挑まざるをえなくなった赤松は嘆く。薔薇の剣士の中で混じり合った雅雄とツボミは言った。
「「ボクには君が変わったようには見えないよ。君は過去ばかりを見て、人の顔色をうかがっているだけだ」」
「知ったようなことを言うんじゃね~よ!」
図星だったのだろう、赤松は一瞬で沸点に達する。慌てて青木が止めようと声を上げた。
「赤松君、いけません! 勝ち目がないなら引きましょう! バラバラになって逃げれば、追ってこられないはずです!」
青木は撤退を進言するが、マジンゴーレムはすでに薔薇の剣士を薙ぎ倒そうと動き始めていた。まあ、合体を解いて逃げようとしても薔薇の剣士が阻止に動くだけの話ではあるが。時間加速を連続使用すれば簡単に全滅させられる。
「無理だ! こいつをぶっ倒すしかない!」
逃げられないとわかっている赤松はマジンゴーレムを動かし、果敢に掴みかかろうとする。
「「同感だよ、ボクらも君らを全滅させるしかない……!」」
赤松は何があっても雅雄の存在を許さない。自分に恥をかかせたツボミに対しても同じだ。赤松がワールド・オーバーライド・オンラインに参加している限り、雅雄とツボミは身の安全を脅かされ続ける。ならば、どちらかが消えるまで殺し合うしかない。
雅雄とツボミが望んだわけではない。雅雄から全てを奪おうという赤松たちの選択だった。とするなら、赤松たちが薔薇の剣士に全てを奪われるのだとしても文句は言えないはずだ。
「「悪いけど、この世界から退場してもらうよ……!!」」
〈ブラック・プリンス〉による時間加速スキルが発動する。赤松が反応できないスピードで薔薇の剣士はマジンゴーレムの足元に突進し、勢いそのままに『チャージスラスト』を打ち込む。右足に激突した薔薇の剣士の一撃により、マジンゴーレムの巨体が揺らいだ。攻めるのは足元だけでいい。ダルマ落としの要領で、巨大ロボットは攻略できる。
薔薇の剣士は間髪入れず硬直をキャンセルして、フルスイングで『捨て身スラッシュ』をぶちかます。この時点で時間加速は終わっていた。一発目の勢いそのままにもう片方の手でも『捨て身スラッシュ』を撃ち込んだ。強烈な二連撃で右足が完全に破壊され、バラバラになって吹き飛ぶ。
「か、勝てない……! みんな、逃げるでござ……」
何やらよくわからない部品に混じって、生身の緑沢が出てくる。薔薇の剣士が見逃すはずもなく、一刀のもとに斬り捨てる。緑沢は悲鳴を上げることさえできず、死亡した。
「「全員逃がさないよ……!」」
勝負は一方的になりつつあった。誰も逃げられないし、逃がさない。




