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34 新たなるオーバーライド

「ツボミ、生きてる……?」


「どうにかね……!」


 雅雄とツボミはどうにか剣を杖にして立ち上がる。二人ともHPはレッドゾーンに突入していて、残り1。二人の命は風前の灯火だった。


「どうした、雅雄! もう手も足も出ないか!? 泣いて喚いて神林でも業田でも呼んでみろよ! 昔からそうだった! おまえにはそれしかできないだろ?」


 いたぶっているつもりか、赤松は攻撃を仕掛けることなく雅雄を嘲笑う。しかし雅雄は何も言い返せなかった。常識的に考えれば、この状況から逆転するためにはメガミが助けに来るという都合のいい期待をするしかない。


 無論、そう都合よくメガミだって来るわけがない。もう一度ツボミとともに薔薇の剣士になるしかないが、上手くいくのか。上手くいったとしても勝てるのか。絶体絶命のピンチである。もはや為す術なく殺されるという未来しかないのではないか。雅雄は思わずうなだれるが、声が聞こえた。


「フフフ……。お兄様、私の言うとおりにしていればよかったのに。私の出番かしら? お兄様はかわいい格好になっちゃうけどね」


 雅雄の前で真っ赤なドレスを身に纏ったミヤビがクルクルと踊っていた。ミヤビは幽霊のように半透明である。こんなところでも幻覚が見えるとは。末期症状だ。


「え……? 雅雄が二人……? いや、ミヤビちゃん……? どういうこと?」


「なんだ? 何が起こってる? また女が雅雄を助けに来たのか?」


 ツボミも赤松も、何やら声を上げていたがもはや雅雄の耳には入っていなかった。雅雄の目に映っているのはミヤビだけだ。


「……君の出番はないよ、ミヤビ」


 自然と、先ほどまで思っていたことと反対の言葉が出てくる。冷静な思考とは別に、自分の中で燻っているものに火がついていた。雅雄の意志はゆっくりと芽を出し、雅雄の中で形を作っていく。


「どうして? 私ならお兄様を助けられるわ。だって、私とお兄様は正反対で同じだもの。私もお兄様もかわいいもの。ウフフ……」


 ミヤビは笑うが、雅雄ははっきりと拒絶する。


「だとしても、君の力は借りない。だって、僕にはツボミがいるから……!」


「雅雄……!」


 雅雄の言葉に、ツボミは目を潤ませる。雅雄の本心だった。言ってしまってから、雅雄は体を震わせる。たとえミヤビがメガミや静香をどこからか呼んできて勝てるのだとしても、それでは意味がない。雅雄はツボミとともに勝たなくてはならない。


「それじゃあお兄様には、私はもう必要ないの?」


「必要ないよ」


 雅雄は即答し、ミヤビは狂ったように笑いながらドレスを振り乱して周囲をクルクルと回る。


「アハハハハ! 私、お兄様に捨てられちゃった!」


「……そうだよ。僕は変わるんだ。新しい僕の中には、君の居場所はない」


「お兄様が言うなら仕方ないわ! 私は、お兄様の願いを叶えてあげる!」


 幽霊のごとく透けていたミヤビの輪郭がだんだんはっきりしていって、実体を伴う。


「アハハハハ! さようなら、お兄様!」


 狂気の笑みを振りまきながら、ミヤビは雅雄たちの前から去っていった。




「今のは何だったんだ……? 俺は幻覚でも見ていたのか……?」


 赤松は呆けたような声を上げるが、桃井が怒鳴る。


「どうでもいいでしょ! さっさとあいつらをぶっ殺しなさいよ!」


「いや、勝負はついたでござろう! 騎士道に則って降伏勧告を……」


 緑沢は言うが、桃井はさらに吠えた。


「甘いこと言ってるんじゃないわよ! 殺せば確実なんだから殺すしかないわ!」


「そ、そうですね……。二本の剣さえ手に入れば、我々は……!」


 青木も賛同し、赤松は決断する。


「そうだな……! 雅雄、ツボミ、死んでもらうぜ!」


 マジンゴーレムはゆっくりと動き始める。雅雄とツボミは、黙ってやられる気なんて全くなかった。


「何がオーバーライドだ! 思っただけで強くなれるなら誰も苦労しないんだよ! 苦労して努力した俺たちの方が強いんだ! 今、証明してやる!」




「雅雄……! ボクたちの思いは本物だよね?」


「うん……! 間違いなく本物だ!」


 雅雄は断言する。隣でツボミがニッコリと笑ったのがわかった。


「彼の戯れ言なんか、ボクらには関係ない……! 見て、雅雄」


 ツボミはステータスウインドゥを開いてみせる。雅雄は目をみはった。


「ツボミ……!」


「レベルなんか上がらなくていいんだ。君と一緒にクリアできないなら」


 Lv.19となったツボミの次のレベルまでの経験値は「COUNT STOP」となっていた。赤松たちのように努力はしてこなかったかもしれない。でも、その分の代償は支払う。


「君のためならボクはボクが望んだ永遠なんていらない……! 受け取って!」


 ツボミは雅雄に永遠を司る黒薔薇の剣〈ブラック・プリンス〉を差し出す。


「僕も、奇跡は君にこそ起こるべきだと思う……! 使ってほしい!」


 同じように雅雄も、奇跡を司る青薔薇の剣〈ブルー・ヘヴン〉をツボミに差し出す。雅雄とツボミはお互いの剣を交換した。


 〈ブラック・プリンス〉を左手に握った雅雄が、〈ブルー・ヘヴン〉を右手に携えたツボミが、息を合わせたように同時に立ち上がる。そして二人は交換した剣を交差させ、叫んだ。お互いを思う気持ちが、強い力に変わっていく。




「今、青薔薇の奇跡は君の手に!」「そして、黒薔薇の永遠を君に捧げる!」


「「奇跡の願いは永遠となり、運命を交錯させる! 目覚めよ、薔薇の剣士!」」




 青と黒のオーラに包まれ、二人は再び一つになる。新しいオーバーライドで進化した薔薇の剣士は戦場に立った。


 薔薇の剣士は現実でのツボミと同様に短くなった髪と、青薔薇と黒薔薇の紋章が刻まれたマントを靡かせながら、右手の〈ブルー・ヘヴン〉と左手の〈ブラック・プリンス〉を構える。


 スラリとした体型と女性的な容貌はそのままだが、短髪になったせいか、どことなく男性らしさも現れていた。ツボミの改造制服に似た黒い上着、パンツも形状そのものはあまり変わっていないが、青のストライプが入ってより派手なデザインになっている。雅雄の持つ奇跡の力がより強く発現しているのかもしれない。


 青薔薇の造花が飾られたつばの広い帽子が風に揺れる。『薔薇の剣士 Lv.70 ロード』。雅雄とツボミの新たなる最強の姿だった。

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